原子力発電所は緩やかに死へ向かっているのか?
第5次エネルギー基本計画 - 原子力は今後も重要な供給源とする
答えはNoである。世界各国の原子力依存は減速しているものの、本年7月に閣議決定された我が国の『第5次エネルギー基本計画』、では原子力発電への依存度を可能な限り低減としつつも、依然として原子力を重要なエネルギー供給源としている。2011年の東日本大地震により6%程度に落ちてしまったエネルギー自給率を再生可能エネルギーの導入促進や原子力発電所の再稼働により2030年度には24%へあげたい考えてを示しており、化石燃料資源を持たない我が国は、再生可能エネルギーのみならず原子力発電所により電気を得る他ないというのが政府の見解である。
私自身、自分の子供達に安全な世界を残してあげたい思いはもちろん強い。現在の原子力発電所は安全とは程遠いところにある。しかし、現状日本の電力価格は世界的に見ても高いと言わざるを得ない。今の電力価格水準では国際競争力を下げることは間違いないし、何らかの天災や経済危機により円の価値が暴落してしまった場合、更に電力価格に転嫁せざるを得ないだろう。今、先進国は電気自動車、人工知能、ブロックチェーン等、電力需要を押し上げる技術の導入を前提とした未来へと突き進んでいる。従って、安全に使えることを前提にするのならば原子力発電を切り捨ててしまうのはいかがなものだろうか。
MIT発の原発ベンチャー トランスアトミック・パワー社が廃業
現在の大型炉は大量の発電が可能だが、当然建設費用や安全対策に対する投資がかさんでしまう。従って、大型炉の改良は一つの重点テーマではあるものの、もう一つの大きな課題は次世代型の小型炉の開発である。大型炉に比べて建設費用も少なく、建設期間も短くなるため投資回収も早い。安全性を第一優先に進めていくにしても大型炉に比べたら対策を取りやすいと言った利点もある。安全性の問題、倫理的な問題、感情的な問題等、原子力発電の推進は今後も困難な道であることは間違いないものの、小型原子炉の開発について、MIT Technology Reviewの記事に時折投稿される記事を通じて注目を続けてきた。
さて、トランスアトミック・パワーというMIT(マサチューセッツ工科大学)からスピンアウトして注目を集めたスタートアップが廃業するという。トランスアトミック・パワーは、テラパワー(TerraPower)やテレストリアル・エナジー(Terrestrial Energy)と並んで注目されている原子力発電スタートアップであった。だが、"トランスアトミックが設計した溶融塩原子炉は、従来型の軽水炉と比べて75倍以上の効率で発電でき、また軽水炉の使用済み核燃料を再利用して稼働できると主張していた。(*参考記事参照)"が、この主張に誤りがあり、必要な開発資金の調達が困難になってしまったようだ。
東日本大震災での経験を生かし安全な原子炉の開発を
このトランスアトミック・パワー、MIT Technology Reviewの記事によるとこれまでに培ってきた全ての知的財産をオープンソース化する考えを示しているという。また、同記事によると従来の原子炉よりはるかに廃棄物が少なく、高い安全性などに強みがあったと強調しているという(詳細は下記の記事を参照されたい)。そして、知財のオープンソース化のみならずトランスアトミック・パワーという原発ベンチャーが廃業するというところで、貴重且つ希少な研究人材が流出するということを意味する。ぜひこれらの人材をいち早くリクルートして欲しい。
原子力技術の深いところは私には理解できない。そして、わからないぶん原子力の安全性部分に不安を抱えていないとは言い切れない。しかし、中国を中心にまだまだ原子炉の建設は続いていく。中国で原発事故が発生すれば日本は影響を受けてしまうかもしれない。ならば、東日本大震災により得た知見・教訓を生かし、ぜひとも安全な原子炉を開発し、隣国らへ輸出していくところをぜひ実現してもらいたいものだ。日本のみならず原子力発電へ期待する国々は多い。失敗した当事者だからこそ強い問題意識を持ち、需要を取り込む方向でしっかり推進していってもらいたい。
参考記事:
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32841680Q8A710C1MM8000/
http://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35826940X20C18A9000000/
https://www.technologyreview.jp/s/29974/transatomic-reverses-key-nuclear-power-claims/