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ひとへの働きかけから社会は始まる

「しんけちゃん」と玄関先で幼な子が呼ぶ声がする。それに応えて幼児二人が連れ立って駄菓子屋に向かう。幼少時の一日はそんな掛け声から始まった。こんな小さい頃の日常を思い出したのは、先日、孫の面倒をみてほしいという子ども夫婦からの依頼があったからである。老親に子どもを預けて仕事だそうだ。親が健在だからこそできるのだと思いつつ、孫の顔見たさに出かけていった。歩きながら、ふとひとへの働きかけということが頭に上がった。

自己完結的で完璧な人間ばかりだったら、この世の中は、さぞや殺風景なことだろうなと思う。皆が自分のことは自分でできる人ばかりで、人を頼ることがなくなったら、われわれは孤独にさいなまれるに違いない。ひとりでは何も成就しないという事実に加えて、ひとりではつまらないという本性のおかげで、常に他人に働きかけをする。働きかけが人間関係を作り、社会を構築していく。

社会の仕組みの大半は要請と承諾により成り立っているようだ。選挙、株式投資、就活、売買契約、結婚プロポーズ、友人からのお誘いなどその例は枚挙のいとまがない。この世の中はすべてひとへの働きかけで成り立っていると云える。

ひとへの働きかけは、どうも成長しつつ学ぶものではないらしい。3歳の孫は、歩き始めたころからすでに大人の手を引いてどこかに連れて行こうとする。たどり着いたところで自分が手の届かないところにあるものを取ってくれと指を差して要求していた。また器用にドライバーを回して玩具の電車の電池の蓋を開けるのが面白いらしい。うまくできないとやってくれという仕草をしていた。そんな可愛らしい仕草にはすぐ答えてあげたくなる。孫と私は、いつのまにか働きかけては、働きかけられて人間社会の小さな小さな世界の中にいる。相互に働きかける社会は、こんな老人と孫の関係から始まっている。

2023.4.5



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