「私を構成する9枚」(キリンジ縛り)【精神崩壊!】
ここ丸一年キリンジばっか聴いてた。
去年の今日、2月24日は僕が初めてキリンジの「エイリアンズ」、そしてその他諸々の曲を聴いた日だ。それ以来、サルのように繰り返しキリンジを拝聴している。
Apple Musicユーザーなら、この「songsInfo」というアプリを使えば、これまでの自分のライブラリに取り込んだ曲の情報が一覧できる。面白いのでオススメ。
何度も僕の記事でこすっているキリンジ(KIRINJI)をまたまたこすって、「私を構成する9枚」的な企画をやりたい。
以前は「私を構成するソニックユース9枚」というのをやった。毛色が違いすぎて面白い。
ではでは今回は、「私を構成するキリンジ9枚」の始まりだ。
事前注意だが、かなり長くなってしまったので、通読しているとイライラしてしまうかもしれない。気になるところだけ目に入れると良いかもしれない。と自ら釘を刺してみる。
① 3(2000)
すりー。
3rdアルバム。まあ「エイリアンズ」入ってるし、その他もガチガチ良曲のラインナップで、一番有名作だし、個人的にも一番好き。
2021年度最も聴いた曲が「エイリアンズ」…ではなく、意外と「君の胸に抱かれたい」だった。
おかしなPVのデザインとは対照的に、どこまでも美しく癒されるポップスである。病的に繰り返し聞いていた。
ちなみに、「君の胸に抱かれたい」、「エイリアンズ」に続いてよく聴いていたのは「あの世で罰を受けるほど」だった。これは、アルバムの曲順のせいで、「君の胸に抱かれたい」が終わるとすぐに始まる曲だからだ。そんなに強い思い入れはない(もちろん好きだけど!)。
まあシングル曲群4つがみな素晴らしいのは自明だ。ラストの「千年紀末に降る雪は」も良い…一番完璧な曲だと思う。
地味に良い曲…といえばぞんざいな言い方だが、「メスとコスメ」も好きだ。最近SHISHAMOのボーカルの人がこの曲をオススメしていたらしい。
好きな恋愛ソングを紹介するという文脈の中での発言のようだ。これを読む限り、さも美しい歌のような印象を受けそうなものだが、そうだろうか?寛容で善良なだけの男のエモい歌詞なんだろうか?
冒頭の「不二子もハニーも真っ青」なんて、僕には女性をおちょくっているようにしか聞こえない。
「メスとコスメのサイボーグ」なんて形容も、ディストピア社会に生まれた主人公のニヒルな語り口のようだ。
そんな風に「密かに揶揄を込めつつ」、結局「くちづけを交わせばそっと崩れ落ちて」ますね。「昔よりもすっごくきれい」だったから一発やりたくなったんですね。
あらためて歌詞を眺めると、男の戸惑い、揶揄、欲望()、郷愁、哀憐、慈悲が面白いほど詰め込まれていた。
あと、基本的に素朴な曲調に仕上がっていた泰行氏(弟)作の曲がかなり強力、壮大な空気を纏い出したのはこの辺かな?と感じる。例えば「アルカディア」もそうだし、「むすんでひらいて」もそうと言えそうだ。
ラス前の「サイレンの歌」は顕著な例だ。前半の普通の歌部分と、ウーウーアーアー言ってる後半のコーラス部に至るまでの盛り上がり方も丁寧だ。
後半で、一旦転調して、どうなるんだろう?と思わせて置いてまた元の調に戻り、音数を増やしていっそう盛り上げる仕組みがすごい。「アウトロやたらと長えなあ(ハナホジー)」ってさせない凄さ。
余談だが、YouTubeで「サイレンの歌」と調べていると、関連動画に、ホラーゲームの「SIREN」のグロ不気味なサムネイルが出てきてしまった。怖い。終わり。
② ペイパードライヴァーズミュージック(1998)
ぺいぱーどらいゔぁーずみゅーじっく。
キリンジのメジャーでの1stアルバム。
1stアルバムには思えないほどの作り込み、クオリティだなあと前から思っていたのだけど、「3」など、後発の作品と比較したら、やはり素朴。
泰行氏作のなかでは、「太陽の午後」と「五月病」は歌詞も曲調もめっちゃゆるくて馴染みやすい。対して、「風を撃て」と「冬のオルカ」のよくわからなさは凄い。「冬のオルカ」はドライブソングに聞こえる。一方、「風を撃て」は全然わからない。両方ドライブソングか?
