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なくしもの。
これは、かあちゃんの話。
かあちゃんは、耳が聞こえない。
なので、
いつも補聴器をつけているのだが、
ほぼと言うかまったく聞こえない。
だが、補聴器を付けると、
かすかな音と言うか雑音をひろう。
それを、頼りに頭痛と戦いながら、
補聴器を付けて過ごすのだ。
かあちゃんは、家に帰るとすぐに、
どっかに補聴器を、置くのである。
そして、その場所を忘れてしまう。
補聴器は、耳から離すとピーピーと、
存在感たっぷりにその場所を教えてくれる。
私は、いつもその補聴器の電池を抜いて、
存在感をなくしてから、目立つ場所に置く。
かあちゃんは、
その度に、何事にもなかったかの様に、
電池を入れて、耳にはめるのだ。
これは、一緒に住んでいた時まで。
離れて暮らすと、かあちゃんは、
補聴器の行方がわからなくなる。
発狂して声にならない、
何かを叫びながら、泣きながら、
補聴器を探しまくるのだ。
先に言うが、かあちゃんの部屋は、
ものであふれかえって、ゴミ部屋である。
それを、かき分けて補聴器を探すのだ。
時にゴミ袋の中にあった時があった。
かあちゃんは、自分でゴミは捨てない。
だから、捨てる前になんとか見つけれた。
私が、
かあちゃんに会いにいくと、
ひどく落ち込んで、私に補聴器を、
探せと命令し、ひたすら泣き叫ぶのだ。
なくしもの探し。
まずは、玄関まわり。
次は、お風呂の脱衣所あたり、
そして、ひきっぱなしの布団まわり。
かあちゃんの行動を推理して、
どこで補聴器を外すかを考えて、
いつ、補聴器を外すかを想像するのだ。
そして、無惨に電池の切れた補聴器が、
ぽつりと、なくされたと、悲しんでる。
補聴器は、高いのだ。
ホイホイ買えるものではない。
だから、かあちゃんはそれは必死に、
ヤバいと思って、高額な宝石の様な、
ピーピー鳴る、補聴器を探すのである。
だったら、もっと大切に扱えよ!
なんだよ!あっちこっちポイって!
かあちゃんには、大事な体の一部だろ?
なかったら、生きていけねーんだからよ!
オレにはわかんねーよ!
かあちゃんじゃないから、
耳の聞こえない気持ちも、
補聴器の存在の大切さも、
ぜんぜんわかんねーよ!
なくしものの補聴器を、探しながら、
聞こえないのをいい事に、暴言を吐く。
たまに壊れて見つかる。
かあちゃんは、それをなんとか組み立て、
耳にはめてピーピー鳴っても気づかない。
私は、自分に置き換えてみる。
補聴器と同じ様な物はなんだろう…。
メガネしている人なら、わかるのか?
私には、わからない。
あれか?家の鍵みたいなもんか。
でも、私は決まった場所に必ず置くしな。
やはり、私にはわからない。
ゴミ部屋で、補聴器をわかりやすく置く、
習慣と場所を決めないとダメだよな…。
なんて、考えてある物を買った。
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このケースは耳にずっと付けてる補聴器を、
乾燥させてくれる、品物らしい。
確かに、イヤホンでもそうだが、
ずっと耳に物が突っ込まれて、
過ごすしてると湿ってしまうよな…。
かあちゃんの形見の壊れた、
補聴器を入れて、仏壇に置いた。
かあちゃんが、いた時に、
買ってやりたかった…なくしものも、
この中にあれば、きっと喜んでくれるだろう。