読書感想文:三体X(ネタバレ注意)
中国SF作家、劉 慈欣先生による「三体」。まずは5冊にも連なる星と時間を超えた超大作に大きな感動とSFというカテゴリーが持つ可能性を感じるほどの出来の良さ、そして読みやすく伝わりやすい華麗な翻訳を遂げた大森 望先生に大きな敬意を。
三体X
当作品「三体X」はその三体シリーズのその後を描く「別の作家」による作品で、続編という表現はやや異なる。
言うなれば「作者公認同人誌」というカテゴリーになるだろうか。しかしその構成、ストーリーは同人誌の域を大きく超えていた。三体Xが同人誌と呼ばれる所以は作中に忍ばせた小ネタが原因だろうか。
謎の多い部分を読者の想像に任せた本編、その読者の想像を読者が形にした超大作同人誌を読むにあたって、三体の最終章「死神永生」の各登場人物、バックストーリーに思いを馳せる他なかった。
本編では軽く触れられ、太陽系文明に根絶の一手を施行した「歌い手」の星系も語られ、三体星に行き届いた雲天明が受けた仕打ち、そもそも三体星人の全貌など。意外な人物の意外だった共通点。智子のモデル。どれをとっても所謂、後付設定なのだ。しかし三体Xの著者、宝樹先生が書かれたその情景や設定、キャラクターの振る舞いは正統な三体の続編かと思わせるほどの情報量、固められた設定の上に更に固めて整えられた綺麗な作品だ。
三体人の描写には驚かされた。本当に驚かされたがその直後には「なるほど!」と唸ってしまうその生態系に感服する他なかった。三体人の正体が明かされた時、脳裏に写ったのは三体の初期の方に描写された墓石をなぞる蟻だった。伏線回収などではなく、後付設定だとわかっていてもその練られた正体そのものに感銘を受けた。
雲天明はそのうち人類が知り得る存在のもっともっともっと上の存在になってしまう。わたし達の人智を超えた存在が後半にたくさん出てくる。果てしない宇宙の向こう次元の向こうの話であり、理解が難しいと一瞬感じたがそもそも理解できない世界にキャラクターたちが居るので理解するのをやめた。
宇宙が繰り返し、歴史が「ある程度」繰り返されたときには相対性理論などで提唱されている複数の世界線が本当にあるようだとも追わせる描写、そして「同人誌」ならではの驚愕的な結末に奥付に向かって拍手を送ってしまった。同時に、この結末を読んだのならまた三体を読み直さねばと思わずに居られなかった。(これで三体Xまでまた読み直したときに奥付をみてまた三体に戻るのだ!)
最後に。
武藤蘭が出てきた時流石に声が出てしまった…。たしかに大学生時代ぱっとしない(陽キャから離れている、という意味で)生活をしてきた雲天明にとってAV女優を吟味する時間はそれなりに出てきただろう。
な、なんでよりにもよって武藤蘭なんだ…。
わたしの好きな女優さんが!!!!!智子だったなんて!!!!!!!!
ついでにいうと智子は忍者の格好でお茶を淹れるシーンがあったが…願わくば、その格好がKOFシリーズに出てくる不知火舞の格好でないことを祈る…(武藤蘭は過去に不知火舞のコスプレをしている)
三体Xの描写に日本が災害や地震が多いゆえに沈没する可能性を考慮して大陸へ移ろうとする描写が一瞬だけ書かれる。
それを見てまだ読んだことのないあの名作といわれている次のSF作品を読もうと心に決めたのである。
劉 慈欣先生、並びに宝樹先生、日本語翻訳に努められた大森 望先生
そして多くの刺激を宝樹先生に与えたであろう磁鉄の皆様に改めて大きな敬意を。