そんなハイセンスとポップネスを上手いこと配合させたのが、シングルに抜擢された「双子座グラフィティ」だ!(たぶん)
もちろん兄貴も好調。5曲目からは5連続兄貴の作品だ。「雨を見くびるな」はフェイバリット。
めっちゃキレイなストリングス、ピアノ、フルートを交えた曲調にのせて、「雨」について歌う皮肉の感覚が好き。美しい雨のような、全然そんなことないような。
倦怠期っぽい歌詞だが、聞けば聞くほど、先の暗くなるようなサビのリフレインがなんだか重い。
そうやって考えていると、前半でやたらと余裕そうに聞こえる口調の語り手の調子は、まだまだ「雨をみくび」っている時点の様子を描いているのだなあと思う。
2番に入ってからは、だんだんと余裕というよりはありのままの現状を見つめ出すようになる。「秘密と嘘のゲームは昔の歌でけりがつく 化粧は静かに雪崩れて 悪意の波長は荒れ模様」というラインがなんとなく好きなのだが、意味は難しい。
昔の歌に喚起されて、女性は秘密と嘘の応酬に耐え切れず素直な感情が爆発したよう。化粧が雪崩れるほど大泣きしてる。悪意の波長、または、いさかいのポーズは崩れてしまった状況だ。
3番の「もう憂鬱はいつものように優しく包んでくれやしない 低い温度でゆっくりと僕らは火傷をしたんだ」とだけ語られ、サビに流れていく。
「僕ら」のこれまでの諍いなど憂鬱な空気は、結局は仲直りに落ち着いていたのだけど、今回ばかりは修復不可能になってしまったという暗示に聞こえる。
低温やけどは熱さに身悶えはしないものの、皮膚の下部にも治りにくい損傷を負うことになりやすい。ストーブとか怖いよ。熱を見くびるな!
この歌の登場人物は、雨をみくびったことで低温やけどしてしまった。多分もうダメなんだろう。僕にはバッドエンド前の様子の歌に聞こえる。その方が面白いので。
心機一転、それに続く「甘やかな身体」もすごく良い。
「正午にテレビをつける 鬱が停泊する」っていう感覚が好きだ。たぶん関係ないけど、最近正午にテレビをつけると、しょうもないワイドショーが乱立していて、本当に鬱が停泊しそうだ。見る鬱。
和やかな空気のこの世界が、「雨を見くびるな」のバッドエンドじゃない世界線だったらいいなあと思ったりする。
和やかな幸せな空気を引きずりつつインストの「PDM」になだれ込む。そのあとの「ニュータウン」も最高。こういう曲をシングルにしたら良かったんじゃないだろうかと思う。
…1990年代のヒット曲たちの空気にはどのみち合わなかったんだろうけど。
③ Fine(2001)
ふぁいん。
4枚目だから、4文字の「Fine」なんだって、誰かが言ってた。そういう遊びをキリンジはやってるらしい。
まあこのアルバムもいい曲いっぱい。前作に比べるといぶし銀な作品も増えたかなあっていう変化はある。
だって最初の「ムラサキ☆サンセット」なんて、シングル曲の割になんか掴みどころないもんなあ(タイトルの星マークがえらいダサいのが笑える)。ダサいタイトルの陰に隠れているが、歌詞をよく読むと人生観、死生観について考えさせられる。
前作の、「グッデイ・グッバイ」でオサレチックに始まるスタートとはえらい違い。でも、確実にキリンジにしては新鮮なバンドサウンド。間奏にツインギター?というかいっぱいギター躍動してるのが珍しい。
その後の「雨は毛布のように」は、さすがキリンジって感じのスタイリッシュさ。aikoがコーラスで参加してるんだとか。もともとファンだそうだが、彼女ももう既に売れている頃なのに、贅沢ですね。
「玩具のような振る舞いで」はなんだか淡々としてるのにエロいムードが漂ってる。この曲も倦怠期で男が必死になっている感がある。同時にそういう行為はちゃっかり交わしてて、それのおかげでいい空気を取り戻したみたいなストーリーかな。僕には、やたら長いアウトロが、ピロートークの空気みたいに思える。
あと「切り花」を聴いていると、なんだか悲しくなってくるし、死にたいかもしれないと思うけど好きだ。家でじっと暇を持て余しながら聴いていると良い。日陰に生きている人たちの世界観だ。
