はじめてのメンタルヘルス(新型コロナでの自殺者の減少をどう読み解くか)
コロナで自殺者が減った
昨日自殺者が前年よりも大幅に減ったというニュースがありました。
ただし、これには読み解きが必要なので解説します。
TBSニュース「自殺者数20%減」
https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3977832.html
先月の全国の自殺者数が前の年に比べおよそ20%減ったことが、厚生労働省などのまとめでわかりました。(中略)
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、家族ら同居する人が外出せず家にいることや、職場や学校に行く機会が減り、悩むことが少なかったことなどが要因とみられています。
自殺者が減るタイミングは世界共通で分かってます。
それは、戦時です。戦争になると自殺者は減るのです。
社会が不安定になると自殺が減ります。
その後に自殺者が増える可能性はあります。(戦争後そうだった)
日本における自殺の精密分析(自殺 分析 日本):(東京都健康安全研究センター)
http://www.tokyo-eiken.go.jp/sage/sage1999/
ですので、このタイムラグの間に自殺防止の活動を広げることだ大切だと考えます。
自殺論
古くは社会学者デュルケームの自殺論がスタートです。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/エミール・デュルケーム
ただ、戦時中に自殺数が減るのはわかっていますが、戦争が直接理由かは議論が続いてます。
『自殺論』以降の自殺の社会学(1)
マクロ社会学的研究の動向を中心に 平野孝典
たしかに,戦争期間中に自殺死亡率が低下することはよく知られている。
海外の動向を確認しても,第一次世界大戦中にフランスの自殺死亡率は低下したという報告(Lunden 1947),さらに第二次世界大戦期においても,デ
ンマーク,スウェーデン,ノルウェー,フランス,ベルギー,オランダにおいて自殺死亡率が低下したという報告がある(Rojcewicz 1971)。
しかし,Wasserman(1989)は1910年から1933年のアメリカの自殺死亡率を分析し,第一次世界大戦中に自殺死亡率が低下していないことを明らかにした。その理由として,第一次世界大戦中にアメリカは中立国であったことが考えられる。交戦国とは異なり,中立国では戦争が国家の危機として認識されず,Durkheimが論じたような,「強力な社会統合」は実現しないのかもしれない(van Tubergen and Wout Ultee 2006)。じっさい,第二次世界大戦期の自殺死亡率を分析すると,交戦国は自殺死亡率の低下が確認できるが,中立国の自殺死亡率は変化がなかったという報告がある(Sainsbury1972)。
また,戦争そのものが独立した影響を自殺死亡率に与えるのか,という点には疑問符がつけられている。戦争が社会的統合を生み出し自殺死亡率を低下させるのではなく,戦争が失業率やアルコール消費量を低下させ,自殺死亡率を低下させているのではないかというのである(Stack 2000b)。
自殺経路
自殺経路(自殺理由とそこまでの流れ)は自殺防止団体のライフリンクさんの調査が詳しくわかりやすいので転載します。各要素はそれぞれが影響し合います。自殺の理由は一つだけではなく、複数が重なると危険度が増すのです。
負債、事業不振、失業から始まる生活苦は、やがて自殺の理由として大きく貢献するものの一つです。
特に最後のトリガーを引きやすいのは、
・うつ病
・生活苦(失業・負債・非正規雇用と連動)
・家族(身近な人)の不和
この3つです。
昨年の自殺者 減少の理由 清水康之 | ライフリンク代表 2013年
https://news.yahoo.co.jp/byline/yasushimizu/20130117-00023089/?fbclid=IwAR1qWqsAjs5vlFXOdzAjshjI5eeOJRC0d_QMw_ku4k4H-DUH5egf27Y7qYs
自殺実態白書
http://www.lifelink.or.jp/hp/whitepaper.html
① 自殺の背景には様々な「危機要因」が潜んでいる(計 68 項目)
② 自殺時に抱えていた「危機要因」数は一人あたり平均 4 つ
③ 「危機要因」全体のおよそ 7 割が上位 10 要因に集中
④ 自殺の 10 大要因が連鎖しながら「自殺の危機経路」を形成
⑤ 危機連鎖度が最も高いのが「うつ病→自殺」の経路
⑥ 10 大要因の中で自殺の「危機複合度」が最も高いのも「うつ病」
⑦ 「危機の進行度」には 3 つの段階がある ~危機複合度を基準にして~
⑧ 危機要因それぞれに「個別の危険性」がある
経済苦が自殺に追い込むメカニズム
経済苦が自殺理由として多くなってるいる理由に、経営者の生命保険をあげる方も居ます。
現時点での自殺防止は、まず、負債と経営難に押し潰される経営者と、派遣などの失業者に注目すべきと考えます。
地方で自殺が急増した「意外な理由」〜日本社会の隠れたタブー 〜
保険と自殺のキケンな関係 貞包 英之
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/50183?page=2
加えてそれ以上に、生命保険の普及を底支えした集団として注目されるのが、中小企業の経営者である。(中略)
こうして「命」を賭金とした保険に入る人びとの増加が、全国的に自殺の増加を引き起こす構造的な土台になった可能性を否定できない。
生命保険加入を前提に住宅を購入し負債を抱えた核家族や、さらに生命保険に多重加入することで融資を繋いでいた経営者が、不況の際に借金を精算するために自殺は利用されただけではなく、残される貨幣が「後顧の憂い」を断つことで、自殺は増加していくのではあるまいか。
それを一定の仕方で裏付けるのが、高度成長期以後、自殺総数に対して保険金支払い件数や金額が急増していくという事実である(図3)。
1999年には、同年の3万1413人の自殺者に対して12万270件という4倍にせまる保険金が自殺に対して払われている。それは単純にいえば、自殺者の多くが生命保険に、それも複数加入していたことを示している。
そして、これが20世紀末に地方を中心として自殺が増加した理由もよく説明する。問題は、土地の信用力の弱い地方の経営者は、融資の担保として、複数の生命保険に加入することをなかば強制されていたことである。
戦時と災害は同じか?
今回のやり取りで私も知りましたが、例えば311でも、震災の年は自殺率が低下して、それ以降に増加する傾向があったようです。
震災「復興期」に高い自殺率 「幻滅期」後の16年以降
https://www.asahi.com/articles/ASN396GGFN2NUNHB01C.html?fbclid=IwAR2fc6gpS9gftkC9VOJjrErSa_-F0E0wi6zBAS-XID8yDU6oSzqI8k5dY7Q
全く同じでないにしろ、通常時でも経済苦は自殺に追い込む危険要因として機能しております。
加えて、戦時、災害時と今回が似たような動きを見せているなら、相似形として機能する可能性が高いと考えます。
おわりに
個人的には多くの経済人が経済苦による自殺を何とかしろと言っていたのが嬉しいです。
そんなに多くの人が自殺に興味あるとは思いませんでした。
彼らが今後、自殺防止活動に関わって下さり、かつ、社員や取引先のメンタルヘルス対策をしっかりして下さると思います。
まさか、自殺を口実に自分のビジネスをとにかく再開したかったわけではないと思いますので。