知床のヒグマ撮影・人馴れ問題について思うこと。
先月(2018年5月)、撮影のために知床入りした。
ウトロでは、人慣れしたクマが頻繁に出ている、
それ目当てに道路沿いにカメラマンが集まっているとの情報。
僕としては気が進まない。しかし長年取り組んできた主題がある。
撮りたいシーン(情景)があるのだ。
それは植生上エリアも限定され、
今の状況ではあまり好ましい場所ではない。
出発当日まで、僕はどうすべきか悩んだ。
そして、自らを叱咤し、神社に駆け込んで厄払いを済ませてから
フェリーに乗り込んだ。
結果として、知床入りしヒグマに出会った僕は
その場で撮影をストップした。
茂みの中から出てきたヒグマが、こちらに近づいてくるという、
異常と思える行動を見せたからだ。
後にレンジャーと話をしていて指摘いただいたが、
ひょっとすると茂みの中にコグマが隠れていたのかもしれない。
そういう状況は、僕自身前にも一度経験している。
しかしいずれにせよ、危険だと思った。
その直後、もう一頭のヒグマに会う。
数年をかけて追い求めていたシーンが目の前にあった。
しかし先ほどのヒグマと場所が近く、成獣だったが兄弟の可能性もある。
同じ反応をする個体ならば危険と考え、
僕はカメラを向けることすらしなかった。
「国立公園でこそ銃の携行を許してほしい」
人馴れグマの存在を恐れていた写真家の言葉が、
今こそ本当に深い実感をもって胸に染みわたってくる。
多くの人馴れ個体の出没。クマの怖さを知らないままに
道路わきでそのクマを取り囲む撮影行為。
極めて危険な状態だと感じる。「表面張力」という言葉が
不気味な気配と共に脳裏をよぎった。
最悪の結果が器から溢れ出す、最後の一押しを
撮影者がしてしまう可能性は、低くはない。
人馴れや餌付け。撮影者が増えている現在、
その問題はそこかしこで大きくなってきている。
中でもクマという大型動物を被写体とする場合、
動物や人間たちの命にかかわるという、大きな危険を孕む。
撮影者は皆、人馴れという問題に助けられている部分もあるだろう。
私自身も例外ではなく、正しいわけではない。
またこの状況を作り出したのはカメラマンだけではない。
あくまで私感だが、観光、研究、
そしてヒグマ対策に取り組んでいる人たちにすら
少しずつその責はあるのかもしれない。
知床でクマに会うのは比較的容易だ。
だから多くの人が特別な知識や経験がなくとも
出会うことができる。
故に撮影者も食性や生態に関する知識が無くても撮れてしまう。
正直に言ってしまうと、そういう能力がないのであればクマを追う行為は
きわめて危険であり、やめるべきだと思う。プロもアマも関係ない。
クルーズ船からの観察・撮影という安全な手段もある。
しかしこれだけは言っておきたい。
知床のヒグマたちも、人慣れ個体は一部の側面であり、
彼の地の自然に寄り添った食性と生息環境を持ち、
地域独自と思える文化すらある。魅力的な動物たちなのだ。
私はそれをずっと追いかけてきた。わずかながらその自負がある。
撮れるときに撮る。
それができない私は、プロのカメラマンとしては失格かもしれない。
ただヒグマを見続けてきたひとりの人間として、
今回撮影をストップした判断は、間違っていなかったと信じている。
毎年、何十頭もヒグマが捕殺されている現実を、ご存知だろうか。
知床を訪れる皆様には、是非一度、この問題を考えてみていただきたい。
私は知床が好きだ。不安を感じながらも、一人の撮影者として
この地を見つめ続けていくだろう。
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知床のクマに関して、私たちにできること
※道路脇でヒグマを見ても車から降りない。
※渋滞が人を呼ぶため、一か所に長くとどまらない。
※クルーズ船など安全な手段でヒグマを観察する
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