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身近なお魚を食べよう~未来のためにできること


 先週末、仕事で買い出しに行けない私の代わりに、夫が福島県相馬市の「浜の駅 松川浦」まで出かけて食材をまとめ買いしてきてくれた。
 「何か地元の魚、出来ればお刺身と焼いて食べるお魚を両方」という私のリクエストに応えて夫が買ってきてくれたのは、相馬・原釜港直送のヒラメのお刺身とイシモチ、そしてメヒカリの干物だった。
 それだけでも大満足・大感激だったのだが、もう一つ、冷蔵庫をあけてみると、相馬で仕入れてきたこちらの加工品も入っていた。

福島県産カナガシラ使用 松川浦産アオサ入りのお手軽ちぎり揚げ


 松川浦の特産品・アオサと福島県産のカナガシラのすり身を使用した、揚げ蒲鉾である。
 松川浦のアオサは、相馬の特産品としてよく知られている。乾燥させたアオサは宮城県内のスーパーの海苔・乾物コーナーでも販売されていることが多く、手軽に使える上に美味しいので、我が家でも味噌汁の具の定番になっている。
 しかし、練り物の材料としてカナガシラを謳っている商品は初めて。少なくとも私は過去に目にした記憶が無かった。

 昨夜は、こちらを晩酌のお供にした。

オーブントースターであたためるというか表面を軽く焼く


 商品裏面の説明書きに従ってオーブンレンジで温め始めると、その時点で部屋の中にアオサの良い香りが漂い始める。レンジの扉を開ければ、ふんわり磯の香。
 初めて食べるアオサとカナガシラのちぎり揚げ。
 表面はサクサク、中はふんわりもちっとした食感。アオサが贅沢にたっぷりと入っていて、噛めばアオサとカナガシラの香りと旨味が口の中いっぱいに広がる。
 美味しいアオサと美味しいカナガシラで作った練り物なのだから美味しくて当然なのだが、その期待をはるかに上回る、極上の美味しさだった。

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 カナガシラは、高級魚とされるホウボウの仲間の白身魚である。
 味もホウボウ同様、タイやヒラメと比べても遜色ない絶品の美味しさ。宮城県では古くから祝い事の食膳に供する魚とされており、宮城三大祝い歌の一つとされている民謡「えんころ節」にも歌われているほどである。

先ず今日の お祝いに 目出度目出度の
お酒もり お酒の肴さかなに 見申せば
たいや ほうぼう かながしら
金の盃七ツ組 長柄ながえのちょうしに 泉酒いずみざけ
奥のかけじく 見申せば
さても見事な 大漁船
金の帆柱 銀のつな
大黒様が かじを取り
おえびす様が 舞遊ぶ
へ先きにゃ船神 大明神
あやと錦の 帆を巻いて 宝を俵に
積みかさね これの館に
ドッコイはしり込む ショウガイナー

えんころ節(えんころぶし)歌詞 | 民謡歌詞ドットコム (minyoukashi.com)


 しかし、そんな縁起の良い魚であるにも関わらず、近所のスーパーマーケットでカナガシラを見かける機会は決して多くない。私にとっては「宮城に移住してきてから初めて食べて、大好きになった魚」のひとつでもあるのだが、初めてカナガシラを買った店は仙台杜の市場であり、その後もカナガシラを買いに行くのは杜の市場か塩釜仲卸市場だった。
 大手スーパーマーケットでの取扱いが無いのは、昔と比べてめったに取れなくなってしまったから、というわけではないらしい。宮城県では2006年以降カナガシラの漁獲量が増加傾向にあり、特に2015年以降は急増しているという。事実、釣り好きの方々が運営する多くのウェブサイトにおいて、三陸沖でよく釣れる魚としてカナガシラが紹介されている。
 そんなに良く取れる魚で、しかも美味しいのに、店頭に並ばないのは何故か。
 考えられる理由は、

「買う人が少ないから」

であろう。
 この魚、小ぶりな上にウロコと皮がかたく、さらに身はとても柔らかい。それゆえ、私のような魚料理初心者が自分で捌いて食べるには、なかなか難易度が高いのである。
 加えて、頭が大きく身が少なめなため、販売する側としても捌いた状態で販売するには手間がかかりすぎるであろうことは想像に難くない。
 漁港では、カナガシラは市場に出荷しても値が付かないので捨てられてしまう、という残念な話も聞いた。

 しかし、味は良い。

 間違いなく、美味い。


 そんなカナガシラが、こうして食べやすい加工品になって販売されていた。
 しかも、特産品のアオサとともに。

 美味しさにも感激したが、この商品を作った相馬の方々にも、深く感じ入るものがあった。
 せっかく獲れた美味しい魚を捨てたりはしない。漁業に携わる方々の、そんな心意気を感じた。

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 水産庁のウェブサイトによれば、日本の漁獲量(漁業生産量)は、昭和59年をピークに減少傾向にあるという。
 かつては大型船で遠く離れた外国の海や公海を漁場とする遠洋漁業が主だったが、現在は養殖や小型漁船での沿岸漁業、排他的経済水域(領海を含めて沿岸から200海里・約370kmまでの海のこと)における沖合漁業の割合が増えているとのことである。

 日本の漁業は、第2次世界大戦後、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと漁場を拡大することで発展しました。しかし、昭和50年代には、沿岸から200海里(約370km)の水域で外国船は勝手に入って漁をしてはいけない、というルール設定を世界各国が次々と行い、遠洋漁業が難しくなっていきました。その結果、遠洋漁業の漁業生産量は、かつては漁船漁業全体の4割を占めていましたが、平成以降は1割ほどになりました。

 遠洋漁業の生産量が減った分、沿岸漁業の割合が2割から3割へと増えました。しかし、沿岸の開発による水産生物の減少や、サケやマスの回帰率の低下など、環境の変化によってその生産量自体は次第に減っています。

