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『信仰するモノ』

私たちの村では、お狐様を祀っている。
お狐様に仕える巫女として、15になった女子が社に上がり、齢が20になると代替わり
する。
お告げや神託のような形で、時折聞こえる声を村に伝え、村はその恵みを謳歌している。
5年のお勤めを終えた巫女は、社での出来事を話すことを禁じられ、その先の人生を送る。
それが、代々の村の習わしだった。

15になった私は、巫女の務めを果たしている。
社でお狐様に祈っていると、囁くように穏やかな声でお告げが聞こえるのだ。
〈大雨が降るので気をつけなさい〉
〈来年は不作になるので、今から蓄えなさい〉
お告げはしっかりと的を射ており、村は豊かな生活を送れている。

私が19の頃、ある事件が起こる。
社に狐面を被った男が入り込み、私を外に連れ出そうとした。
当然、私を世話する村人に見つかり、追われることになった。
ある村人が矢をいり、狐面の男に当たった。
不思議なことに、男は面と羽織っていた着物だけを残して、忽然と消えてしまったのだ。
私は村人に連れられ、社に戻ることとなった。
村の人々は近隣の村の仕業だと騒いだが、いつしか、その騒動も薄れていった。

……さて、私は日常に戻った訳だが。
《飢饉が起きます。生贄を2人捧げなさい》
《山を切り崩しなさい。獣を残らず狩るのです》
神様は、私の耳元で囁く。
私の身体を緩く抱きしめる手は、見えるだけで4対ある。
以前、横目で見た姿見に移ったソレは、芋虫の様なナニカだった。
私にしか見えない、お告げを告げるソレ。
(きっと、あの時のあれが……)
巫女を連れ出そうとした狐面の男。
不思議と怖い感じはしなかった。
どこかで知っている様な。
前から、知っていたような。
きっと、あれが私たちの神様だったのだ。
(あぁ、けれど……)
私の巫女としての役目も、もうすぐ終わる。
巫女としての役目が終われば、社でのことは何も話せなくなる。
次の巫女の子は、コレがお狐様だと思うだろう。

村は豊かになるどころか、貧しくなる一方だ。
きっと、社に居座る様になったソレは、元来悪いものなのだろう。
お告げは村の状況の悪化を加速させている。
私たちは、どうすることもできない。

あぁ、神様。
私たちが殺してしまったお狐様。

『た す け て』
私たちの、もういない神様に私は願う。

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