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あらためて、無花果の甘露煮を

 先週末の石巻帰省の際、義実家の裏庭にある無花果(いちじく)の実をたくさんいただいてきた。


 北海道にいた頃の私は、いちじくを食べたことがほとんど無かった。食べたことがあるとすれば、ドライフルーツの状態になったもの。それも、カンパーニュなどハード系パンの中に入っているのを食べるくらいで、自ら進んでいちじくを買い求めるということは無かった。
 そもそも北海道にいた頃は、果物売り場にいちじくが並んでいるのを見た記憶が無い。もちろん、デパートなどで探せばあったのかもしれないが、少なくとも身近なところにあるスーパーマーケットでリンゴやナシ、桃やブドウといった果実のように旬になると山積みになっているようなものでは無かった気がする。
 そんな私がいちじくを食べるようになったのは、夫の影響である。
 あれは昨年か、それとも一昨年のことだったか。いつものように義実家を訪れ一緒に夕食をいただいていた時、義母に
 「いちじく煮たのあるけど、食べるかい?」
と尋ねられた。
 いちじくを煮る?
 それを夕飯で食べる?
 頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになっている私の向かいで、
 「食べる!」
 即答したのは、我が夫だった。
 「あんた、甘いの好きだもなぁ」
 そう言って笑いながら義母が冷蔵庫から出してきたのは、いちじくの甘露煮だった。形はいちじくそのままながら、その色はあんずのジャムのような黄金色。
 「いちじく初めてか?美味いぞ」
 そう言って夫が取り分けてくれたいちじくの甘露煮は、ほんのりと果実の香りがして、口に入れるととろりと甘く溶けた。おかずではなく、これは贅沢なデザートだ。
 「美味しい!」
 私がそう言うと、あら、いがったぁ~、と義母も嬉しそう。
 「いちじく、こやって(=このようにして、の意味)食べるの初めてだったか?」
 「はい、初めて食べました。これ、おかあさんが煮たんですか?」
 「これは向かいの〇〇さんが煮たの。んでも、こっちではみーんな、こやっていちじく煮て食べるの。うちで煮たのも冷凍庫にあるよ。持ってくかい?」
 お言葉に甘えて翌日は義母お手製の甘露煮をいただいて帰宅。それからしばらく、夫婦で美味しくいただいた。

 後日調べてみると、いちじくの甘露煮は、農林水産省のウェブサイトでも宮城県の郷土料理のひとつとして紹介されていた。


 それ以来、秋になると石巻のご近所さんからいただいたいちじくや裏庭のいちじくを甘露煮にするのが恒例になった。
 これまでは下茹で済で冷凍保存されたものをいただいて甘露煮にしていたのだが、今回義母が持たせてくれたのは採れたてのいちじくである。上記のウェブサイトに記載されたレシピを参考に、初めて下処理からやってみた。

 まずは、いちじくをよく洗い、ヘタの部分を切り落とす。この時点で、アクで包丁が切り辛くなることにまず驚く。こうした下処理を義母やご近所の方々はしてくれていたのだなぁと、あらためて感謝の思いが湧いてくる。
 大きな鍋にお湯を沸かし、ヘタを切り取ったいちじくを入れ、茹でること2分ほど。少し柔らかくなったところですぐに火を止めざるに上げて冷ます。冷ましている間に鍋を丁寧に洗ってこびりついたアクを落としておく。
 いちじくが冷めたら表面の薄皮を丁寧に剥くのだが、この段階でもまだアクが残っているので、こまめに包丁を洗いながらの作業。途中から夫が手伝ってくれて助かった。美味しいものを食べるためなら当然とばかりに積極的にサポートしてくれる夫には本当に感謝である。
 四苦八苦しつつ皮を剥き終えたいちじくを再び鍋に戻し、全体にかかるくらいの量のグラニュー糖を入れてまぶす。今回使った砂糖は上記リンク記載のレシピの半分ほどの分量。とろりと黄金色に仕上げるには分量どおりの砂糖を加えた方が良いのは分かっていたけれど、今回は長期保存するわけでは無いので砂糖を少し控えめにしてみた。
 そこに、浸るくらいの量の水を注いで火にかける。最初は中火。沸騰したら弱火にして、ことこと煮ること15分程。一度火を止めてから三温糖を大さじ2杯とレモン汁の代わりに酢を小さじ1杯強加え、さっと煮立てて酢の香りを飛ばせば出来上がり。


甘露煮に合わせ、コーヒーは九谷焼のカップアンドソーサーで
こちらのカップアンドソーサーは伊万里焼
無花果の甘露煮をのせた豆皿はどちらも福島・浪江の大堀相馬焼


 「美味い!」
 「うんまぁぁぁーい!」

 下処理の苦労が吹き飛ぶ美味しさ。無花果の甘い香りに、食感もまた楽しい。

 「このくらい甘さ控えめだと、何個でも食べられるな」

とは、夫の言葉。
 たっぷりの砂糖でとろりと甘く仕上げたものも、さっぱり果実の食感を残して仕上げたものも、どちらも美味しい。


 その土地ならではの味を受け継いでゆけるのは、幸せなことだと思う。
 宮城の、秋の味覚。
 無花果の甘露煮、おすすめです。


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