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「入り組んだ」建築と信条のリンク / SKGロゴデザインの視点「盛田昭夫塾」

今回から、私たちSKGのロゴデザイン事例を紹介する連載を開始します。

SKGでは、「ブランド=人」と捉えています。人の「名前」がブランド名で、「顔」がロゴ。「信念(心)」はブランドコンセプトです。

▼ブランディングデザインの詳細については、こちらの記事をご参照ください

顔となるロゴは、ブランディングにおいてとても重要な意味を持ちます。その制作背景やロゴに込めたこだわり、ストーリーをお伝えすることで、SKGが大切にしていることや我々ならではのクリエイティビティを楽しんでいただき、読者のみなさんの何かしらの助けになれれば嬉しいです。


プロジェクト開始当初から関わり、ロゴを作成

今回ご紹介するのは、記念館「盛田昭夫塾」のロゴデザインです。

依頼をいただいたのは2017年のこと。知人を通じて記念館の建築を担当されたラウンドテーブルの小栗さんと出会い、小栗さんの紹介でプロジェクトに参加しました。

ソニーの創業者のひとりである盛田昭夫氏と、その妻・良子さんの人となりを紹介する記念館を設立するというものです。

写真: 山本康平

参加した当時、このプロジェクトでは建築は決まっていたものの、記念館の名前や展示内容についてはこれから話し合う段階でした。

盛田家に残された遺品やアルバムなどを見ながらプロジェクトメンバーと展示物やコンセプトなどについて議論の一方、『MADE IN JAPAN』を始めとする昭夫氏の著作や関連書籍を読み込んでいきました。

『盛田昭夫塾』という記念館の屋号が見えてくると、構想をカタチとして提示すべく、次の会議でロゴを複数案提出することに。その会議にて満場一致で決定に至ったのがこのマークです。

ロゴマークの他にも、グッズや名刺カード、他のデザインなどのグラフィック全般をSKGが担当しています


建物の平面図を落とし込む / 制作したロゴマークへの想い

盛田昭夫塾という名前には、訪れた人が何かしらを学び取れる場にしたいという意味を込めています。

「学びの場」は抽象的な概念でもあるので、その意味合いに何か具体的なモチーフをかけ合わせることでロゴマークを作ることにしました。今回の件に限らず、このような着目と造形力によって、ロゴはより素晴らしくなるのではないかとも考えています。

さまざまな案があったのですが、このマークでは建物の平面図がモチーフとして用いられています。ドローン写真を見ていただくとわかるのですが、この建物は複雑に入り組んだような形をしています。ユニークな形をしているため、ロゴマークに取り入れると印象的になるのではないかと考えました。

建物を上空から眺めた様子 写真: 助川誠
写真: 山本康平
写真: 山本康平

建築をマークのモチーフにすること自体は、それほど珍しい手法ではありません。例えばパリのCentre Pompidou(ポンピドゥー・センター)のシンボルマークは、象徴的な建築そのものから生まれています。国内ですと、金沢21世紀美術館もそうですね。

それでも私たちがシンボルマークに建築を取り入れたのは、キューブが組み合わさった建築平面図の形にもう一歩踏み込むことで、建築とプロジェクトの想いがリンクしていることを読み解いたからです。

メンバーと議論するなかで、盛田昭夫塾の大きな目的は3つあることが話題に上がっていました。

1, ソニー視点の館ではなく、「家族」視点だからこそ見えてくる盛田昭夫氏を取り上げたい
2, 昭夫氏がプライベートと仕事をあまり「区別しない」人物であることを表現したい
3, 後世に昭夫氏自身と、昭夫氏や良子氏と関わった人々の功績を残したい

盛田昭夫語録には「人生はやっぱり縁ですね」という言葉も。「やっぱり」という言葉に重みを感じずにはいられません。 『盛田昭夫語録』(編者 盛田昭夫研究会)より

昭夫氏は、プライベートな場でも常に頭の中に仕事を置いているような言動があったり、仕事関係の客人を頻繁にご自宅に招いてもてなしたりと、公私を分けない人物像をお持ちでした。

そんな話を思い返しながら平面図を見ていると、入り組んでいる間取りが、昭夫氏のキーワードである「区別しない」「ご縁」と結びつく点があるように感じました。また、四角の重なりが右上に上がっている様子は、未来や後世を連想させます。

ロゴマークに建築を取り入れることによって、盛田昭夫塾への想いを込めることにもなるのではないか?そう考えてこの案を提案しました。


後日談ですが、建築家に平面図のコンセプトを伺ったところ「区別しない」「ご縁」といったキーワードは登場しませんでした。

それよりも、「豊かな自然に囲まれた日本家屋(本家)や庭園と記念館をどう溶け込ませるか?」や、「展示空間内の人の導線やその人の受ける感覚等」を考慮されていたそうです。さすが建築家の視点だと感服しました。

さて、建築だけでなくロゴのモチーフにもなったキューブですが、キューブが用いられている箇所はまだまだあります。館に入ってすぐの壁面で出迎える昭夫氏のビジュアルには背景に大きな一つのキューブが配置されています。

また、館内で配布されるテキストの表紙はタイトルとキューブのみのシンプルなデザインで構成されています。

これにはキューブがモチーフになっている展示空間を見つつ、手元のパンフレットのキューブにご自身の学びを入れて持って帰ってほしいという想いを込めています。表紙のキューブを“塗り”ではなく、“線”の表現にしたのはこのような理由によるものでもあります。

ロゴに込められた意図を解読する感覚も、塾のイメージに合っていると思いませんか?


ここまではシンボルマークのお話でしたが、ロゴタイプにも想いをのせています。

この書体は、昭和を代表し、身近なところですと無印良品やLoFTのロゴデザインもされたグラフィックデザイナー・田中一光氏によって生まれたものです。

実は田中一光氏と昭夫氏は親交があったようです。盛田家に残された写真資料のなかに2人が映っている写真を発見し、「ご縁」を大切にしている昭夫氏の記念館だからこそ、この字体を使いたいと考えました。採用されたロゴタイプは、田中一光氏の書体をベースに微調整してます。


ご本人の字体や、ゆかりのものを組み合わせて

当初提案していた、他のロゴマークもご紹介します。

昭夫氏の名刺に使用されていた書体に由来したロゴタイプや、横からながめた建物のモチーフ、建築をAkio Morita LibraryのA・M・Lに見立てたもの......など30案以上を提案しました。※写真は一部


最後に、『盛田昭夫塾』のロゴデザインが生まれた3つの視点をまとめます。

SKG流ロゴデザインの視点👀
☑️プロジェクトを俯瞰してロゴデザインに落とし込む
☑️機能(学びの場)×ゆかりのあるモチーフ(建築/筆跡/人物像)をかけ合わせてみる
☑️モチーフ(建築)とメッセージ(信条)をリンクさせてみる


今後もSKG公式noteではデザインが身近になる制作エピソードや、デザインのコツをお伝えしていきます。

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