いぶりがっこのおかげでクリームチーズの美味しさを知った
初めてクリームチーズを食べたときは、頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになった。
不味いとは思わなかった。けれど、美味しいと感じるには、その味は私には上品過ぎたのだろう。子供のころからチーズが大好きで、時々食べさせてもらえる某6ピーチーズやベビーチーズこそがチーズだと思って育ってきた私の正直な感想は
「チーズなのに、チーズの味がしない」
だった。
いや、間違いなく乳製品の味ではあるし、ほんのりとした酸味の向こうに微かにチーズがいる気もするのだが、何かが足りない。
大人になり酒の味を覚えてからは、たまに女子会と称して友人宅で飲む機会も増えた。そんな時に誰かがクラッカーとクリームチーズを用意してくれたりすると、イイねーオシャレだねーなどと友人たちと一緒に盛り上がってはいた。けれど本当はリッツにクリームチーズとフルーツを載せるよりもチーカマに七味マヨネーズのほうが・・・
そんな本音をうっかり口走らぬよう心掛けてはいたものの、自分の中でチーズの味の基本と言えばオシャレなクリームチーズでも高級なナチュラルチーズでもなく慣れ親しんだプロセスチーズのそれだった。
あの頃いつも一緒に飲んでくれていた女子会仲間の友人たちには今この場をお借りしてお詫びしたい。ごめんね。でもめちゃくちゃ楽しかったしクリームチーズ以外は全部美味しかったよ。
しかし、そんな過去の自分が嘘のように、今の私はクリームチーズが大好きだ。
何故ならば、今の私は「いぶりがっことクリームチーズ」という最強のタッグチームを知ってしまったから。
燻して水分を抜いた大根を糠漬けにしたいぶりがっこは、秋田の伝統的な保存食。しっかり水分が抜けているので、たくあんや粕漬けよりも歯応えがあるが、塩辛くはなく、漬物としてはむしろ控えめな味。
控えめとはいえ、もちろんそのままでも素朴な美味しさなのだが、そこにクリームチーズを合わせると、これが驚くほど美味しくなるのだ。
クリームチーズのほのかな酸味といぶりがっこの香りと旨味が口の中で融合し、瞬時にしてキングオブ酒のつまみの仲間入り。こんなポテンシャルを秘めていたのにこれまで気付かなくてごめんねとクリームチーズに土下座したくなる美味さである。
「1+1は2じゃないぞ。オレたちは1+1で200だ!10倍だぞ10倍!!」と叫ぶクリームチーズの声が聞こえてくるようだ。
いぶりがっこにクリームチーズを載せるというこの食べ方、これを私が初めて知ったのは、実はまだ北海道で暮らしていた頃である。
釧路のとあるライブバーに出かけた際にお通しで出されたその一品に感動して以来、いぶりがっこを見つけた際は自宅でも時々作るようになった。
しかし、北海道から宮城に移住してきて以降、いぶりがっこは「見つける」ものではなく普通にいつでも買える身近なものになったので、晩酌での登場頻度は増すばかり。
ありがたい。
しかし、酒がすすみ過ぎるのも困りもの。
飲み過ぎには気を付けよう。
ちなみに、いぶりがっことクリームチーズも合うが、冬になると出回る宮城や福島のあんぽ柿もまたクリームチーズとの相性抜群である。これがまたデザートに良し日本酒のアテに良し。
クリームチーズ、恐るべし。
とはいえ、ベビーチーズやチーカマに七味マヨネーズを嫌いになったわけではない。
好きなチーズが増えただけ。
今ではナチュラルチーズも大好きな食べ物に加わっている。
食べ物であれなんであれ、好きなものが増えるのは良いことだ。
さぁ美味しく食べて元気に暮らそう。