ラス前の「Drifter」もやっぱいい曲。普通に綺麗なメロディーで、サビもはっきりしてて。これはちゃんとシングルなのに、売れなかったんだなあ。売れろよ!!不可思議だ。
2番のサビにこんな歌詞がある。なんだかこれと相性の悪い歌詞を僕は知っている。Mr.Childrenの「名もなき詩」の、奇しくも同じ2番のサビだ。
どちらも上手いこと言ってるが、どちらも名曲だ。本当に。
歌詞に「人形の家には人間は棲めない」なんていう、なんだか不穏な歌詞があるが、イプセンの演劇で「人形の家」ってあるよね(ただの世界史知識)。見たことないけど、関係あるのかな。
全体的にJ-POPのスタンダードから考えると、不穏な歌詞が多すぎたのかもしれない。既出の歌詞もそうだし「鬱」とか、「獣(けだもの)」とか、「流れ弾の雨」とか、「子供の泣く声が踊り場に響く夜」とか(個人的にこれが一番苦しくなる)。
でも、ちゃんと最後には前を向いてるんですよ。そういう曲キリンジでは珍しいよね。
ミスチルの桜井氏率いるBank Bandがカバーしてるけど、凄いわかる。90年代半ばの全盛期のミスチルってこういうの歌ってそうだもん(それこそ、まさに「名もなき詩」みたいな等身大さと壮大さを感じる)。
たぶんミスチルが出してたら不朽の名作扱いだったんだろう。
どうでもいいけど、「逃げ水」って言葉好きだよなあ兄高樹氏。
ちなみに、リマスター盤に入ってるボーナストラック「シーサイド・シークェンス」は必聴。後にアルバム「11」に「シーサイド・シークェンス(人喰いマーメイドとの死闘篇)」と名付けられて収録されるが、原型の方が生っぽいロックでめっちゃカッコいい。「ムラサキ☆サンセット」っぽいサウンド。どちらにしても笑っちゃう。
④ For Beutiful Human Life(2003)
ふぉー びゅーてぃふる ひゅーまん らいふ。
5枚目のアルバム。「Human」が5文字なのと5作目なのがかかってるという説も聞くけど、ほんと?
このアルバムは暗め。歌詞の世界が基本的に暗め。全然ビューティフルな世界じゃない。ジャケットも暗め。だけどいい曲多し。というかこのトーンが最高なんだ。
最初の「奴のシャツ」とかニートのお話だもんなあ。ニートになれそうな僕には分かりみが深い。ボタンを掛け違えたまま大人になっている人には痛烈な始まり。暗い。
続く「カメレオンガール」はやたらと脳天気感あるけど、爽やかフラレソングだ。明るいけど暗い。
カメレオンガールと対照的に「色褪せた男」なんて出てくるのがファニー。「心の穴に菓子パンをねじ込み」とか自嘲のセンスもいい。「報われぬ僕のラブソング ハハハ」も好き。「なにわろてんねん」って突っ込みたくなる。
「僕の心のありったけ」は普通にいい曲。基本的に8分の6拍子になってるから、ギターでコード弾いてると時々詰まっちゃう。「君の中の宇宙に♪」ってとこだけ普通になって、また6/8になるのだけど、ここのリズム難し(「変拍子になってる」って説明があってるのかな…?)。
歌詞も多分暗くはない。「見苦しいほどに嫉妬したり 大切な人に裏切られたり」してるけど、多分…。
「愛のCoda」は流石にいい曲すぎる。何もかも超凝ってる。情景描写の鬼。
シングルじゃないのが驚きなのだが、凝りすぎてるから多分シングルにしても売れないんだろう。残念。だって「Drifter」も売れてないもん。
多分ドロドロの昼ドラの主題歌にめっちゃ合う。やっぱ失恋。暗い。
ちなみに壇蜜さんが以前「人生の最期に聴きたい曲」としてこの曲を挙げていらっしゃったそうです。何それ興奮する。最高ですね。
「繁華街」はだいぶ怪しい。歓楽街やらネオンやらって歌詞が出てきたらエッチな街の歌だろうと、椎名林檎の「歌舞伎町の女王」しかり、ちゃんと学んでいる身としては、この曲の世界もそうだろうと決めつけている。ここでは上海だ(前曲「愛のCoda」で飛び立った先の「地の果て」ってここかな?)
