ひとりで生きるということ
全く義理堅い男だ。
来年の秋になったらゴルフでもしよう。昨年会った時に約束していたことをしっかり覚えていたんだ。その時は、お互い住んでいる場所の中間点あたりで落ち合おう。それが静岡県藤枝市という訳だ。
彼は15年前まで同じチームで働いた4学年年下の相棒だったが、今では別の会社で活躍している。昨年から住み始めたのは静岡県沼津市。僕が単身赴任しているのは大阪なのに、どうして中間地点が藤枝市になるのだろうか。
「なぁ、随分と沼津よりやなぁ」
「そんなことないですよ、私は車なんで、新幹線で来られるゆーじさんとは大体これくらいの時間配分かと」
なるほど、距離ではなく時間で測ったんかい。まぁ、細かいことはさておき、オッサン同士だが積もる話もそれなりに多いはず。何よりも、約束を覚えていてくれたことが嬉しい。昔から律儀だったが、今でもそれは健在のようだ。
彼は現在48歳。
昔からハンサムで運動神経も良い。高校野球では名門校出身で、2年生の時からエースで4番。残念ながら目前で甲子園の切符を逃したようだが、誰にでも優しくて親切、そして頭も良くて気も効く。だけど独身を貫いている。絶対にモテないわけがない。いや、モテなかったわけでもない。少なくとも僕の周りには彼に想いを寄せていた女性もいたんだ。
「なぁ、お前ひとりで寂しくないのか」
ふと、そう聞いてみた。この手の質問は、間違いなく職場ではタブー。でも、きっと誰もが聞いてみたかった質問だ。
「先輩、そりゃ寂しいですよ、昔は結婚に憧れていましたが、相手がいないんじゃ仕方ないですから」と、スマホの向こう側でケラケラと笑っていた。
「今では日本人の10数%が一生結婚しない時代ですよ。家庭を持てば子育てやら教育費などでお金もかかるし、なんと言っても自由が奪われるしね」
正直な気持ちなんだろう。負け惜しみという感はなさそうだった。だけど、国の機関が調査したのは未婚の18〜34歳の若者であり、48歳の中年ではない。あくまでも、若い世代の生活の行き詰まりを映す調査であり、中年の苦悩を反映するものでもない。
ひとりで生きるってどんな感じなんだろう。
確かに48歳で結婚し、幸運にも子宝に恵まれたとする。その子供が成人する頃の自分は70歳になっている。本来楽しみになるはずの老後の人生は、間違いなく住宅ローンや子供の学費に追われる。窮地に立たされるのは火を見るより明らかである。
ましてや子供が社会に出る頃は、ややもすると自分が火葬場へと出棺される可能性だってある。幸せという形は十人十色だが、そんなことを考え抜いた末に「ひとり」を選んだのかもしれない。
スマホ越しにケラケラ笑う彼の笑顔を想像しながら、ついつい見えない首輪を付けられている自分と重ねてしまう。
最後まで読み進めて頂きありがとうございました。🌱
強い台風が来ていますので、十分に備えておきましょう。
🍵 僕の居場所
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