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経営のそばにデザインを。創業80年の製造会社が自社ブランドを確立するまで

京都で「包装関連機器」と「コンバーティング関連機器」の2つの分野、「PACK」「LPC」「AIREX」「UE」の4つの事業を展開する、産業用機械器具製造会社「株式会社三橋製作所」。

1950年代から大手精密機械メーカー製品の製造と、自社ブランド製品の開発・販売を両立する状況が続いていたところから、少しずつ自社ブランドの確立に向けて動き出します。

SKG代表・助川との協業を通じて、それまで統一感に欠けていた販促ツールのデザインを1つずつ刷新。助川はブランドコピーやホームページ、製品カタログの制作をはじめとするブランディングデザインを担当しました。

三橋製作所の代表取締役社長・三橋宏さん(以下、三橋社長)と長期的なパートナーシップを築くなかで、あらためて企業の特色を整理していき、「手にかわる“手”を。」というブランドコンセプトも作成しました。

今回は、「経営のそばにデザインを置くことの重要性」をテーマに、三橋社長との対談を前編・後編にわけてお届けします。

前編では、ブランド価値を高めるためのデザインと経営の関係性について三橋社長に話を伺いました。

三橋宏(みつはし ひろし)/ 株式会社三橋製作所 代表取締役社長
早稲田大学を卒業後、株式会社三橋製作所に入社。1988年より代表取締役に就任。2023年秋の叙勲で「旭日単光章(きょくじつたんこうしょう)」を受章。

学生時代の思いがけない縁が、長きにわたるパートナーシップの始まりに

– まずは、おふたりのパートナーシップが始まったきっかけについて教えてください。

三橋:助川さんとの出会いは、私が息子と参加した京都の友禅工房のワークショップでした。スポンジを使って、うちわに染物の絵柄をスタンプするような体験型のワークショップだった記憶があります。

助川:京都工芸繊維大学の学生時代、僕が所属していた研究室が工房のブランディング活動の一環として開催したワークショップに、三橋社長が参加してくださいました。そのとき、社長のテーブルをたまたま僕が担当させてもらうことになって。

三橋:当時の弊社は大手精密機械メーカーの製造会社の一つ、つまり下請け会社でしたが、私の先代である父の時代から自社製品を持つ重要性は認識していました。そして私が代表に就任した後、いよいよ自社ブランドの確立に本腰を入れることに。

しかし、自社製品はあるものの、ホームページやカタログなどのデザインがバラバラで……。ブランドイメージを確立するには、自社のことを周囲に伝えるツールとしての統一性が必要だと感じ、助川さんに相談してみることにしました。

– そこからどのようにして三橋製作所のブランディングを進めていったのですか?

三橋:まずは企業のブランドカラーを、えんじ色から鮮やかな赤色に統一してもらいました。

助川:そうでしたね。ただ、ブランドカラーを考えると同時に、統一化にはキービジュアルも必要だと感じていて。ニッチな製品群をシンプルに表現したいと考えた末に、三橋製作所の製品は「手」の動きに置き換えられるという発想に至ったんです。

「手」は誰にでも身近で、直感的にわかりやすい。製品群の本質的な価値を「手」をモチーフにしたデザインで表現できれば、専門知識がなくても製品の特徴や使い勝手のよさは伝わるはずだと。

その後、製品群も何かしらの色で整理すべきだと感じ、コーポレートカラーが際立つ配色を選定。ホームページに記載している製品カテゴリーのアイコンにも手の形を取り入れたり、製品カタログの表紙にも反映したりと、キービジュアルの露出を高めていくことで統一感を出していきました。

コーポレートカラーは情熱を表現する赤を採用。2事業4分野に設定した各カラーは、コーポレートカラーの赤と合わせた際に、赤が引き立つよう設計

助川:デザインの統一は、20年という三橋社長との長いお付き合いのなかで徐々に進めていったものです。たとえば製品カタログであれば、新製品が誕生したとき、展示会のタイミング、カタログの在庫がなくなったときなど、長年かけて徐々に真新しいデザインを取り入れていきました。

助川:統一感に関する課題をクリアした次は、ホームページを刷新するにあたりブランドコンセプトを言語化するべきだと考えました。そこで、三橋製作所の伝わりづらいニッチな事業を定義することや、そもそもの存在意義を見つめ直しましたね。三橋社長を含め、各部署からメンバーを選抜していただきプロジェクトチームを組んで。

ブランドコンセプトは経営の中核を担う領域。一見するとデザインが介入しない領域だと思われるかもしれませんが、御社との長年の関係性から、デザイナーである僕も製品群の特徴や強みを深く理解していたので、一緒に言語化を進められました。こうして生まれたのが「手にかわる“手”を。」です。

三橋製作所のホームページ

三橋:私たちの製品は、人の「手」で行っていた細かな作業を機械で代替することで、お客様の手間を削減しています。助川さんは、そうした製品群の価値や強みを的確に捉え、わかりやすいかたちでデザインに反映してくれました。