よく芸人がタイの風俗とか、フィリピンパブとかにハマってる話とか聞くけど、中国の街にも多分あるんだろうね。日本にもあるけどさ。
とは言え、歓楽街たのちい!って曲では全然ない。自嘲のニュアンスが言葉の節々に漏れる。「悪い風邪をひきそうさ」って歌って終わるのはやっぱ暗い。
「ブルー・ゾンビ」は…深夜テンションだか泥酔だかで、なんか躁になりそうな気分の歌っぽい。意外と暗くはないかも。でも、この曲調でテンションぶち上がる人はいないだろう。酔っ払い千鳥足のリズム。
「ハピネス」は最高だ。「君が笑えば全てがよくなる〜♪」とか言ってくれない。「ピンクのシャンパン」飲んでる奴なんていけすかないもんね。
やばい、キリンジの闇オーラに感化されて口が悪くなりそうだ…(全部キリンジのせいにしてみる)
「なにわろてんねん」ポイントがまた来ました。
夫さん理不尽ですね…暗いです…
「嫉妬」も怪しさが最高だ。全然純愛じゃなさそうなのがかえって妖艶だ。哀れな男の感じ。暗い。
「the echo」の歌詞は…全然分からん。たぶん暗い。それはいいとして、これずっと7拍子だ!歌っていて訳わからなくなりそう。
「カウガール」は…めっちゃ静かだし、暗い…と思わせて多分このアルバムではじめての純粋めな、簡潔なラヴソング。
散々暗いとか言ってきたけど、全部帳消しにしてくれるのが、最後の「スウィートソウル」だ。真夜中の歌なんだけど、暗くない。落ち着く。めっちゃロマンチックで優しい歌。逆に、この曲を気に入ってアルバム全体を聴くとビックリするだろう。
このアルバムの全体的なトーンがすごく好きだ。全然beautiful human lifeじゃないんだけど、この写実主義というか、自然主義的な世界観をどっぷり味わえる。華々しい恋愛とか人間愛だけが美しいんじゃないよっていうことだ。
全体的に暗いので、一旦お化け屋敷に入って、出てきた後の快感までの過程が好きな人におすすめしよう。お化け屋敷アルバムだ(僕自身は人生で一度もお化け屋敷行ったことないけど)。
ちなみに、この時期の曲でアルバムに入っていなかった「十四時過ぎのカゲロウ」、「冠水橋」、「YOU AND ME」は、後のDeluxバージョンには入っている。ほんと多作だあ。
⑤ 47'45"(1999)
よんじゅーななてんよんごー。
2ndアルバム。いい曲だらけなんだけど、1stアルバムより地味になってないか?と思う。質素。
最初の「Drive Me Crazy」はめっちゃ面白い歌詞…と言えば不謹慎な気もする。飯塚ナントカ元院長しかり、結構ニュースで深刻に取り上げられる問題なので。多分今のご時世にこの曲出したら叩かれる。
これこそ、Mr.Childrenがカバーするべきだろう。サイコ仕様の桜井氏に苦しそうに歌ってほしい。感情豊かに苦しそうに「キスの下手な女 黙れよ 口封じをしようか♪」って歌ってほしい。ミスチルのコンサートなら多分みんな「キャー!!(黄色い歓声)」ってなると思う。知らんけど。
そんなふざけた歌に続く「耳をうずめて」はめっちゃ素敵な曲。隠れガチ名曲。どっちも兄高樹氏の作品。サイコ特有のギャップ萌え。
「憂鬱はまさにそう!凪いだ情熱だ」って歌詞があるけど、これは作家のアンドレ・ジッドから引用したみたい。世界史の文化史のちっちゃい欄でしか見たことない人だよ。兄のインテリオーラに萌えが止まらない。兄に惹かれすぎて、アンドレ・ジッドの著作を読んでしまうかもしれない。
これは、かりそめの関係の2人の歌に思えるんだけど(というか、熱い恋の中にあってもそんな達観ができる人という感じかな)、お洒落と切なさと色気の過剰摂取で死にそうだ。
