
基礎の基礎;反射を用いた鍼灸治療
1. はじめに
鍼治療は、皮膚や筋肉への刺激を介して生体の自己調整機能を促進する治療法である。そのメカニズムの一つに「反射」の利用があり、これには**軸作反射(axon reflex)、脊髄反射(spinal reflex)、上脊髄反射(supraspinal reflex)**の三つが主要な要素として関与する。本記事では、それぞれの反射の仕組みと鍼治療における応用について解説する。
2. 軸作反射:局所での血流調整
軸作反射とは
軸作反射は、求心性神経(感覚神経)の興奮が脊髄を介さずに、同じ神経の軸索分枝を通じて遠心性に情報を伝達する現象である。この反射は特に血流調整や炎症反応に関与しており、鍼治療の即時的な局所効果に寄与すると考えられる。
鍼治療における軸作反射の役割
鍼が皮膚や筋膜に刺入されると、感覚神経終末が刺激され、**サブスタンスP(Substance P)やカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)**などの神経伝達物質が放出される。これにより、局所の血管拡張が促進され、血流の増加と代謝の活性化が生じる。
軸作反射の応用例
筋緊張の緩和(局所の血流増加による乳酸代謝の促進)
炎症性疼痛の軽減(抗炎症作用の誘導)
皮膚温の上昇(毛細血管の拡張による)
3. 脊髄反射:筋緊張と血流調整
脊髄反射とは
脊髄反射は、感覚神経が脊髄に入力し、その場で運動ニューロンに直接シナプスを形成することで生じる素早い応答である。代表的なものに膝蓋腱反射や屈曲反射がある。鍼治療では、筋紡錘やゴルジ腱器官を介した調整機構が重要な役割を果たす。
鍼治療における脊髄反射の役割
鍼刺激が深部組織に到達すると、筋紡錘の感覚受容器が興奮し、α運動ニューロンを介して筋緊張が変化する。また、ゴルジ腱器官の刺激は、抑制性介在ニューロンを介して筋のリラックスを促進する。
さらに、後根反射(dorsal root reflex, DRR)が関与することが知られており、この反射を介して感覚神経から交感神経への影響が生じ、血管拡張作用をもたらす。後根反射により、特定の体表部への鍼刺激が局所のみならず遠隔部位の血流調整にも関与する可能性が示唆されている。
脊髄反射の応用例
筋の緊張亢進を抑制(筋紡錘の調整)
反射性収縮の誘導による筋機能の活性化
痛みの抑制(内因性鎮痛機構の活性化)
後根反射による血流増加(交感神経の調整による血管拡張)
4. 上脊髄反射:中枢性の調整機構
上脊髄反射とは
脊髄を介して脳幹や視床、さらには大脳皮質の調節機構を活性化する反射である。これにより、自律神経機能の調整や内臓機能の制御が行われる。
鍼治療における上脊髄反射の役割
鍼刺激が迷走神経や視床下部を刺激することで、副交感神経が活性化され、全身のリラクゼーション効果やホルモン分泌の調整が期待できる。
上脊髄反射の応用例
自律神経失調症の改善(迷走神経の活性化)
ストレス軽減と睡眠の質向上(視床・大脳皮質の影響)
内臓機能の正常化(消化器系・循環器系への調整)
5. まとめ
軸作反射:
局所の血流調整や炎症抑制に寄与し、筋緊張や痛みの改善をもたらす。脊髄反射:
筋紡錘やゴルジ腱器官を介した筋緊張の調整を行い、運動機能の向上に寄与する。後根反射:
交感神経を介した血流増加に関与し、遠隔部位の血流調整にも寄与する。上脊髄反射:
迷走神経や視床を介して自律神経系のバランスを整え、全身的な調整効果を発揮する。
鍼治療は、これらの反射機構を総合的に利用し、疼痛管理、自律神経調整、筋機能改善など、多岐にわたる効果を生み出す。これらの知識を活用することで、より適切な施術戦略を立案できるだろう。
いいなと思ったら応援しよう!
