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外感八風の邪を弁ずる

この章であらわれる八風にはいろいろな解釈があるが、ここでは中医学における外感病一般と考えていいだろう。内傷の場合に食欲が落ちるのは興味深い。


外感八風の邪を弁ずる

 外からの八つの風邪による外感の病(=外傷)を治療するにあたっては、飲食の乱れや労役による内傷が重なっている場合があり、とりわけ2~3日のあいだは外傷の症状と酷似することがあります。さらに、他にも特異な名称の症状がいくつか見受けられるため、もしこの両者を明確に区別せずに論じてしまうと、内傷による不足の証を有余の外感風邪と誤診し、誤った治療によって患者を害してしまう恐れがあります。そのため、たとえ重複する理屈があっても、患者や医者が容易に鑑別できるように細かく分けて記すのです。
 外感八風の邪は「有余の証」であり、飲食不節や労役による内傷は「不足の病」です。内傷でも風を嫌って自然に汗が出たりすることがあるため、暖かく無風の場所では寒さを感じないなど、外感と似通ったところがありますが、よく観察すると違いが分かります。具体的に、外感の風邪では悪風・自汗・頭痛・鼻水が常にあり、日に日に悪化して裏に入り、下証へ進むまで続きます。患者は声が重く濁り、大きく張りがあって力強く、鼻は詰まるものの食欲があり、腹部は調和し、味もわかって大小便も正常です。ただし筋骨が痛むため、床に伏せば支えがなければ起き上がりにくいといった特徴が見られます。
 一方、内傷の場合はたとえ大きな風に当たってもさほど寒さを感じないのに、戸や窓のすき間から入り込むわずかな冷風を極度に嫌うなど、傷風や傷寒と大きく異なる点があります。鼻水や頭痛、自発的な発汗などは間欠的に起こり、鼻づまりや息切れ、声の弱さ、食欲減退や食べたくないと感じることもしばしばです。お腹の具合が悪く、五穀の味をわからず、小便が近いわりには喉はあまり渇かないなど、腹部や消化器系に不調が及ぶことが多いのも特徴です。さらに、初期の労役が原因で病を発した場合には食欲が落ち、尿が赤黄色になり、便秘気味になったり、排便時に白い膿のようなものが混じることもあり、ときには黄色いどろどろした便や白い軟便が出たりすることがあります。胸やみぞおちあたりが詰まったり、まるで刀で抉られるように痛んだりすることもありますが、この二つの症状は同時ではなく交互に表れるのが通例です。また、ときにみぞおちから心のあたりまで痛みが及び、脇腹まで突き上げるように広がり、脐下の相火がせき止められず逆流するかのように陽明の経脈が逆行して胸のあたりを乱すため、気が休まらず、重症になると大きく喘ぐほど苦しくなることもあります。その際、熱が元気を消耗して四肢に力が入らず、常にだるくて眠くなりますが、こうした症状は外感風寒では見られないため、両者の鑑別は比較的容易です。したがって、外感八風の有余証と内傷不足の病を取り違えないように、これらの特徴を丁寧に観察して診断することが肝要なのです。


原文

 辦外感八風之邪,或有飲食労役所傷之重者,三二日間特与外傷者相似,其余証有特異名者,若不将両証重別分解,犹恐将内傷不足之証,誤作有余外感風邪,雖辞理有重复処,但欲病者易弁,医者易治耳。
 外感八風之邪,乃有余証也;内傷飲食不節,労役所傷,皆不足之病也。其内傷亦悪風自汗,若在温暖無風処,則不悪矣,与外傷鼻流清涕,頭痛自汗頗相似,細分之特異耳。外感風邪,其悪風自汗、頭痛、鼻流清涕、常常有之、一日一時、増加愈甚、直至伝入里作下証乃罷。語声重濁、高厲有力、鼻息壅塞而不通、能食、腹中和、口知味、大小便如常、筋骨疼痛、不能動揺、便著床枕、非扶不起。
 其内傷与飲食不節、労役所傷、然亦悪風、居露地中、遇大漫風起、却不悪也;惟門窓隙中些小賊風来、必大悪也、与傷風、傷寒俱不同矣。況鼻流清涕、頭痛自汗、間而有之。鼻中気短、少気不足以息、語則気短而怯弱、妨食、或食不下、或不欲食、三者互有之。腹中不和、或腹中急而不能伸、口不知五穀の味、小便頻数而不渴。初労役得病、食少、小便赤黄、大便常難、或渋或結、或虚坐只見些小白脓、時有下気、或泄黄如糜、或溏泄色白、或結而不通。若心下痞、或胸中閉塞、如刀切之痛、二者亦互作、不并出也。有時胃脘当心而痛、上支両脇、痛必臍下相火之勢、如巨川の水、不可遏而上行、使陽明の経逆行、乱於胸中、其気無止息、甚則高喘、熱傷元気、令四肢不収、無気以動、而怠倦嗜卧。以其外感風寒俱無此証、故易為分辨耳。

『内外傷弁惑論』李東垣


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るかりん
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