私って何者?と思った話
舌がんを患って、舌亜全摘手術を受けてから六年が経った。
退院したばかりの頃は、とにかく回復することと、一日を無事に過ごすことのみに集中していた。リハビリのための通院も週一でしていたため忙しく動いていた記憶しかない。
月日を重ねるごとに、リハビリ通院も卒業し定期検診の間隔も開いてきた。今は定期検診のため半年に一度病院に行っている。
退院後2年間は実家に住み、母が身の回りの世話をしてくれていた。とはいえ、全く動けない状態ではないので、家事や娘の学校行事参加、勉強のサポートと色々できていた。
日常生活にさほど支障を感じなくなったので、自分の家に戻り、病気前と同じように家事や学校のこと、ご近所のことを何事もなかったかのようにこなして暮らした。
お腹より上に上がらなかった腕はリハビリのおかげで真っ直ぐに上がる様になり、布団干しや、お風呂の天井掃除までできるくらい回復。力が入らずに重い物が持てなかった両腕に、今や沢山の重い食材を一気に抱えて帰るくらいの体力もついた。
娘が高校に進学した頃『娘が大学生になったら、私やることなくなるなあ。生きがいを探してみよう』と思い立ち『就職するための訓練』をやってみようと考えた。
舌亜全摘手術で病巣は全て取り除かれ、病理検査でも転移はゼロだったとはいえ、嚥下機能障害と不明瞭な発音は残ってしまっているので障害者申請をしたが、日常生活に支障がないと判断されて、障害者手帳はもらえなかった。
そんな時ネット検索で『障害者手帳をお持ちでなくてもOK』という文字が飛び込んできたので『障害者就労支援センター』にWEBで見学を申し込んだ。
予約した時間に支援センターを訪ね、入り口で『こんにちは〜見学に来ました〜』といつもの調子で挨拶をしたら、一瞬空気が固まった。何か重要な会議中に大きな声を出してしまったのかと焦ったが、担当者の方がニコニコと出てきて『いや〜ハツラツとした声で元気に入ってらしたのでビックリしました。見学の方でそういう方初めてなので』と笑った。
注意深く見てみると、確かに、一人で黙々とパソコン操作をしたり、部品の組み立てをしたり、スタッフさんと雑談していてもあまり笑わなかったり顔を上げないままだったり、私にはあまり経験のない静けさが広がっていた。
面談室に通されて、支援センターのカリキュラムやサポートの種類の説明を受けてる間、これまたいつもと同じ調子で『わあ〜楽しそう〜!そうなんですね〜』などと反応していたら、女性のスタッフさんが『明るくて爽やかでコミュニケーション能力も高いから、訓練しなくても雇いたいと手を上げる企業さん多いと思います』と不思議そうに、何でここに来たのか分からないという表情で見つめていた。
次の週から体験生としてカリキュラムに参加させてもらった時『あれ?』と感じることが沢山出てきた。
私のように『すぐ分かる障害(身体障害)』の人は私一人だけで、他の方々は『見た目ではわからない障害(精神障害)』だった。
やはりいつもの様に挨拶をしてしまい、ビクッとさせてしまって申し訳ない気持ちにもなったorz
紹介してくれる仕事の資料も見せてもらったが、ほとんどが『人と関わらない仕事』で私が望む職種は見当たらなかった。
そこの支援センターは体験だけで、通うのをやめてしまったが、他の支援センターのHPを見ても、やはり身体障害のみの卒業生のコメントは見当たらなかった。
これは一体どういうことだろう?
家にいて生活するには何の支障もないのは同じ事なのに、身体のみの障害を抱えた人がほとんど支援センターにいない?
もしかして訓練生になっても、すぐに卒業していくという事なのか?いやでも、だとしたら卒業生のコメントに身体障害のみの方のコメントがないのはなぜなのか?
私を担当してくださったスタッフさんに、最終日に言われた言葉を思い出す。
『身体に障害を負われた方は精神にも障害が出てもおかしくないのに、あなたは障害を負われても明るい元気なままでいられる強い人なんだと思います。』
支援センターの訓練生の方々は、皆、障害者手帳をお持ちだった。私は貰えなかったのに何故なんだろう?と今でも疑問に思う。
もしかして、障害を負っていると思い込んでるだけで、ただ単に『滑舌の悪い人』『食べるのが遅い人』という個性なんだろうか?
もしかしたらチャレンジしていないから分からないだけで、普通にパートの面接に行ったら採用されるのかもしれない。
このご時世のせいで、1年間べったりだった娘に『街の中のお店とか、下手するとコールセンターの人とかも、ママより滑舌悪くて聞き取りにくいって人沢山いるよ。ママは電話の受け答えも聞き返されないし、ご近所さんと喋ってても誰も変に思ってないよ。』と言われ、またもや考える。
私って何者なんだろう?
今年から娘がやっと大学に通えるようになる。ますます時間が増えていくので、自分の考えが思い込みなのか否か試してみる必要がありそうだ。
私の体験や考えている事を発信していきたいです。 同じ病気を抱えている方やご家族に明るい話題をお伝えできるよう日々精進!がんばるぞ!