
モラルハラスメント
とある接客業で働いていた時の話である。
とても、ユニークでお茶目なパートの、
トモミがいた。
トモミがいたら場がパッと明るくなる。
例えば、
忙しくてみんなバタバタとしてて、
少しピリついた雰囲気でも、
トモミが笑顔でジョークをかますと
みんな笑顔になり場の雰囲気を変える。
とてもムードメーカーであった。
トモミ自体、幸せそうにいつも笑っていた。
ある日の事、一泊の研修があった。
だが、トモミは暗い顔をして、
研修…行かないとダメですか?
と聞いてきた。
なんだ?なんかあったか?
そう聞くと、
いや…でも…どうしても…行けないんです。
と何か話しづらそうにしていた。
うーん。こればかりは会社の研修だし、
ここで働くには、必要な事なのだが…。
確か…前回も研修の日になってから、
行けないって連絡あったよな?
どうした?
トモミはおどおどして、
いや、何でもないです…すみません。
とすぐに仕事に戻った。
何か隠してる…。
いつも明るいトモミが、
あんな顔するなんておかしい。
絶対、何かあるに違いない。
その日、みんなに仕事終わりに、
軽く飲みに行かないかと誘った。
そこでトモミに何か聞けたら、
いいかなと思ったのである。
だが、みんな行くと言う中で、
トモミだけは、不参加を申し出た。
その日は、とりあえずトモミ以外の、
みんなで少し飲んで帰った。
しばらくして、トモミから
やっぱり研修行きます。
と返事がきた。
そっか…大丈夫か?
なんかあんのか?
出来る事があれば相談にのるぞ。
そう言うと、また明るいトモミに、
変わり、大丈夫です。と言う。
うむ…難しい。
これはかなりややこしい問題を、
トモミは抱えてるに違いない。
どうしたものか…。
やはり研修の日、
トモミはどうしても行けないんです。
と連絡が来た。
このままだと、トモミは仕事放棄と、
みなされてしまう。
就業規則に反してしまう。
悩んだ。
どうしたら、トモミを助けられるか。
トモミから、何か言ってくれないと、
動けない…だかトモミは頑なに言わない。
研修を終えて、
私は一人一人に、面談をする事にした。
現状を知るべきだと思ったからだ。
トモミは誰かに相談してるかもしれない。
私の知らない所で、
何か問題があるのかもしれない。
それとなく聞き出してみよう。
ちょうど閑散期でもある。
みんな仕事を探しては大掃除している。
とりあえずトモミは最後にした。
一日、1人〜2人、面談をした。
最終日はトモミ1人である。
まずは、事前にある程度のアンケートを、
配っておいた。
仕事に関する質問と、
移動願いがあるか、
最近の悩み。
それを書いてもらって、
面談の日にそれを提出してもらい、
それを見て話しをする。
トモミは、明るくお願いします。
と言って座った。
一通りアンケートを見たが、
どれも、特になし。
ふむふむ…。少し悩んで、
もう切り込んだ話を持ち出した。
お前、なんか悩みあるだろ。
お前、時々深刻な顔してるぞ。
そん時のお前、
すんげーミスしてんじゃん。
研修の事もあるし、
何か、隠してるだろ?
はじめは、トモミも明るく、
ないですよー!研修の時はすみません。
じゃぁ、何で研修は来れなかったんだ?
えっ?えーと…身内の事です。
トモミは明らかに動揺していた。
そっか…。
これは、おせっかいだと思ってくれ。
お前、絶対に何か隠しれるだろ?
何かを一人で抱え込んでるだろ?
吐き出せ。じゃないとお前の為にならない。
そう言うと、トモミは黙る。
辛いんだろ?だけど、
辛いって言えない環境に、
お前はいるじゃないか?
トモミは黙っていたが目から涙が、
ポロポロと流れていた。
お前は、よく頑張ってるよ。
そして、すごく我慢強い。
だから、弱音など言えないじゃないか?
トモミは静かにうなずく。
そして、口を開く。
同棲している彼がいて…。
すごく束縛が激しくて…
それに嫉妬もひどくて…
家にいたら、
いつも責められてばかりで…
研修も浮気してるって…
飲み会も同じ…
何してもすぐ怒ってきて…
お前は人間のクズとか…
お前は人間失格だって…
いくら頑張っても同じで…
何しても気に入らないみたいで…
うん、うん、と優しく聞いて、
そっか…お前はクズでも人間失格でもない。
みんなの話、聞いてきたから言える。
お前の事、みんな褒めてたぞ。
憧れるって言うヤツもいた。
お前は、何も悪くない。
お前の彼氏はモラハラ野郎だ。
どうだ、これから警察に行かないか?
店はみんなに任せても大丈夫だ。
どうせ、自由な時間もないんだろ?
