詩『私をさがして』
題名
『私をさがして』
(隠しテーマ・二人だけの秘密)
高校の教師を今年定年退職して妻との二人暮らしの余生をやっと楽しみ始めたある朝、台所のテーブルの上に私宛の手紙が一通、置いてあった。
「その手紙の差出人の名前、教え子じゃない?」
妻の言葉が気になり確かめると去年に卒業した高坂蘭だった。
「そうだけど、何でお前が知って、る?」
妻はその言葉を待っていたように話しだした。
「実は卒業まえに家まで訪ねてきたことがあったの。かなり深刻そうな顔をしていたけれどあなたは留守で、でも帰り際に来たことは言わないで欲しいって頼まれて」
「へぇー、そんなことがあったんだ、何の用事だったんだろう」
「それがね、卒業してからも1回来たのよ。それから1週間まえに今度は電話があったの。でもいつものようにあなたには言わないでって言うのよ。すごい気になっていたら…手紙でしょ、ねぇ、早く読んであげた方がいいんじゃない?」
私は手紙の封を開けながら実はドキドキしていた。
けっして私としてはやましいことはなかったが、担任と生徒だったある放課後に彼女だけ教室に残っていたときがあって、
「なんだ、まだいたのか、早う帰れー」
そう言うと、急にクラスの男子の中であるエロ動画が流行ってて先生も見ているの?って言いながら近づいてきて、
「先生、好き!」
そう言ってニコリと笑ったと思ったら、私のほっぺにチュッてキスをしてきた。
私が硬直してる様子を存分に楽しんでから、
「二人だけの秘密…ね」
そう言って教室から出ていったことがある。
翌日からはいつも通りで、私は夢だったのかと思うようになっていた。いや、そう思うように努力した。あれは遊びで生真面目な私をからかったのだ。
高坂蘭は、そういうところがある生徒だった。
「ねぇあなた、彼女は大学に行かず県外に就職したんでしょ?」
「うん、大学進学を勧めたけれど本人の強い意思でね。それで叔父さんの会社があってそこへ」
手紙は印刷された紙が2枚入っていた。
内容はびっくりするようなものだった。
母親が殺され、父親が犯人として指名手配されていて、彼女は飛び降り自殺をしたが奇跡的に助かり今は病院に入院していることなどが書かれていた。
しかし、最後にこう書かれていた。
父親は犯人じゃなく、自分も自殺していないと。
私のまわりはみんな嘘つきで誰も信じられない、とも。
実は私は警察官から教師に転職した。
捜査一課のときに犯人に撃たれて日常生活は問題ないが足が不自由になり、思い切って転職したんだ。
高坂蘭はそれを知っていて、事件が起こる前から相談したかったのかもしれない。
と、言うことは、事件の背景はこの町にあるのかもしれない。
「あなた、どうするの?」
手紙の最初の文面に少し違和感があり、じっと見ていて気づいた。横書きの文面の左端を縦に読むと「私をさがして」と読めるのだ。どういうことなのか?
「とりあえず、高坂蘭に会ってくる」
私は、嫌な胸騒ぎがした。
「あなたなら、そう言うと思ったわ。刑事は天職だったものね」
とても悲しい物語が私に最後に言う言葉は、
「二人だけの秘密」なのだが、私はそこへ急いで出掛けた。
つづく、予定?
(いつか長編小説として書き直したいと思っています)