第十六話 「アブダクション」
あれは、秋の夜長に起きた出来事だった。
ふと、目が覚めた。障子越しに月の光が差し込んでくる。いや、月の光にしてはやけに明るい。今は何時なのだろう。今思えば、あの部屋時計が無かったのではないか。少なくとも朝日ではなさそうだ。
私はおもむろに起き上がり、障子をそっと開け、外を見た。部屋の外には少し広めの空き地があるのだが、秋らしく、ススキが生い茂っていた。月の光がススキを照らし、風に揺れるその様子は、まるでスポットライトを浴びて踊っているかのようだった。今も鮮明に記憶に残っている程、子供ながらに、あの描写は美しいと思った。
すると突然、ススキ達が、ムーミンに出てくる「ニョロニョロ」という白く長い生き物に変わり出した。私は呆然とする。空き地いっぱいにニョロニョロがいる。夢かと思ったのだがどうにもそうは思えない。現実味があり過ぎる。さっき目を覚ましたのは間違いない。じゃあこのニョロニョロ達はなんだ。
私はもう一度冷静に空き地を眺める。すると、空き地の上から円盤が降りてきた。空き地の広さと同じくらいの大きさだ。百メートル×五十メートルぐらいはあっただろう。円盤は、空き地の上で漂うように浮かんでいる。私は息をのんで円盤を見つめる。
すると、円盤の真ん中あたりから一筋の光が空き地を照らし、光の中から宇宙人らしき、そう、ご想像の通りの、いわゆる「グレイ」と言われるタイプの形をした、人型の物体がゆっくり降りてきた。
そして次の瞬間、私をまばゆい光が包んだ。
気付くと、朝になっていた。私は布団に横になっていて、ボーっと天井を見つめていた。
「夢だったのか…?」
私は起き上がり、なんとなく体育座りをする。すると、右足のすねのあたりに、ほくろを少し薄くしたような黒い点ができていることに気付く。恐る恐るその黒い点を触ると、なにかコリコリとした感触があった。
「埋め込まれたのか…?」
そう、私は宇宙人に誘拐された。当時矢追純一さんのUFO番組が好きでよく見ていたので、宇宙人の事はなんとなくは理解していた。しかしまさか自分が体験するとは。
私はこの話をクラスの仲のいい友達に話すのだが、いまいち信じてもらえない。まぁ当然か。私はこの話を、二十代前半ぐらいまで事あるごとに知人に披露することになる。残念なことに、今ではホクロのような「しこり」は消えてしまった為、著しく信憑性は下がってしまった。なので私もだんだんと、この話をすることはなくなっていった。
今思えば、ああいう家庭環境だったので、何かしら「おかしく」なっていたのだろう。
しかし、それにしても…。
信じるか信じないかはあなた次第だ。
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