ショートショート/「マウント返し」
ライトワーカー養成講座を主催する男に、一つ大きなチャンスが巡って来た。
新規参加者の一人に、大企業の社長の息子がいたのだ。まだ学生だ。
うまく事を運べば、今までにないような大きな寄進も決して夢ではない。
ここはひとつ、当面の縁を切らさぬよう、この若者を心理的に絡めとっておく必要がある。
男は若者を呼び寄せ、こう耳打ちした。
「誰にも言ってはなりませんよ・・・。実は、あなたは前世、私の一番弟子だったのです。前世においても、あなたを悟りへと導きました。今世、こうして再び出会うことになったのは必定だ、とも言えるのです」
「ええっ!先生は前世で私のお師匠様だったのですか!」
若者は男の言葉を一も二もなく信じた様子だった。
へっ、可愛いもんだ・・・。
男は内心、ほくそ笑みながらも、その思いを一切表情には出すことなく、静かに頷いた。
「この私に前世、そのようなお師匠様がいらっしゃったとは!是非ともお聞かせ下さいませんか!?」
若者は左手を己の胸に当てると、息せき切った調子でこう問うた。
「かつて、この空海めを、悟りにお導きくださったというお師匠様のお名前とは!?」
「・・・・・。」
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