未知の出会い
未知の出会い
半年前くらいからその日が来ることはわかっていた。早いような鈍いような不思議な速度と変な緊張感がぼくらの生活を支配していた。
半年も時間があったから、その場面を迎えた時のシミュレーションをたくさんした。
例えば立ち会いをするために少し余裕をもってかけつけることとか、出会った瞬間泣く自分とか、妻にかける言葉とか、何のカメラ持っていこうとか、誰に報告するとか、などなど妄想を沢山して来る日が待ち遠しかった。
それと、2人の生活というのを噛み締めるように過ごした。順調に暮らしを営むことができたら、2人の時間というのは何十年後先になると思ったものだから、特に旅することは力をいれたものだ。
これまでの2人の生活がある意味なくなることが不思議で、望んだ展開なのに捨てがたくて、感情の矛盾もあったりで、たぶん自分でも気付かないほど感情はざっぱーんってビッグウェーブに乗ってた気がする。
写真らたくさん撮った。いつもそれも撮るの?と思われるものも余計に撮った。
日に日に、明らかに膨れていく妻のお腹。
そこには別の何かがいて、会話はできないけど、存在していて、ちゃんと出会っていないのに同じ時間は過ごし始めていたわけで、気づいた時には2人の生活はとっくに終わってた。
そうしてまだ見ぬ生命体の存在が僕らの生活の中心の大部分を圧倒的に占めたころに彼はやってきた。
すごいまぶしい輝きをまとって。
ようこそ、はじめまして、よくきたね。
ちなみにぼくのシミュレーションは、彼の前には無力だった。
立ち会いは全く間に合わなかったし
出会った瞬間色んな感情で泣けなかったし
妻には、大した感謝の言葉は言えなかったし
カメラは絞れず、ありったけ持っていったし
いまだに報告できてない人たちは沢山いる。
これまで色んな人たちに出会ってきて色んな経験をさせてもらってきたけど、彼はそのどれとも違う存在。
分からないことだらけの未知なる人間との生活が幕を開けた。
今は不安もたくさん、楽しみもたくさん。