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ショートショート/「狂気の降臨」


マッドサイエンティスト、として毀誉褒貶に踊らされた男は、その波乱万丈の人生を終え、神の元へと還った。

男が天界の雲間から上に頭を出すや否や、神は男に駆けより、その体を引き寄せて優しくハグをした。

「大変な人生だったね。でも、君はやるべきことを十分に果たした。
地球製UFOは完成間近となり、フリーエネルギーもほぼ日の目を見た。
いずれも、君の弟子達が間もなく完成させることだろう」

「有難うございます。私自身も大変満足しています。本当に充実した人生でした」

神は嬉しそうに頷くと、
「しばらくは、ゆっくりと休むといい。ところで、全く急ぐことではないが、次の人生でやりたいことはあるのかね?」

「そうですね。ご承知の通りですが、まず私は『マッド』であることが好きです」

笑いながら、男は続けた。

「今回は『マッドサイエンティスト』でしたが、その前の生では『マッドドクター』として医療界の欺瞞と金満体質を指摘し、民間や少数民族に伝わる安全な療法を多くの人々に伝えることができました。
次の人生では、矛先をがらりと変えて、政治に一石を投じてみても面白いかな、と思います」

「なるほど。『マッドポリティシャン』というわけだね」

ただ、と神は続けた。

「あらゆる能力に長けた君のことだ。せっかくだから、別の分野に挑戦してもよくはないかね」

「と、申されますのは?」

神は悪戯っ子のような笑みを浮かべると、雲の間から下界に目を落として言った。

「君の登場を待つまでもなく、今の政治家は全員、間違いなく・・・」

振り返ると、こう言ってウインクした。

「すでにマッドだからね」

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