僕のいいかげんな脳内は、弟の「エイリアンズ」と、兄の「耳をうずめて」とを勝手にバトらせている。兄の歌詞はかなりわけわからんのだけど、これらは意外と似た世界観なんじゃないかと思っている。自分達のことを「エイリアンズ」だなんてあからさまに自嘲したり、疎外感をあらわにはしないけど。
続く「唐変木のためのガイダンス」も好き。地味だけど、元気なカントリー。兄の歌詞と比べると脳天気に聞こえるんだけど、言い回しはやっぱり面白い。
タイトルからして何それ!?って思うもんね。きっと「唐変木」であろうあなたにも是非聴いてほしい。癒されてほしい。
「恋の祭典」はなんだか古めかしい雰囲気だけどお洒落。地味。意外とコード追ってると難しすぎて訳わからなくなる。ほんわか不純エロソングシリーズ。
ちなみに「マスゲーム」だの、「ミサイル」だの、「浜辺で姿を消す」だの、かの国🇰🇵を想起させられる言葉が散りばめられているのは、故意的なもののようだ。詳しくは、彼らのインタビューなどが載っている書籍「自棄っぱちオプティミスト」を参考にされたし。
「BBQパーティ」は全然パーティ感ないけど、ゆったり感が好き。地味。
「牡牛座ラプソディ」は全部の文章がおもろいけど、何言ってるかは分からん。最高に意味不明。修羅場感は伝わってくる。みんなはどこの文章が好きですか?僕は「羽毛より軽い骨を持つ奴、俺は血の売り買いを手早く済ます」のところです。
「くよくよするなよ」は…地味。このタイトルは、スティーヴィーワンダーの曲の邦題だったり、ボブディランの曲の邦題だったりするらしい。曲調から考えると、後者が近いと思う。
余談だが、「問わず語らず名も無き焼酎」という、かっこいい名前のお酒があるけど、それを思い出してしまう。二階堂のCMみたいなノリで、これを主題歌にしてほしい。
「銀砂子のピンボール」は明るい!楽しげ。雰囲気で聞いていいよね。「投げ縄でタントウシャが狙ってる」って歌詞はどうしても気になるけど。
その直後に「ダンボールの宮殿」が続く悪意(?)が好き。オサレなアーティスト然でホームレスの歌作っちゃう兄はやっぱり奇天烈か。歌詞に「拷問」とか入ってるJ-POPなんてそうそうないだろう。
ちなみに余談だが、僕は都会には全然行かないのだけど、この前珍しく都会の方に行った時にホームレスっぽい人を見た。ごみ収集場かと思ってその近くに何気なく腰掛けたら、そのゴミたちがゴソゴソ蠢き出して、僕は焦った。捨てられた赤子か、病気のペットか何かがいると思った。
釘付けになって注視していると、ホームレスだと視認できた。ゴミ(?)を布団に、枕に、人の視線除けにしてた。そのうち、タバコの煙がモクモクしてきた。都会怖い。
どうでもいいけど、「Thank you for let me be myself」という英語はアリなのだろうか。「letting」にしたかったけど、言葉数とリズムに併せて削ってみたのだろうか。まあ多分通じはするだろうけど。(完全に英語指摘おじさんになってて嫌な感じ…)
追記:
最近聴いてたSly&the family stoneの曲で「Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)」と言うのがありますが、完全に「レッミ!」って言ってるので、すごいどうでもいいことだったんだなあと思いました。
続くインスト「V.I.P」は…謎&地味。前曲と繋がりがあるのかな。映画音楽みたい。ちなみに、VIPって「Very Important Person」の略らしいよ。アイクぬわらがCMで言ってた。
ラストの「口実」も…地味。落ち着く曲ではある。
「眠れない夜には枇杷を食べる」…だそうです。地味なフルーツ!
