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肝の病理(精神五臓第一④)

原文

肝気悲哀動中則傷魂、魂傷則狂妄、其精不守、令人陰縮而筋攣、両胸脇骨不挙。毛悴色夭、死于秋。『素問』曰、「肝在声為呼、在変動為握、在志為怒、怒傷肝。」『九巻』及『素問』又曰、「精気并于肝則憂。」
意訳:
肝気が悲哀で動揺すると、魂をやぶり狂ったようになります。その精が守られなくなると、人は陰嚢が縮こまり筋肉が攣縮して、肋骨の動きが悪くなります。(そして、)髪の毛が衰え、顔色はあせ秋に死にます。
『素問』には、「肝は声においては呼、変動においては握、志においては怒、怒るとが肝臓を傷つける」とあります。また、『九巻(霊枢)』と『素問』では、「肝に精気が集まると憂う」と述べています。

『鍼灸甲乙経』より抜粋

解説

肝気が悲哀で動揺する(肝気悲哀動中)

前回の引用から見ようと思う。

素問曰、怒則気逆、甚則嘔逆及飧泄、故気上。
意訳:
素問では、怒ると気逆し、ひどい場合は吐いたり下したりする。ゆえに気が上るという。

鍼灸甲乙経より抜粋

怒る=気逆。肝の志(向かうところ)は「怒」とあるので、肝気は上逆しやすい。志は病理的な意味だけではなく、生理的な意味が大きいので、肝気は上昇していく傾向があり、それが過剰になると「肝を傷る」という状態になるのだろう。しかし、この一節では肝気が悲哀で動揺すると魂を傷る(肝気悲哀動中則傷魂)とある。五臓色体表を学んだ先生ならば、肝気は「怒」じゃないのかという気持ちになる。「悲」の部分も見てみましょう。

悲則心系急、肺布葉挙、而上焦不通、営衛不散、熱気在中、故気消。
悲しめば心系はキツくなり、肺は広がり上焦は通じず、営衛は散らず、熱はこもり、そのため気が消耗する。

鍼灸甲乙経より抜粋

「悲」の情動におけるポイントは

  • 上焦が詰まって通じなくなる

  • 熱が上焦にこもる

  • 気が消耗される

以上の3点にまとめられます。
これらを考慮すれば、肝気が上へ昇るという特性をもつので、「悲哀」によって肝気が動揺すると上焦にこもった熱はさらに上へ登っていき、上では狂った様な症状が現れ(狂妄)、上焦が詰まって通じないため胸郭の動きは悪くなり(両胸脇骨不挙)、下は気が不足して流れず陰嚢が縮こまるような症状(人陰縮而筋攣)が見られると考えられます。

肝に精気が集まると憂う(精気并于肝則憂)

最後に『素問・宣明五気篇第二十三』からの引用であるこの一節を見てみよう。精気が集まるというのは一見良いように思うが、過ぎたるは及ばざるが如しで、精気が集まり過ぎた場合も不調になると考えられてきた。肝気に精気が集まるというのは、肝気が過多になるのとほぼ同義である。そのため肝気が過剰になり、脾気をやぶるという病理があらわれます。これは五行的にいえば木克土、中医学的にいえば、肝脾不和証の状態で、『霊枢・本神篇第八』にはこの証左となるような記載があります。

脾愁憂而不解、則傷意。
脾において憂いが解けないと、意がやぶられます。

霊枢・本神篇第八

まとめ

この章では情緒の影響から肝の各論を見てきました。前回の概論と違い、肝=怒だけでなく、他の五臓や情緒がからみ合いより複雑な病理が形成されています。抽象度があがり、難しくなってきましたが情緒による気の動きから臓腑を読みとこうという皇甫謐の試みが読み取れるようです。次の各論は五行の順番にならって心が続きます。お楽しみに。

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