「発酵」をカジュアルに届けるクリエイティブを。デザイン視点で深堀りしていく博覧会「発酵で旅する東京の森」
多摩エリアの発酵食を巡る旅をテーマにした博覧会「発酵で旅する東京の森」が、2022年11月に東京都立川市にあるGREEN SPRINGS 2F TAKEOFF-SITEにて開催されました。SKGはアートディレクション・デザインに携わっておりロゴ、パンフレットや展示物のアートディレクション・デザインを担当しております。
今回はSKG代表の助川とクリエイティブディレクターの永井史威さんから今回の博覧会の制作についてお話を伺います。デザイナー視点を知ることで、いつもと違った展覧会の楽しみ方が見つかるかもしれません。
「遊び心」のあるデザインの源を辿る
- 「発酵で旅する東京の森」の開催に向けて、キュレーターである発酵デザイナーの小倉ヒラクさんを中心に現地へリサーチに訪れたと聞きました。取材はどのようなものでしたか。
助川:現地取材はとても面白く、発見がたくさんありました。僕がはじめて同行したのは青梅の小澤酒造。酒蔵を見学したり、お話を聞いたりして、博覧会ではどんな見せ方にしようか考える時間が楽しかったです。このときの感動をできるだけわかりやすいデザインで伝えたいと思いました。
永井:僕の場合は、実際に現地を訪れて歴史や文化を読み解いて、博覧会でみなさんに体験していただくエピソードを編集する役割として取材に臨みました。
多摩エリアで発酵にゆかりのある場所14ヶ所を訪れて知ったのは、発酵食品には時間とエリアの軸があり、エピソードがあるということ。多摩は昔から水が綺麗で、日本酒が作られ、その地域に住む人たちの畑仕事の休憩に食べる酒饅頭という郷土食が生まれたというお話があれば、戦後に米軍基地ができて人が増えたことにより消費が拡大して納豆を作る人が出てきたり、最近はビールやチーズを作る人が現れたり。
14ヶ所を訪れたからこそ、多摩の歴史や文化、人の暮らしの文脈を読み解くヒントが見つかり、僕たちなりの表現ができたんじゃないかと思っています。
- インスピレーションが多摩エリアの現地にあったんですね。発酵ツーリズムのイベントでは、その地域のクリエイターとチームを組まれるとのことですが、助川さんに声をかけたのはなぜでしょうか。
永井:僕は国立に自宅兼事務所があるのですが、多摩エリアはとても広くて人も多く、ビール会社や酒蔵、野菜などは地元の人に消費されていて地域独自の経済圏があります。多摩エリアで活動しているクリエイターも多く、カルチャーも存在しているのですが、僕自身は今回の博覧会のクリエイティブは多摩に留まらない空気感を入れたいと思い助川さんに声をかけました。
永井:また「発酵」のイメージとして、ほっこりした印象・仕上がりになりがちなので、今回の展示では全体的にエッジを効かせたいとも考えていました。「発酵デパートメント」のクリエイティブもかわいらしさの中に尖った部分があると感じていて、その要素を入れたかったんです。
僕は助川さんの「エッジが効いているデザイン」を信頼しているのですが、なかなか際どいところを攻めてくれるんですよ。それが活きれば、この博覧会は良いものになると思っていました。
助川:例えばメインのビジュアルに写真を持ってきたのは発酵ツーリズム展としては初めてですよね。
永井:デザインは発酵デパートメントを踏襲するかまったく別物にするかを最初に話しましたよね。まったく同じものだと新鮮ではないし、でも遠すぎると関連性が薄れて伝わりづらくなるから、どこを残してどこを飛ばすかというのをかなり話し合いましたね。
「発酵」にエッジをプラスしてみると...?
