クマ夢物語
1 クマの出没
福井県に帰っている友人に6月半ばに福井市でクマが出たねと言うと、丸岡城下の民家にもクマが入ったらしいという返事が来た。クマが人里近くに出没しているが、こんな市街地に出るようになったことに驚いている。
クマが人間社会近くに出るようになった原因はいろいろあるだろう。
①クマの生息地が狭くなった。
②クマの食料となる木の実が不作。
③里山のような人間と野生動物の間のバッファゾーンがなくなった。
④開発が進み、クマの生息地に人間が近づいた。
⑤クマの個体数が増加した。
等が考えられるのだが、①生息地の減少②食糧難と④個体数の増加では全く状況が違う。
今はクマの生態調査が不十分であり、個体数が分からないので、絶滅寸前なのか繁殖しているのか、判断がつかない。
野生動物との緩衝地帯である里山がなくなったのは、限界集落が増えていることや、林野業が衰退していることから、素人目にもありえる話だ。里山は、野生動物へのお供え物の提供場所だった。反対に開発が進んで、人間の居住地が野生動物の生息地に隣接するようになったとも考えられるが、どちらなのだろうか。
人間を知らないのか、人間を恐れないクマが増えて、人間社会に入り込んできている。クマが人間慣れでなく、人間社会慣れするようになるのが怖い。
2 オオカミとの比較
オオカミが絶滅寸前の頃に、よく目撃されるようになり、その数が増えたように見えた。そのことだけを見ると絶滅寸前のオオカミと今のクマの状況は似ているように思える。
オオカミは、畑を荒らす動物を捕食する肉食獣のため、農民からは益獣とされ、反対に猟師の仕事と競合するために猟師からは害獣とされた。
一方、クマは、雑食であり、畑も荒らし、家畜も襲い、今や人家にも侵入するので、害獣である。雑食であることは、オオカミ以上に生存能力は高いと言える。単純に絶滅前のオオカミに近いとも言い切れない。
3 夢物語
人間の生存領域に侵入したクマは、人間と闘争することになるのだろうか。
ここからは夢物語である。
個々の戦いでは、人間はクマには勝てない。総力を上げた戦いになれば、クマに勝ち目はない。クマには集団で人間に戦う能力はない。
『猿の惑星』のように、知恵のあるクマに導かれて人間を打ち負かすことはないだろう。
科学技術を駆使した人間との戦闘に敗れたクマは、人間を恐れて、山の中に隠れるが、狭くなった生息地ではクマは繁殖できなくなり、絶滅する。
絶滅寸前には、ゲリラのように夜間に人里に現れ、農作物や家畜に害を与えるが、人間の巧妙なワナにかかり、その数は減少の一途を辿る。
ある日、体の小さな闘争本能のない遺伝子を持つクマが出現する。彼は、人間に近づき、エサを得ることに成功する。それができたクマだけが、かつてのネコのように人間社会と共存して、生きて行けるようになる。
それとも、何かの拍子に人間の数が少なくなり、人間の生活圏が小さくなったときに、クマの生息地が広がり、クマの時代がやってくるかも知れない。日本の人口減少、これはクマにとって繁栄のチャンスだ。
そうか、里山がなくなり、山村が崩壊しているということは、クマの生息地の拡大がすでに始まっているということだったのか。こんな夢物語が頭に浮かんでいる。
クマは絶滅前の状態なのか、それともその生息域が拡大しているのか、はたしてどちらなのだろうか。