25才まで生きた心地がしなかったアラサー女の半生 #8
不動産のHさん
実家は、祖父の代まで養豚業を営んでいました。しかし父はそれを継がず、祖父が残した田畑で生計を立てようとしますが、これに失敗。よその農園に働きに出ます。これにより、豚のいない豚舎(豚を飼うスペース)の跡地を含めた、ムダに広い実家の土地には、高めの固定資産税がかかり、それに加えて6人の子どもの養育費。家計は火の車どころか、焼き切れて破綻していました。
祖父の残した実家の家屋は老朽化が進み、床も天井も穴だらけ。あらゆる害虫・害獣のすみかとなり、それらのフンなどで荒され。雨の日はひどい雨漏りでてんやわんや。父は「お父さんにはどうすることもできない」と泣き言を漏らしていました。修繕する費用すら無いようでした。私は、実家の土地を売りに出し、家族らを別の場所へ引っ越しさせられないかと考えました。
しかし、父に家計のことを訪ねても無視。母に至っては全て父に任せきりらしく「お父さんはダメだから、長女のあなたがなんとかして」とのたまう始末。両親とマトモに会話が成立しないのは分かっていたので、私は家の外に味方を探しました。
そうして訪ねたのが、近所にある不動産事務所。土地の売り買いに関する知識はサッパリでしたが、だからこそ力を借りられないかと、実家の状況を話しました。
黙って話を聞いてくれた事務所の主の男性は、少し悩んだそぶりをみせたあと「僕の口からは勝手に話せないので、少しお待ちください」と、席を立ち、どこかに電話をかけました。訳も分からず待っていると、しばらくして中年の女性が車でかけつけました。やって来たのは、さらに別の不動産事務所の責任者、Hさん。彼女は話しはじめます。「私は長年、あなたのお父さんの土地などの売却を手伝ってきました。本当は、お父さんのいないところで、勝手にこういった話をしてはいけないのだけど、あなたのご実家は、今、大変な状況なので、私が知っていることは全てお話します」。
Hさんは、土地に関する知識のない私にも、分かりやすく全てを教えてくれました。固定資産税をはじめとしたお金の滞納は、数千万円におよぶこと。実家に、役場の職員の訪問が何度かあったこと。父が問題に向き合わず"何もしていない"こと。
あるていどは覚悟していましたが、どうすればいいか黙ってしまった私に、Hさんは続けます。「今後は私が相談に乗ります、いつでも連絡して。あなたはまず、実家に訪問をした、役場の職員さんをあたったらどうかしら」。
このHさんには、一生頭が上がりません。その後も何度もお世話になりました。アドバイスを受けた私は、次に役場を訪ねることにしました。
役場職員のKさん
役場の窓口で経緯を話し、通されたのは福祉課。そこで、私はもう一人の恩人と出会います。実家に訪問をした、役場職員のKさんです。通された部屋で、Kさんと情報交換。Kさんはあるプランを提示します。「今後はご実家の家計の管理を、あなたが中心となってやっていくのはどうでしょう?」。私は、ヤングケアラー時代のトラウマがよぎり「家のせいでうつになったのでできません」と断ります。ブラック企業で上司にうつを告白して、散々な目に遭ったせいか、うつの病歴を話しただけで、私は泣き出してしまいました。
Kさんはさらに考えます「あなたの話によると、お父さんは過去に詐欺に遭われたことがあるのね?」。実は、父は私の知る限り、2回、大きめの詐欺被害に遭っています。どちらも"楽して稼げる"という甘い話に、父が乗っかった形です。
そこから、もうひとつの手段が提示されます。Kさんは"通帳管理"という言葉を使いましたが、正しくは"日常生活自立支援事業"。多くは、認知症の高齢者の方の通帳などを、社会福祉協議会の職員が預かり、利用者の家計管理をサポートするというもの。
「お父さんが2回詐欺に遭われた話を出せば、通帳管理の審査は通ると思う。そうすれば、ご実家の家計管理を、私たちがやれます」。うつの話でとりみだした私の頭は、一気に冷静になります。これだ。と思いました。これしかない。
父に通帳管理をさせるには、家族を巻き込んで、更なるミーティングを重ねなければなりません。時間がいります。しかも、役所があいているのは平日の昼間。
私も一人暮らしの生活がありますから、あまり仕事を休めません。どうしようと悩んでいると、偶然にも、職場で2カ月の期間限定で夜勤のシフトに入ってくれないかという声がかかりました。夜中働けば、昼間は実家の問題に取り組める。実家を離れ、一時平和になった私の生活でしたが"これで最後"という気持ちで、私は再び、無茶な生活に身を投じるのでした。
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