命の重み
かつて、精神衛生の研修講師が、うつ病にならない人は、みな共通に自分への良いイメージを持っていて、しかも若い時に大きな病気を克服した人は、精神的に強いと言ったことがある。
それを聞いた直後に、安定した精神の持ち主である、隣席に座っている課長に「課長は若い時に病気をしたことがありますか」と聞いたら、即座に「うん、あるよ」とうなづいた。
そう聞いたのは、常々この人の動じない精神は、はたしてどこから来ているのだろうと関心があったからかも知れない。この人を作り上げているものが、若い時の大病経験だけではないのだろうが、理由のひとつではあっただろう。
大病を克服した人には、単なる成功体験というだけでなく、人間関係から生じる軋轢は、命の重みに比べたら些細なことだと思う力が身についているからだと思う。
生きている価値に勝るものはない。
昔、越中五箇山の民宿の主人吾郎平さんが、囲炉裏端で「幸せって生きていることです」と言った言葉を思い出す。価値には絶対的な価値など存在しない。すべて相対的な価値である。その相対的な価値の中で、生きていることが最も価値ある幸せである。年を経るとともに日増しにそう実感されるようになった。
吾郎平さんの言葉を聞いてから40余年が立った。年とともに病気と健康の間を彷徨うようになった。それとともに、ますます命の重みを感じている。生きている幸せを感じている。