歌詞全体的になにかと口腔について歌ってる。キスもそう。タイトルの「口実」は口の実とも読める…。
枇杷を食べるように、唇の実に口付ける、と…。
地味というかアダルトすぎる曲だ。
ちなみに、リマスター版に入ってる「癇癪と色気」は、1番アダルトだ。インディー時代の「好きさと放ってすぐに」が下敷きになっている曲だ。ボサノヴァっぽい。
⑥ cherish(2019)
打って変わって、こちらはさっきの20年後。英語表記のKIRINJIの作品。新体制の方では1番好き。
「Killer tune kills me(feat. YonYon)」とかめっちゃ現代感あってオサレなサウンド。ネオシティポップとかいう単語を聞くことがあるけど、こういうのだろうか。時々英語混じりなやつが「ダサいな〜」と思うけど、かつてのシティポップも完全にそうだもんね。多分そういうの意識してるんだろう。
「プレイリストから外した」とか「アドレスもアカウントも変えたの」とか、出てくる単語がちょいダサい感じがするのも、やはり逆に今っぽいか。
その辺の感覚は一曲目の「『あの娘は誰?』とか言わせたい」にも通じる。昔のキリンジではあり得ないような横文字の飛び交い具合だ。「インスタ」だの「タワマン」だの、後々古びそうなアイテムが飛び交うのも注目。
ただ、この曲は単に「ナウい」曲ではなく、暗い世相に焦点を当てている曲だ。オサレフィルターに包まれてはいるものの。終盤では「口先の好景気」「今夜も満席のネットカフェ」などなど、なんだか社会批判的なシニカルな目線だ。
3番に入ると、前半のオサレアイテム目白押しパートは夢オチ、願望オチになってしまうところに、「堀込み」を感じる。
「雑務」は普通におもろい曲。本当に雑務についての歌。
「Almond Eyes (feat. 鎮座DOPENESS)」はラップが入っている。個人的にラップには抵抗感があるのだけど、こうして聴くと普通に楽しい。KIRINJIフィルターがあってこそだろうけど。
「Shed blood!」はアルバムの空気を引き継ぎながら、ファンクっぽいことやってる。「シティ・ファンク」と呼ぼう(?)
英語詞ゆえにわかりにくいのだが、「You don't have to be a man of war」(自己訳:戦争狂にならなくていいんだぜ)とあるように、ポリティカルな内容らしい。リフレインで「Shed blood!」と歌うたびに、それに追うように「No!」と言っている。
「Pizza VS Hamburger」とかいう、カッコいいトラックに乗ったバカみたいな歌も好き。どうも、高樹氏はピザ派らしい。僕はハンバーガー派だ。困った。
と思ったが、最後は「ハンバーガーかピザか選べないよ だったら ハンバーガーもピザも喰いたいだけ喰おう」とまとめてくれた。感動した。
「休日の過ごし方」は、休日にはピザとかハンバーガーとか食いたい…とかそんなユルい歌ではない。孤独で虚無で薄っぺらい現代人に刺さりまくる歌だった。
一言一句鋭すぎて痛い。ニートソング「奴のシャツ」並に揺さぶられる。「何処かに行きたい 何処へも行かない」ような人には是非聞いてほしい。「自由の刑に処せられたプリズナー 看守はI my me self」なんてオシャレサウンドに乗せて歌われると怖くなっちゃう。
…これ地味に、哲学者サルトルの「人間は自由の刑に処せられている」という言葉が念頭に置かれてますな。
ラストの「隣で寝てる人」は落ち着くいい曲。「湯豆腐作って食べよう」って歌詞が良い。美味しいですよね、湯豆腐。
⑦ 愛をあるだけ、すべて(2018)
『cherish』の前作。こっちはこっちで良い。未来感があるのはこっちだなあ。
1曲目の「明日こそは/It's not over yet」はなんだかプロレスが始まりそうな雰囲気。力強い。語り手がダメ人間っぽいんだけども。
2曲目の「AIの逃避行(feat. Charisma.com)」は、未来感すごい。題材も最近ニュースに事欠かないAIだしね。AIの恋模様を描くなんて、高樹氏若いっすなあ。ベテランってもっと自分の手垢にまみれた世界に落ち着くものだと思うけど、ハングリーさがすごい。
サウンドの未来感だけじゃなく、あいかわらずコード進行とかも凝っててスリリング。
続く、「非ゼロ和ゲーム」もある意味タイトルだけなら近未来感がする。「非ゼロ和ゲームってそれ何?」って思いますよね。
「調べろ!」「ググれよ!」「辞書見て!」(普通の紙の辞書に載ってるものだろうか?)
