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健康管理する腕時計に思う

初めて腕時計をつけたのは、たしか高校受験のときだった。腕時計をつけると時間を支配したつもりになったが、事実はその反対で時間に支配される日々の始まりだった。サラリーマンになったら、通勤途中で何度も腕時計を確認する生活が続いて、仕事中も時間にしばられ、帰宅して腕時計を手首から外した時にやっと時間から解放された。

退職して、腕時計をしないですむようになり、時間から解放された。しかし、それも長くは続かず、子どもからもらった健康ウォッチをつけるようになり、いつまでも手首から腕時計が無くならない。就寝時間になると「お休みを取る時間です」とスマホに案内が来る。就寝中も心拍数を計測する。時間だけでなく、健康も腕時計で管理される日が来るとは・・・

情報を握るものが世を支配するということは、古今東西変わらない原理だが、支配者が握っていた情報のひとつに時間がある。農業には季節を表す暦は不可欠であり、支配者は、自分たちが持っている暦に従って農作業の進行を指示していた。昔は、時間を知ることは治世者の権力基盤のひとつだった。江戸時代に治世者が民衆に時間を知らせる役目を担っていたのが時の鐘で、治世者の権力の象徴だったとも言える。明治政府により正午の時報を知らせる正午のドンに引き継がれた。

各家庭に時計が置かれるようになったとき、皆が時間を支配したはずだったが、結局は、反対に時間に支配されただけだった。人々が今の時間を知ることができるようなったということは、細かな労働時間が割り当てられて、時計を持たなかった時代よりもはるかに時間に縛られた生活を強いられるようになったということだ。

今は、腕時計により時間を管理されるだけではなくなり、健康状態も管理されるようになった。朝起きると睡眠時の心拍数や呼吸数などが分かり、睡眠スコアなるものが表示される。時間を支配することで人民を支配してきたかつての王国のように、これからは健康ウォッチで国民の健康を管理する時代が来るかも知れない。デジタル化の流れの中で、国民の財産把握の次にあるのは国民の健康把握ではないかと思うのは、思い過ごしだろうか。


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