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マティスの礼拝堂が六本木にやってきた|マティス 自由なフォルム

マティスといえば、昨年(2023年)上野の東京都美術館で、大規模回顧展が開催されたばかり。

国立新美術館で開催される「マティス 自由なフォルム」では、マティスが晩年に熱心に取り組んでいた「切り絵」の大作や、マティスの芸術の集大成といわれる「ヴァンス礼拝堂」の再現があるということで、ワクワクしながら出かけました。

アンリ・マティス(Henri Matisse, 1869-1954)
フランス生まれ。フォーヴィスム(野獣派)の中心人物で、20世紀を代表する画家のひとり。激しい筆致と自由な色彩が特徴で「色彩の魔術師」と呼ばれる。

ヴァンス礼拝堂の1日を体感

展覧会のみどころは、なんといってもヴァンス礼拝堂の再現

フランス南東の町ニースから、さらに20kmほど東のヴァンス村に、ロザリオ礼拝堂(通称ヴァンス礼拝堂)があります。

マティスは最晩年である80歳頃に構想・建設に携わり、外観だけでなくステンドグラスや司祭服までデザインしました。光の入り方まで計算しつくされていて、時間の経過とともに室内の表情が変わります。

今回の展覧会では、なんと移ろいゆく1日の光まで体感できました。

この礼拝堂は、光を取り込む「青×黄のステンドグラス」と、光を反射する「白黒のタイル画」が向かい合わせに配置されています。光源の位置が動くにつれ、シンプルなタイル画のイメージも変化していくのです。

これが東京にいながら体験できるなんて、すごく嬉しい!

シンプルな壁画の秘密

ところで、タイルに描かれた絵、あまりにシンプルだと思いませんか?

聖書の物語をモチーフにしているのですが(上の絵は聖母とキリストですね)、初めて本で見た時「さすがに手を抜きすぎでは……」と思ってしまいました。

しかしマティスは、このタイル画に臨む前、何度も何度も練習したらしいのです。タイルに描くのは一発勝負ですし、これだけ大規模だと失敗できませんから。

礼拝堂に飾られた3点のタイル画は、シンプルに見えて、ものすごく深く考え抜かれたもののようです。

その秘密を知りたい方は、岡﨑乾二郎先生の『ルネサンス 経験の条件』の「Ⅰ アンリ・マティス」の章を読んでみてください。

正直なところ、岡﨑先生は頭が良すぎるので、じっくり読み込まないと理解できないのですが、わかるとめちゃくちゃ面白いです。

上の壁画《十字架の道行》の中央付近に描かれた「ヴェロニカのハンカチーフ」(6という数字が振られている部分)に関する考察を読んだ時は、絵の見方がひっくりかえるくらいの衝撃で鳥肌が立ちました。

私の力量ではざっくり説明することができないのですが、次のことを知っているだけでも、絵の理解が深まるかもしれません。

  • イエスが死刑を宣告され、十字架にかけられ、墓に納められるまでが描かれている。

  • 信心深い女性ヴェロニカが差し出した布で、処刑前のキリストが汗をぬぐったところ、布にキリストの顔が浮かび上がったという逸話がある。(→その布が「ヴェロニカのハンカチーフ(聖顔布)」)

  • この壁画の中で、6番だけが囲まれた線の内側に描かれていることで、どんな効果が引き起こされているか?

できれば、本のこの部分だけでも読んでから行くと、マティス展をより楽しめると思います。


マティス 自由なフォルム
会期:2024年2月14日〜5月27日
会場:国立新美術館 企画展示室2E(東京・六本木)
公式サイト:https://matisse2024.jp/

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