なら、今ここで働いてる時間なら、
お前の彼氏に縛られる事はない。
そしてだ、逃げろ。
他の店舗に移動願い出してやる。
お前の事を頼むと言ってやるから、
お前は、これから警察に行き、
そのまま、お前がやられてきた事を、
正直に話すんだ。
そして、警察に接近禁止令を出してもらえ、
今日のうち荷物を最小限にまとめろ。
明日、お前は逃げるんだ。
隣の県の店舗に前から話はつけていた。
そこの店舗に、行くんだ。
住所変更の時、役所で事情を話せ。
そしたら、もし何があっても、
お前の居場所はバレない。
いいか、お前の人生だ。
彼氏の言いなりになるな。
もう一度言う。
お前は、何も悪くない。
悪いのは、その彼氏だ!
そんなヤツは捨てろ!
お前は逃げていいんだ。
お前はよくやった!
もう我慢するな!
わかったか?
トモミはこんな事したら彼に迷惑かける…。
となお彼氏の呪縛に取り憑かれてる。
今はそう思うかもしれない。
だが、自由を手に入れたら、
絶対にわかる。
お前がどれだけ彼氏に縛られてたか。
そのまま、店をまわりの人に頼み、
トモミを連れて警察に連れて行く。
入り口で少し説明して、
専門の警察の方が来た所で、
うちの大事な従業員です。
どうかよろしくお願いします。
と言って、トモミに終わったら、
電話くれよ。待ってるからな。
とトモミを送り出した。
私は、急いで携帯ショップに向かう。
トモミの携帯は危険だ。
当時はまだ携帯電話が普及して競争率が高く、
タダで軽い手続きですぐ携帯が買え、
すぐ解約できたのだ。
その後は警察の駐車場でトモミを待った。
すぐにトモミから電話がきて、
すぐに店に戻った。
そして、みんなを集めて、事情を話した。
みんなびっくりしていた。
警察でも同じ事を言われたと言う。
チャンスは明日しかないと。
そして、トモミに携帯を渡す。
今から彼氏以外の親とか大切な人だけ、
連絡登録しとけ。
この新しい携帯はこっちで持っている。
夜になって、彼氏が寝静まったら、
最小限の荷物を玄関の外に置いとけ。
そして、明日はいつも通り玄関を出て、
荷物を持って、出勤してこい。
そしたら、色々手続きあるから、
それをして、お前の携帯と新しい携帯を、
交換する。
そして、お前はそのまま新しい職場に、
向かえばそれでいい。
わかったか?
大丈夫だ。お前なら出来る。
負けるな!彼氏の言いなりにはなるな!
お前は、幸せになる資格がある。
お前達、このお通りだ。
どうか、トモミを助けてやってくれ。
もし、彼氏が店に来ても、絶対に、
トモミの事は言わないでくれ。
そして、もし彼氏が来たら
私をすぐに呼んでくれ。
よろしく頼む。
と深く頭を下げた。
トモミも泣きながら頭を下げた。
みんなで、トモミを応援した。
励まして、大丈夫だと言い合った。
決戦は明日だ!
そう解散した。
翌日ドキドキしながら、トモミを待った。
昨日の夜から、上司に相談と快諾を得て、
隣の県の店舗に、明日決行します。
お願いしますと頼んだ。
その他手続き等を用意してトモミを待った。
一瞬…研修の日を思い出す。
また電話で行けませんと、
言われたらどうしようか…。
乗り込むか…。
トモミは来た!
顔はこわばっていたが、やってきた。
お前、頑張ったな。えらいぞ!
と迎えて、もろもろ手続きをし、
携帯電話を交換し、
早く行け!と送り出した。
トモミは泣きながら、
ありがとうございます。
と言うと走っていった。
その日の夜、警備会社から電話が来た。
閉店していた店に彼氏が来て、ガラスを
割って侵入したらしい。
多分、トモミが帰ってこなくて、
電話も繋がらない、店に隠れてる。
そう、思ったのではないか。
前もって警察には、トモミから、
彼氏の名前も何もかも伝えてあった。
すぐに警察が駆けつけ、
彼氏は不法侵入と器物破損で御用となった。
こっちも営業妨害も追加して彼氏を訴えた。
トモミは、新しい環境に慣れたのか、
店に電話が来た。
新しく携帯電話買うので、
もらった携帯電話は解約して下さい。
との事。
どうだ、最近は。
と聞くと、こっちに来て、
ただコンビニ行くだけでも、
あっ!自由に行っていいんだって、
感動した。本当の自由って
こんな些細な事でも感じられるですね。
そんなトモミは、きっと新しい職場でも、
明るくユーモアでお茶目なんだろうなと、
トモミがいなくなったが、みんな変わらず、
仲良くやってるからいいっか。
いつか今度はトモミも一緒に、
みんなで飲みに行きたいな…。
そんな、怒涛の出来事でした。
言葉の暴力は、本当に厄介です。
ずるいヤツがやる最低な事です。
心に深く傷をつける。
それは、
人殺しと一緒だと思います。