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ファンドレイジングの思い出

執筆者:吉岡マコ(NPO法人シングルマザーズシスターフッド代表理事)

ファンドレイジングという言葉を初めて知ったのは1990年、17歳のときだった。

1990年、今から約30年前、高校2年の時に、学校を1年休学して、AFSという団体を通じて、オーストラリアに1年間留学し、さまざまなボランティアの方にお世話になった。

留学生1人を受け入れるのに、リエゾンパーソン(留学中のさまざまな相談事に乗ってくれる人)、シャペロン(空港からの付き添いをしてくれる人)、オリエンテーションや各種イベントなどのスタッフやリーダーなど、さまざまなボランティアが関わっていた。私も帰国して、大学生になってから、AFSでいくつかのボランティアを経験し、アルバイトよりも多くの時間を費やした時期もあった。

世界中からの留学生を受け入れたり、派遣したりするためには資金も必要ということで、よく、コミュニティごとに寄付を募っていた。私がいたのはBankstown支部というところで、1ヵ月に1回、ミーティングがあり、留学生はその度にスピーチをしないといけないのだけど、私は割とおとなしめの留学生だったこともあり、帰国前の最後の会で「英語が上手くなった」と盛大に褒められたのを覚えている。

その支部活動でよく覚えているのは、ラミントンというお菓子をみんなで手作りして、学校で五ドルくらいで売ってファンドレイズしたり、チャリティマラソンやウォーカソンに出場して寄付を募ったりしていた。

そういうファンドレイジングイベントに参加することで、留学生がコミュニティに馴染めたり、受け入れられる機会にもなったし、留学生をコミュニティに迎え入れるための資金集めという共通の目的のために活動することが、人との繋がりを促進したりしていた。

マラソンやウォーカソンでは「あなたの寄付先は?」なんていう会話もあったりして、寄付が身近にあった。

そういう経験を10代にしていたので、ファンドレイジング、寄付集めというのは、なんとなく「カッコイイこと」というイメージを持っていた。

日本でファンドレイジングという言葉が身近になったのは2006年頃

1990年といえば、まだNPO法も成立していない頃だ。あれから、帰国して、1998年の3月に出産をし(NPO法が成立した年だね)、その経験からマドレボニータという「産後ケア」の活動を始めたけれど、「ファンドレイジング」という言葉が身近になったのは、もっとあと、2006年くらいのことだ。

マドレボニータを法人化する時にお世話になったSVP東京のギャザリングで、日本ファンドレイジング協会を立ち上げられる前の鵜尾雅隆さんから、ファンドレイジングの魅力を聴く機会が何度かあった。日本でもこうやってワクワクする寄付集めのムーブメントが、市民発で起こるのか、という予感を感じた。

それでも、当時のマドレボニータは賛助会員、正会員の会費は受け取っていたけれど、積極的に寄付を募っていなかった。マドレボニータの教室に参加する人からは参加費をいただいて、運営していた。受益者負担というやつだ。

その頃は、NPOでも「寄付を募る」ということが、あまり一般的ではなかったように思う。スタッフからは「寄付を募るのは申し訳ない」「気が進まない」という声もあった。

私は、高校生の時に、ファンドレイジング活動は「クール(かっこいい)な行動」と刷り込まれていたので、日本人の「寄付を募る」ことへの抵抗感に違和感を持ちつつも、その違いは何なのかなぁと疑問に思っていた。

そこから大きく変化したきっかけは2011年の東日本大震災だ。

2011年の12月に初めてのバースデードネーションを呼びかけ

甚大なダメージを受けた人たちを、市民の私たちが支えるんだ、という寄付行動やボランティア行動が一気に高まった。私たちも、ボストンのフィッシュファミリー財団が集めてくれた寄付金をいただき、岩手県の釜石に産後ケア教室を届けに行ったりした。

そんな経験を通して「自力では、産後ケア教室に参加できない人がいる、その人たちの受講料を寄付によって負担して、参加してもらおう」という「産後ケアバトン制度」のアイデアを思いついたのが2011年の年末。

2011年の12月27日、39歳の誕生日に「バースデードネーション」を立ち上げた。当時はまだ珍しかった、市民が2000円程度の少額から寄付ができるプラットフォーム「Just Giving」を使って、寄付を呼びかけた。「誕生日のプレゼントがわりに、マドレボニータに寄付をしてくださいませんか?」と。

いただいた寄付は、マドレボニータの産後ケア教室になかなか自力で来られない母子が参加するための費用として使わせてください。双子、三つ子など多胎児の母、障がいを持つ児の母、シングルマザー、低体重出生児の母など、より困難を抱えながらも、なかなか支援の手が届かない産後女性にも、産後ケア教室に参加してもらえるように、力を貸してくださいとお願いした。