なんか主に経済についての話らしい。ゲーム理論とかそういう系。僕は大学では心理学専攻なので、もちろん知らなかった。悔しい。
こういうナンセンスな歌が新生KIRINJIには結構増えてて、楽しんでるなあと思う。
「時間がない」はこのアルバムでのフェイバリットだ。おじさんダンスを拝見できるMVもあわせて必聴。おじさんはみんな必聴だし、人生に見切りをつけてしまいそうな達観しかけの人も必聴。最近この曲について別の記事で取り上げたので、思いの丈はそちらで語った。
「After the Party」は弓木英梨乃さんのボーカルで可愛い。「お・じ・さ・ん!」って言ってるのが可愛いけど、さっきの曲と繋がりが見出せそう。
なんとなくThe Velvet Undergroundの「All Tomorrow's Party」を思い出す歌詞だ。
「悪夢を見るチーズ」はファンキーだ。ベースの千ヶ崎さんが歌ってるらしい。「BPM120で踊ろう」ていうのは、ここらの時期のKIRINJIらしさそのもの。
「新緑の巨人」は…なんなんだ?自然讃歌?
「ペーパーブレーン」はキリンジのインストシリーズの中でかなりトップクラスに好きだ。よく聴くと、目覚ましアラーム感がある。こんなんありそう。
「silver girl」は白髪の生えた女性を指してるとかなんとか噂に聞いたことがある。素敵な表現!サウンドが未来的でも、テーマは等身大なんだなあ。そういうギャップ好き。
⑧ OMNIBUS(2002)
カバー曲とかレアトラックとか入ってるよくわかんないアルバム。どうやら、契約の都合で出たもののようだ。オムニバスって言ってるしね。スピッツで言う「花鳥風月」的なことだろう。
結構素朴な曲というか力の抜けた曲が多いのと同時に、変わった曲もいくつかある。
冒頭の「Fat Bottomed Girls」はなんか洋楽のカバーとは知ってたけど、クイーンのカバーと知ったのは後になってから。クレジットにブライアンメイって書いてたから「クイーンじゃん!」って気づいたのだった。
カバーではカントリーっぽい爽やかで心地よい感じだが、クイーンの元の方ではスタジアムロック的盛り上がりをしている。よく考えたら「デブなケツのガールたち」って酷くない?と思って和訳を見たら、予想通り酷くて面白かった。
どっちのバージョンもすごく好きだ。
「鋼鉄の馬」は緩い曲で好き。弟泰行氏っぽいなあって感じ。
「代官山エレジー」は松本隆作詞らしく、やっぱいい詞。高樹氏の作風に近い感じもあるけど、回りくどくないんだね。未練たっぷりな感じを表現したようなアウトロも綺麗。そういえば失恋のまさにその時を描いた歌詞ってキリンジにはなかったか。
「来たるべき旅立ちを前に」は夜明け前に聴きたい旅立ちソング。「冷めたピザを頬張れ!!」っていう、絶妙なセンスが好き。
「まぶしがりや」はこの中で1番好きかもしれない。このアルバムは兄貴が歌う曲が三つあると言う兄貴賛美アルバムなのだ。ここでのボーカルでも魅力を放っている。
音数が少なくてミニマムな感じがするが、コード進行とか調べてみると訳わからんくなった。これを弾き語る労力、割に合わなさそう。
歌詞についてだが、多分女性が聞いたら兄貴に惚れてしまうのではないか?それほどの包容力、優しさ、聡明さに溢れていて、温かい。僕も惚れている。天才的だもん。歌詞全体的にあったかい。
僕も「君の指の冷たさを感じていたい このまま」って、いつか言いたい。そんなニヒルな(?)雰囲気のデートしたい。
「君はまぶしがりやなんだな」という形容が素敵過ぎて僕は溶けそうだ。