助川:御社が取り扱う産業用機械器具製造の中の、コンバーティグやPACKは非常にニッチな分野で専門用語で伝えるとイメージしづらいと思いました。

しかし、「入れる」「揃える」「巻く」「拡げる」といった機械の動きは、手の動きに似ていると気がついたんです。

誰にでも身近である「手」の動きに置き換えることで、専門知識がない方にも直感的でわかりやすいものになる。そんな想いから、御社の製品の特徴や使い勝手の良さを、「手」を使った言葉で言い換えました。

三橋:ホームページリニューアルに至るまでにも、助川さんには学生のころや前職時代から、ホームページや展示会の紙袋の制作など、継続的にお仕事を依頼させていただいていました。助川さんが独立されてからは定額制のデザイン契約を結び、今でもお付き合いが続いています。

こうして、企業の変遷や経営者の想いを本質的に理解してくれているデザイナーにすぐに相談できることは本当に心強いです。

助川:出会ってからもう20年…。なんだか感慨深いものがあります。

最初からブランディングプロジェクトとして始動したわけではありませんでしたが、こうした長年の関係性と制作過程を経て、ブランディングデザインが少しずつ整っていきましたね。

僕も学生時代からデザインの仕事を任せていただき、三橋社長からは非常に多くのことを学ばせていただきました。一緒に取り組ませていただいた仕事の経験が、今のキャリアにつながっています。出会いに本当に感謝しています。

自社ブランド確立で見えた、デザインが経営にもたらす価値

– そもそもなぜ、三橋社長は「デザインの統一性」が大切であることを認識されたのでしょうか?

三橋:京都府南丹市に本社を構える「男前豆腐」がひとつのきっかけでした。当時から男前豆腐はデザインにこだわっていて、ブランドの世界観を一貫して伝えられていることに私は衝撃を受けたんです。その裏では経営者とデザイナーが密に連携しながら商品のネーミングやパッケージ制作を進めていったと聞きます。

そこで自社の特色を伝えるためにデザインを取り入れるのは大切なのだなと。

– 実際に自社のブランドデザインを統一してみていかがでしたか?

三橋:見た目の統一感とブランドメッセージが明確になったことで、お客様への訴求力は大きく向上しました。

展示会では、弊社の製品を取り入れてくださっている会社からブランドコンセプトを活用したいという声をいただいたり、「ホームページがしっかり整っているから、三橋製作所に頼もうかなと問い合わせをした」という声をいただいたりと嬉しい反響もあったんですよ。

ブランドデザインの統一が、結果的にお客様の信頼にもつながっていることを実感しました。

そして、産業用機械器具製造の中でも非常にニッチな領域において、ブランドデザインを統一したことで、周囲に「他との違い」を提示できたうえに、自社プロダクトの便益と独自性をわかりやすいかたちで伝えることができたのです。

助川:三橋社長がおっしゃるとおり、デザインが果たせる役割のひとつが「差異化」です。

三橋製作所の製品群は、単に「パッケージデザインが優れているから」という理由で手に取るものではありませんよね。

お客様は製品の中身も含めて、何をしている会社なのか、強みはどこにあるのか、印象はどうかなど、三橋製作所の特色を知った上で自社に取り入れるかどうかを決断されるはずです。そんなお客様との接点であるホームページの印象が良くなったことには大きな意味があると感じています。

三橋:本当にそうですね。たとえば、「どの企業を選んでもそれなりに満足できる」となった際に、他との違い、つまり「企業の強み」や「独自性」を正しく伝えられていなければお客様には選ばれません。

弊社の場合、自動化や省人化を図る自社ブランド装置の開発に加えて、迅速な対応や、お客様の手を煩わせないようにする“手段”としてアフターメンテナンスなどのサービスも拡充していることが最大の武器であり、お客様から評価していただいているところでもあります。

こうした企業の特色を正しいかたちでお客様に届けられているのは、強みや独自性がデザインによって可視化されたことが大きいです。

助川:デザインは他とは違うことを表現する手段であり、イメージを向上させるためのものでもあり、自分たちの意識を高めるためのものでもあります。デザインとしての役割を果たせているようでとても嬉しいです。

社員の皆さんにブランドデザインを伝える上でも、特に「差異化」の役割から伝えることで、デザインを統一することの重要性を理解してもらいやすくなるのかもしれません。

社会的評価を得て「旭日単光章」叙勲へ。デザインを経営のそばに置く意義とは

– 「デザインが経営に与える価値」についてはどのようにお考えでしょうか。

三橋:デザインはブランディングを構築する上で欠かせないものであり、今回の旭日単光章※の叙勲はその価値の表れでもあると感じています。

※旭日単光章(きょくじつたんこうしょう)…地域経済を牽引する能力を有する企業で、売上高500億円未満の企業の経営者のうち以下を満たす者。総業務歴概ね20年以上、社長歴4年以上、地域経済を牽引する取組を行い、地域経済の発展・活性化に貢献した者に贈られる。春秋叙勲の対象者は、国または公共に対し功労のあった方で、(1)70歳以上の方、または(2)55歳以上で精神的または肉体的に著しく労苦の多い業務や人目に付きにくい分野で長年業務に精励した方。(参考:政府広報オンライン「勲章のはなし 国が功労を表彰するということ」)

