鍼灸刺激と神経(伝達)その➀

この記事は、
「はり師・きゅう師・あんま・指圧・マッサージ師のための痛み学習テキスト(第1版)」 , (公社)東洋療法研修試験財団 , 平成27年度 鍼灸等研究課題 「鍼灸師・マッサージ師のための痛み学習システム」の構築 , 研究代表者:伊藤 和憲 を参考文献として書きます。

なぜ、鍼灸刺激はあらゆる症状や疾患に効果があるのでしょうか。
今回はそれを神経的なメカニズムを通してまとめていきたいと思います。

正常時の痛みの機序

痛みは組織損傷を伴ったり、組織損傷を引き起こす侵害刺激を受けた時に生じる感覚である。痛みは危険から身体を守るための警告信号としての役割を担っている。正常時の痛みは侵害受容器からの興奮が脊髄内を上行し、大脳皮質や大脳辺縁系などに投射され痛みと認識する。

そもそも痛みは、生体を危険な状態から回避させるために備わった警告システムの1つであるという説もあります。もし、何もしてないのに痛みを感じることがあれば、それは脳が危険な状態ということを無意識に察し、警告システムを作動させたのかもしれません。

痛みの受容器(センサー)

痛みを受容する受容器を侵害受容器と呼び、皮膚、筋肉、内臓などに分布している。侵害受容器は神経の末端が変化したもので、特定の受容器構造を持たない自由神経終末であり、受容体が捉えた侵害刺激を電気信号に変える役割がある。

全身のあらゆるところに痛みを感知するセンサーが備わっています。これを侵害受容器と呼びますが、要は「侵害」=「危険状態」を受容するセンサーです。
高閾値機械受容器とポリモーダル受容器の2種類のセンサーがあることが分かっています。

高閾値機械受容器

侵害性の機械刺激にのみ反応する受容体が存在し、局在が明瞭な痛みに関与し、針で刺したりするような機械刺激に反応する。

機械刺激というのは、簡単に言えば物理的な刺激です。トゲが刺さったとか、指を切ったとか、思いっきり手をどこかにぶつけたなど。確実にそこにある痛みです。

ポリモーダル受容器

ブラジキニンやプロスタグランジンなどの侵害性化学刺激や侵害性熱刺激、侵害性機械刺激など様々な受容体が存在し、局在の不明瞭な痛みに関与する。また、ポリモーダル受容器は痛みを感じない非侵害刺激でも反応することが報告されている。

細胞が破壊されると特定の物質を体内に放ち、「今、ここの細胞壊されたよ。めっちゃ危険状態!」という信号を放ちます。信号を広範囲に放つので、特定の”ポイント”でなく”エリア”を指します。

神経線維

神経線維は太さや伝導速度によってA〜Cに分類されている。Aから順に神経線維は細くなり、神経線維は太いほど伝導速度は速くなる特徴を持っている。


(図は参考文献より引用)
以上の図のように、神経線維によって伝達する情報が異なり、それと同時に速度も違うことが分かっている。


α 固有感覚・体性運動とは
目を閉じて手を90度横にもってきて というとこの神経はフル活用される。
体の位置情報システムであり、今どんな姿勢で、どこの筋肉が緊張してて、あの関節の角度がこんな感じで・・・という機能を制御している。これが体内の神経線維の中で最も太く速い伝達を行う。それは考えればなんとなくわかることで、触られたとか、熱い・冷たいよりも、まずは正しく動かないと危険は回避できないし、狩りもできない。動物にとって重要な神経である。

β 触圧覚はそのまま
触られている・押されているなどの刺激に対して働く神経である。触覚と嗅覚(味覚)だけは古代の生物から残り続けている感覚という理由が神経の太さからもわかる。

γ 筋紡錘への運動繊維とは
そもそも筋紡錘ってなにって話だけど、筋紡錘は筋肉の中にある「筋肉の長さ」を検知するセンサーのこと。これがないと、毎日が肉離れの記念日。筋肉の伸びる限界を感知して制御をかけるためのセンサーだから、これが壊れると筋肉の制御がうまくいかなくなる。