- ロゴもSKGが制作したんですよね。
助川:そうですね。実は今回のプロジェクトで動画をお願いしたLAFHの関山雄太くんに「発酵文化を知ろう」と誘って、下北沢の発酵デパートメントを訪れたんです。
その際に発酵デパートメントCOOの黒江さんが出迎えてくれて、「鮎のなれずし」や「すんき」などの僕らの知らない発酵食品を詳しく紹介してもらいながら戴きました。その一つひとつの説明が興味深く、初めて食べる発酵食品もとても美味しくて、この体験が本当に面白かったんですよね。高揚感の余韻に浸りながら翌日にはロゴがほぼできていました(笑)。
- ロゴを囲む台形にはどんな意味があるんですか?
助川:タイトル文字が長かったので、うまく収まるように囲んだのですが、後々の博覧会でもアイコンとして活かせるのではないかと考えました。
「山」にも見えるし、いくつも重ねれば「森」にも見える。引っくり返せば日本酒の御猪口にも見えますよね。今回の博覧会で紹介する多摩の発酵食品と結びつけられると思い採用しました。
- SKGの「遊び心」が感じられますね。今回の博覧会のデザイナー目線での見どころを教えてください。
助川:「発酵食品をキャッチーに紹介する」というヒラクさんのスタンスにみなさんが共感しているところだと思うので、いままでのヒラクさんの活動を尊重して、ポップな雰囲気を大切にしました。また、会場構成を担当した淺野雄太さんがヒラクさんと永井さんの日本酒のボトルコンテナをを組んでレジブースを作るアイデアを実現してくれたり、永井さんが会場の広さを見て天井にバナーを吊るしたいと提案してくれたり、みなさんのアイデアが詰まっています。
主催の「青梅線エリア女子旅推進委員会」からいただいた「女子旅」というテーマ、ヒラクさんの想いや、みなさんのアイデアをうまくデザインに落とし込んで行くのが僕の役割でもあったので、そういう部分をデザイナー目線で見ていただくと面白いと思います。
また、動画に登場する旅人をヒラクさんの友人でもあるミュージシャンにお願いしました。女性がSEBASTIAN Xなどで名の知れる永原真夏さん、男性がnabowaなどで知られる山本啓さんです。音楽も既存音楽をBGMにするのではなく、山本啓さんに作っていただいたこだわりがあります。ヒラクさんも僕も音楽カルチャー出身でもあるので、一般的な「女子旅」とは違った成果物になっているんじゃないかと思っています。そこもぜひお楽しみいただきたいですね。
「発酵」をカルチャーとして捉えてカジュアルに届ける
- 訪れるお客さんを見ると世代を問わずにたくさんの方がいらっしゃっていますね。外国の方もいて、たくさんお買い物されていました。クリエイティブでどんな伝え方を意識していましたか。
永井:博覧会がスタートして、幅広い方々が発酵食に興味を持っていると改めて感じました。クリエイティブについては、やはりポップであることを意識しています。「発酵」について専門で研究されている方たちもいますが、今回の展示では一般の方に興味を持ってもらうことが目的なので。
助川:入口に酒樽を配置することで、「ここはなんだろう」と目を引くレイアウトにしています。
永井:発酵を“カルチャー”と捉えてカジュアルに見せようという話もしていましたね。
助川:僕たちの世代では、レコードを探し求めることを「ディグる」と言うんですけど、「発酵食品をディグる=深ぼる」感覚で楽しんでいただけるよう、サブカルチャーを意識しています。恋人や友人とレコード屋に行くような感覚で、若い方にも発酵カルチャーに浸っていただけたら嬉しいです。
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おふたりの話をお聞きして、デザインは事務所の机で生まれるのではなく、インスピレーションの源泉となる場所に赴き、人々と交流することで、キャッチーで共感を呼ぶデザインが生まれるのだと感じました。
歴史や文化、人の営みを取材して、私たちの目を引くデザインを作り上げていくお話はまさに小倉ヒラクさんの『発酵文化人類学』や『日本発酵紀行』に通じる部分があるのではないでしょうか。
SKGでは今回のプロジェクトのように、デザインの前段階からコミュニケーションを丁寧に行い、デザインのヒントを汲み取ることを大事にしています。そうすることで、いまを生きる誰かの元へ届き、さらには未来にも残る息の長いデザインになると信じています。