三橋社長は2023年秋の叙勲において「旭日単光章」を受章

三橋:正直、私が叙勲の対象になるとは思ってもいませんでした。

それでも今回こうして賞をいただけたのは、三橋グループを支えてくれている社員全員のおかげであり、ホームページをはじめブランディングデザインが整っていて、数ある企業のなかでも審査員の方々の目にとまるような他者との差異化ができていたから。地域経済の発展・活性化に貢献していると認めてくださったのも、弊社の「らしさ」を伝えられていたからこそなのだと思います。

助川:ありがとうございます。三橋製作所のブランディング活動が対外的な評価にもつながっていると思うと大変光栄です。

– デザインは企業価値の向上に大きな影響を与えるのですね。継続的にブランディングに取り組んできて、三橋社長は経営にデザインを取り入れるには、経営者とデザイナーそれぞれにどのようなことを意識すべきだと思いますか?

三橋:私が最近拝読した書籍『デザインを、経営のそばに。』では、「デザインの4つの力」が以下のように紹介されています。

① 問いを見つける
② 想像を可視化する
③ 整理しわかりやすくする
④ 心を動かすカタチをつくる

引用:『デザインを、経営のそばに。』かんき出版

これってまさに経営課題の解決の流れと同じなんですよね。デザインは経営戦略の中核を担う存在であり、企業価値を高めるための経営資源。この本を読んで、経営者は、自らがデザインの本質的な役割を理解した上でデザインに関わるべきなのだと再認識しました。

さらに、デザインを経営の“そば”に置くためには、経営者とデザイナーが忌憚のない意見交換ができる関係を築くことが大切です。

企業の特徴やカルチャーを理解してもらうには時間がかかるからこそ、一時的な関係では経営にもたらす価値である「統一性」や「差異化」は実現できません。デザイナーには、企業の特徴や抱えている課題、独自性を肌で感じられる距離にいてもらうべきだと考えています。

助川:デザイナーが経営者と目線を合わせることで、より効果的で説得力のあるブランディングが可能になると僕も信じています。ウェブサイト、ブランドコピー、製品カタログなどコンテンツを単体でデザインするのではなく、ブランディングの視点を持って総合的に制作することこそ、デザインの本質的な価値なのかなと。

デザインがブランディングの一助となるには、単に経営の「そばに置く」だけではなく、PDCAをまわして一つずつ課題を解決していく必要があります。双方の想いや熱量が同じでなければ、ブランディングは点で終わってしまいますから。

三橋社長は常にデザイナーの視点も理解しようと努めてくださるので、僕も言うべきところは主体的に伝えて、積極的にブランディングに関与できました。意見交換できる関係性ができているのは、三橋社長の器の大きさがあったからです。

三橋:身近なパートナーとして相談できる関係性をつくり、一緒にブランドデザインをつくっていくことこそが、デザインの力を経営に最大限活かすための鍵なのかもしれませんね。

特にブランドコンセプトの策定においては、助川さんには弊社の特徴や強みを理解してもらっていたからこそ、経営者の視点だけでは気づけなかった新たな価値を見出すことができました。

助川さんはデザイナー、私は経営者。役割が違うからこそ、幾度にもわたる話し合いを通じてそれぞれの視点を共有し、見方を変えていくことで、今の三橋ブランドが完成したのだと思っています。デザイナーの視点を経営に取り入れることで、より効果的で説得力のあるブランディングが可能になるのだと実感しました。

助川:経営の中核ともいえるブランドコンセプト策定にデザイナーの視点を取り入れることで、自社の特徴や強みを明確に伝えられる。それは、企業の存在意義を社会に対して示す上で、非常に重要な意味を持ちます。

三橋社長の旭日単光章の叙勲は、ものづくりへの情熱や地域社会への貢献など、社会的な功績が評価された結果。そこにブランディングデザインがわずかでも寄与できたのなら、僕たちも大変光栄です。

SKGは経営者の方々と同じ目線に立ち、丁寧にヒアリングをしながら、デザインの観点からビジネスの課題解決に取り組むことを心がけています。何より信頼関係を大切にし、共に歩んでいくなかで、新しい価値を生み出していければと考えています。

後編では、ブランディングが社内にもたらした変化や、経営におけるデザインの可能性についてお伺いします。

✍️SKG株式会社
2014年設立。「デザインで、本当の助けに。」をミッションに掲げ、クライアントが抱える課題をデザインの力で根本的に解決することに取り組んでいます。ブランディングデザインをはじめ、クライアントの事業やサービスの競争力を高める様々な制作物をデザイン。課題の本質を探り当てる、クライアントの本心に迫るコミュニケーションを大切にしています。
https://s-k-g.net/

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