見出し画像

ショートショート/「気づき」

神社は神様のおやしろとは言え、やはり人間の手によって運営されていることは否めない。

場所が観光地にあったり、SNSや雑誌で人気がある神社でない限り、建物の維持費や人件費等をお賽銭やお札の頒布、たまに依頼される神事だけで賄うのはなかなか厳しいものがある。

町はずれの山麓にあるその小さな神社もまた、決して余裕のある状態とは言えなかった。
アルバイトで神社の巫女をしている高校生の女の子は、その神社のことが大好きだったが、建物の傷み方や行事の資金繰りのために宮司が東奔西走する姿に心を痛めていた。

「宮司さま。私、少し考えたのですが、神社運営のためにこういうアイデアはどうでしょうか?最近、デジタル御朱印というものがあるそうです。神社にわざわざ足を運ばなくてもネットで御朱印の映像を購入できるのです」

「ほー、すごい時代だね。若い人が買うのかな」

「そうなのです。こちらの神社でも、そのデジタル御朱印を販売すると同時に、デジタル賽銭のようなものを作って、神社オリジナルのスタンプやマスコットキャラの映像をプレゼントする、ということも考えられるかなと思ったのですが」

宮司はうんうんと頷いていたが、優しい口調で巫女にこう言った。

「いろいろ、考えてくれて本当に有難う。でもね、神様はそれで喜んでくださるかな?神様は、神社まで足を運ぶことをいとわず、そして実際にお賽銭箱にお金を入れて下さり、ここで手を合わせてお祈りしてくれる、そういった方々の行動や思いが嬉しいのじゃないかな?」

その言葉に巫女ははっとした表情になり、頬を少し赤らめて言った。
「・・・そうでした。私、もしかして一番大事な神様の気持ちを忘れていたのかもしれません」

宮司は目に微笑みを浮かべながら続けた。
「デジタルは便利だし、現代社会には不可欠なものだね。でも、実際に目に見えるものの大切さ、手に触れることができるものの温かさ・・・。人にとって本当に重要なのは、そちらなのだと思う」

宮司は神社横の大きなご神木に目を移した。肩寄せ合う葉の間から漏れてくる日の光にかすかに目を細めると、今度は巫女に顔を向け、にっこりとほほ笑んだ。

「あなたはもう頭ではわかっていると思う。目に見えるものの大切さ。でも、そのことを本当に心の底から理解できるときが、きっと来ると思うよ」

だが、そう言って彼女を諭した彼も、そのことを心底悟ったのはつい最近、今年の春だった。

目には見えぬモノ、仮想通貨の投資で大損をして・・・。

いいなと思ったら応援しよう!