δ 痛覚・温覚・冷覚は
これも結構そのままな感じがするけど、重要なのは痛覚と温冷覚が同じ神経であること。冷点って知ってますか?体の中には、押されると冷たく感じるポイントがある。これは、この痛覚と温冷覚が同じ神経を通っているから起こる錯覚なんだね。
特に痛覚は「高閾値機械受容器(侵害刺激)」からの興奮を伝導し、速い鋭い痛み(1次痛)を伝える。これこそ、「あっ、イテッ!!」という痛みを感じるもの。下手に鍼を打つと感じる痛みはこれ。Aδ線維は髄鞘を有しており、跳躍伝導(簡単に言えば各駅停車じゃなくて特急に乗れる)が行われるため伝導速度は速い。そりゃ、鋭い痛みをゆったり感じてたら死んじゃうもの。危険回避のためには素早く感じないと。

上記までが種類で言えば A に分類されるもの
体性感覚(Aα)、触圧(Aβ)、筋の状態(Aγ)、痛・温冷覚(Aδ)を主るもので、有髄繊維だから伝達速度も速く、神経線維も太いわけだ。

ではB繊維は
交感神経節前繊維。。。とその前に

交感神経の働きを確認しておこう。

「闘争と逃走の神経(英語ではFight and Flight)」と呼ばれる神経。

心臓
 β1受容体
  洞房結節→心拍数↑
  心房→収縮、伝導速度↑
  房室結節→自動能、伝導速度↑
  ヒス束・プルキンエ線維→自動能、伝導速度↑
  心室→収縮、伝導速度↑
まとめ:心拍数、収縮力、伝達速度が向上!

細動脈
 α受容体
  冠動脈→収縮
  皮膚・粘膜→収縮
  骨格筋→収縮
 β2受容体
  冠動脈→拡張
  骨格筋→拡張
まとめ α:末梢血管収縮・骨格筋収縮
まとめ β:動脈拡張・骨格筋弛緩


 β2受容体
  気管支筋→弛緩
まとめ:気管収縮

腎臓
 β受容体
  傍糸球体細胞→レニン分泌↑
 α受容体
  尿細管→Na再吸収↑
まとめ:血圧上昇、血中Na増加

脂肪細胞
 β3受容体
  脂肪分解、燃焼
まとめ:代謝促進

簡単にまとめると、交感神経が優位になると
心臓のポンプ作用強化
毛細血管は収縮or拡張どっちかは場合による
肺の気管が収縮
腎臓では血圧上昇
脂肪はめっちゃ燃える って感じです。

ようは交感神経が優位になれば「臨戦態勢」に近くなる。
ドキドキしてきて、呼吸は浅く速く、代謝は上がり、必要な部位のみに血液が集中する。これが交感神経の作用ですね。

んで、その交感神経には節前と節後で神経線維が異なるわけですね。
「節」が何かっていうと、連絡中継地点やね。前からきて、後に行く。
節前繊維はB繊維で有髄で比較的に伝達速度は速い。ただ、中継後の節後繊維はC繊維で無髄繊維だから伝達速度は遅いんやな。それも器官によって応答時間が変わってくるけど、皮膚表面とか末梢の循環器系は速く応答があることも分かっているのだね。

ってことでB繊維っていうのは、交感神経の節前繊維なんだな。

んで、少し出てきたC繊維っていうのが交感神経の節後繊維なんだけれども、もう一つ機能があって「痛覚」もあるんだな。あれ?痛覚さっき出てきたやんって。その通りなんだけど、C繊維の痛覚は「鈍い痛み」を伝えるんだな。腹がキリキリ痛むとか、鍼のしたときの「ズーン」とした痛みがこのC繊維の痛覚にあたるわけだ。
特徴は、「ポリモーダル受容器からの興奮」を伝導していることと、遅く鈍い痛み(2次痛)を伝えること。C線維は無髄であるためAδ線維に比べて遅くなるんやな。

まとめると、

痛みを伝える神経線維はAδ線維とC線維の2種類である。高閾値機械受容器からの興奮は有髄のAδ線維によって伝導され、速い鋭い痛み(1次痛)を伝える。Aδ線維は髄鞘を有しており、跳躍伝導が行われるため伝導速度は速い。一方、ポリモーダル受容器からの興奮は無髄のC線維によって伝導され、遅く鈍い痛み(2次痛)を伝える。C線維は無髄であるためAδ線維に比べ伝導速度は遅くなる。

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