それがきっかけで始まった取り組みは「産後ケアバトン制度」として、その後、個人だけでなく企業からも寄付をいただけるようになり、その参加者は1000組を超えた。

あれから10年、2021年の12月27日。

今日は私の49歳の誕生日。歳をとったなぁ。25歳の時に立ち上げ、22年続けたマドレボニータを次世代のリーダーに譲り、昨年末に代表を退いた。

そして、自分自身のシングルマザー経験や、マドレボニータで取り組んできた心身の健康や女性のエンパワメントの知見を活かして、シングルマザーズシスターフッドを立ち上げた。

今年の誕生日は、シングルマザーズシスターフッドの寄付月間キャンペーンにバースデードネーションをお願いしたい。

今年は、Mother's Dayキャンペーンを5月に、そして、寄付月間キャンペーンを12月に、シングルマザーズシスターフッドのプログラムの参加者から有志を募って運営してきた。「ファンドレイジング」という言葉を初めて聞く人も、キャンペーンのスタッフになって「寄付を募る」活動に参加してくれている。

支援する人/支援される人を固定化しない

シングルマザーは寄付を受ける側、というイメージが強いと思うけれど、必ずしも、そちら側にずっと留まらなくていいという経験は、大きなエンパワメントになっていると自負している。

本キャンペーンの、スタッフもエッセイ執筆者も、全員、ひとり親経験者だ。この活動はパンデミック下で始まったので「オンラインがデフォルト」である。この1年半で、全国34都道府県のシングルマザーに出会えた。

本キャンペーンでは、全国の仲間がチームとなって企画を運営している。週末の早朝にオンラインミーティングをおこない、クラウドのスプレッドシートやドキュメントを共有しながら作業している。

住まいはお互い2000キロ離れているメンバーもいる。こうして地域を超えて何かをやり遂げることで「地方だから」「女性だから」「ひとり親だから」と自分を縛らなくていいという実感を体験する機会にもなった。

寄付金を使って実施された「セルフケア講座」に「無料で参加」させてもらったシングルマザーが、今度は、こういった講座を「無料で提供」を続けられるように、寄付集めにも参加する。

「支援される」ばかりではなく、「支援する」側にも回れるというパラダイムシフトは、目から鱗であり、人生の新しい手応えを感じてくれているようで嬉しい。

5年前の12月27日にひとり親になった人

今回のプロジェクトで広報チームのリーダーになってくれた、たなじゅんさんは、5年前の12月27日に、ひとり親になったそうだ。DVからのがれ、2人の子どもを連れて、公園暮らしからのスタートだったという。詳しくは手記を読んでほしい。 

こんな抒情的な文章が書ける才能があり、素晴らしい感性を持った、そんな彼女が、子ども2人を連れて、耐え抜いてきた逆境と、さまざまな福祉に世話になりながらここまで積み重ねてきた努力を思うと、泣けてくる。

そんな過去を昇華した今では、仕事のかたわら、全国のスタッフをオンラインでまとめて、寄付集めの広報をしている。その姿はとても活き活きしている。先日、親子の講座で、小学生のお嬢さんにも会ったが、初対面の人ばかりの場でも物おじせずハキハキしていて、しっかりもので、本当に可愛かった。

書きながらも泣いてしまう。

みんな力を持っている

キャンペーンに参加してくれたシングルマザーたちは、それぞれに持っている力を発揮していて、本当に素晴らしいと思う。その話をすると「もともと優秀な人を集めたんでしょう」などと揶揄されることがある。

彼女らのくぐり抜けてきた壮絶な逆境と、そこから這い上がってきたたゆまぬ努力を「優秀な人」という言葉で片付けないで欲しい。

逆境をくぐり抜けてきたひとり親が、機会とピアサポートを得て「力を発揮する」「新しい人生の手応えを得る」という姿は「困っていない」ように見えるからなのか?なかなかまだ、そういう支援には寄付が集まりにくいし助成も採択されにくいというのが悩みだ。

それでも、私がシングルマザーだった時、福祉の世話になっていた頃、その力を疑わないでくれた人たちから力をもらったし、差別的な扱いを受けた時には、シングルマザー仲間の理解に救われた。だから、人の力を過小評価せず、その力を信じて、それを発揮する後押しをするような支援をもっとしていきたい。

そんな思いに共感してくださる方は、今年の12月27日、お誕生日のお祝いに、シングルマザーズシスターフッドのキャンペーにご寄付いただけたら嬉しいです。








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