これまた兄貴曲「午後のパノラマ」もすごい。元の曲を聴くとご機嫌ソングなのに、ピアノの弾き語りにして、死にたくなるような雰囲気にガラッと変えてしまった。そういえばピチカートファイヴの「陽の当たる大通り」のカバーでも同じ手法をしてたね。前者は元から作曲は兄なんだけど。
⑨ Crepuscular(2021)
現時点で最新作。個人的にはリアルタイムで初めて追ったアルバム。普通に好き。まだあんまり聴き込んでないけど
やっぱパンデミック下の暮らしの影響が節々に見える歌詞になっている。
「再会」もそうなんだけど、歌詞はあくまで再会するのを想像してる段階の語り口だ。つまり、「堀込み」。
「first call」もそういう視点の曲。「誰か呼び出したいけれど、店は早々閉まっちゃうし」っていう世界。ひと昔前の韓国アイドルみたいなポップトラックなのだが、あるべき姿のポップソングだよなあと思う。「だからもしも君のfirst call捕まらないその時は僕の名をlean on」なんて、軽い調子で呼びかけてくれる、慈悲に満ちた高樹氏に感涙。
「気化猫」もめっちゃ好き。実はこのアルバムのコンサートを見に行ったのだが、この曲の重低音がめっちゃ心地よくて、それ以降この曲の聴き方がそこに注視する形に変わった。
歌詞の題材選びもすごい好き。たまたま知ってる話題だったが、そんなこと歌にする?っていう自由さに驚くし、どことなく親近感を持つ。
「爆ぜる心臓(feat. Awich)」は…やっぱ浮いてるよね。めっちゃかっこいいんだけどね。アルバム発表より前にMVが出てたけど、意味不明なくらいかっこよかった(ていうかこれに類する音楽ジャンルについて全く詳しくないので)。
アルバムの流れで聞くと、ほかの曲と、この曲を聴きたくなる気分があまり合わない。
思い切ってこういう音楽性に舵を切るんじゃないかとか想像すると次作が待ち遠しくなる。てか次作っていつだろう…早速気になってる。
振り返り&ジャケットの話&終わり
一気に9枚ってやっぱ長いけど、みんないいアルバムだなあ。『DODECAGON』とか『7-seven』とか『Ten』とか『11』も取り上げる気がしてたのだけど、候補が溢れた。
今回の9枚取り上げた順に並べるとこうなる…。
余計なことを語るようだが、名ジャケットの話題になると、やはり名盤率が高くなる。だが、キリンジのアルバムが死ぬほど好きな僕の目線からしても、イマイチ好きじゃないアートワークが時々ある。
例えば、2ndアルバムの「47'45"」。(画像のど真ん中)謎&地味すぎるだろ!って思う。まあ本当に内容も地味だし謎めいているんだけど。
あと1stアルバムのP.D.M.(画像で真ん中上)も、嫌いじゃないけど、地味すぎる気がする。なんかミニチュア感が可愛いけどね。
それ以降は9枚の中なら全部好きだ。当然「3」(左上)の油こってり顔面ドアップも最高。
「Fine」(右上)の絵も味があって結構好き。やっぱりいぶし銀なのだ。(絵画に詳しいと何か語れそうなんだけどね。なんか似た絵がセザンヌにあったなあとかしか思いつかない。)
「F.B.H.L」(真ん中左)の横顔二つ並びなんて、最高だ。キリンジファンとしては、「ポスターにしたいジャケットランキング」でNo. 1だ。いや、やっばり「3」と迷うけども。
そろそろ本当に終わろう。
次の機会には、今回の記事で関係ないのに散々名前を出したミスチルでこの企画をやってみようと思っている。
それでは、KIRINJIのこれからの健闘と、皆さんの精神衛生の保全を祈りまして、終わりにしたいと思います。
ありがとうございました!
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