 一方、沖合漁業の生産量は昭和から平成を通じて、漁船漁業全体の6割を占めています。沖合漁業で獲る主な魚は、イワシ、アジ、サバ、サンマなどです。これらは一度に大量に漁獲できるため、「多獲性浮魚類(たかくせいうきうおるい)」と呼ばれます。ただし、これらの魚は海水の温度など、環境の変化の影響を大きく受けやすいため、漁獲量は時々で大きく変わります。

数字で理解する水産業:水産庁 (maff.go.jp)

 上記引用のとおり、沖合漁業で獲るイワシやアジ、サバ、サンマといったお馴染みの魚は環境変化の影響を大きく受けやすく、漁獲量の変動が大きい。
 近年であれば、サバやサンマの不漁が大きく報じられたのを覚えていらっしゃる方々も多いことと思う。


 サンマやサバの不漁が漁業関係者にとって大問題なのは言うまでもないが、それらの缶詰等の加工品を製造されている方々にとっては、看板商品を作れなくなることにも直結する。
 まさに、死活問題だろう。

 しかし、全く獲れなくなったわけではない。

 ならば、我々一般消費者がサンマやサバといった馴染みの魚ばかりを求めるのではなく「今、たくさん獲れている魚」をもっとたくさん食べるようになれば、加工品の生産は維持出来るのではないか。
 それが、結果的に水産加工業の方々を支える事にもつながるのではないだろうか。

 もちろん、これまで日常的に食べてきたサンマやサバが、食卓から遠ざかってしまうのは寂しい。
 でも、全く食べられなくなるわけではない。

 何より、馴染みは無くても美味しい魚が、今、目の前でたくさん獲れているのだ。
 カナガシラも、そのひとつである。


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 最初にご紹介した福島・相馬のカナガシラのちぎり揚げも美味しかったが、宮城では、地元の「ウジエスーパー」がカナガシラの天婦羅をお惣菜として販売し、話題を集めている。

「お弁当・お惣菜大賞2023」で全国14,000余りの商品から入賞した
ウジエスーパーの「石巻産カナガシラの天婦羅」


 調理に手間がかかるカナガシラをこうしてお惣菜として販売してくれるのはありがたい。
 そして、何より美味い。
 ウジエスーパーのお惣菜はどれも美味しいというのが地元の友人達の間でも共通認識なのだが、このカナガシラの天婦羅はその中でも評判の美味しさである。

 また、塩釜仲卸市場では三枚おろしにした状態のカナガシラも販売されていることが多い(水揚げ次第なので、常に店頭に並んでいるとは限らないのだが)。
 三枚おろしになっているものであれば、唐揚げでもムニエルでも、好きな味付けで簡単に調理できる。捌くのに手間がかかるカナガシラをこうして捌いた状態で販売してくれるのは、本当にありがたい。
 さらに、塩釜仲卸市場には、カナガシラのお刺身もある。
 これがまた絶品である。

塩釜仲卸市場で買ってきた宮城県産カナガシラのお刺身


 カナガシラをはじめ、これまであまり馴染みの無かった魚の消費を拡大しようという活動は、近年、宮城県内各地でも広がっている。
 石巻市では「日本の魚食文化を水産の街、石巻から取り戻す!」を合言葉に「石巻さかな女子部」という団体が立ち上げられ、様々な魚の捌き方や調理法を紹介するイベントを継続している。
 こちらの団体では、2019年の時点でカナガシラの捌き方や美味しい調理法をウェブサイトでも紹介している。


 こういう活動を継続している方々には本当に心から敬意を表したい。
 私は魚好き・カナガシラ大好きなのに、恥ずかしながらいまだカナガシラを自分では三枚おろしに出来ない。石巻市在住だったら是非参加して包丁さばきをマスターしたいところである。

 ちなみに、「捌けない」と言った後でこんなことを書くと言い訳めいて恐縮なのだが、カナガシラは捌かずにそのまま塩焼きや煮付にしていただいても美味しい。

仙台杜の市場で買ってきた福島県産カナガシラの塩焼き
同じく仙台杜の市場で買ってきた、宮城県産カナガシラの煮付
こちらは塩釜仲卸市場で買ってきた三枚おろしのカナガシラ
唐揚げにすると旨味がぎゅっと凝縮されて超美味い
上記のカナガシラの唐揚げで作った南蛮漬け
カナガシラの三枚おろしがたくさん手に入った時は唐揚げからの南蛮漬けがおススメ
タマネギと唐辛子とともに甘酢につけて冷蔵保存すれば2~3日美味しく楽しめる



 今回は、身近な漁場で漁獲量が増えているのにまだ消費が増えていない魚のひとつとして、宮城県内でよく話題になっているカナガシラを取り上げさせていただいた。
 しかし、全国各地の漁場で、それぞれの地域ならではの魚が、今もたくさん獲れていることと思う。
 そんな身近な魚を食べる人が、もっと増えて欲しい。
 たとえ、サンマやサバのようにお馴染みの魚ではなかったとしても。
 noteを見ていると、全国各地の美味しい魚の消費を拡大しようと、様々な情報を発信している生産者や関係者がたくさんいるのが伝わってくる。
 地元の漁業や海産物に誇りを持ち、全力で応援しようと活動している方々は、皆さんカッコいい。


 漁獲量の減少や漁業従事者の高齢化など、課題ばかりが語られがちな日本の漁業。
 けれど、気候変動や周辺の環境変化による漁獲量や魚種の変動は避けられないとしても、豊かな漁場が広がっていることに変わりはない。
 今、獲れている魚を美味しくいただくことは、日本の漁業の発展と継続にも繋がるのではないだろうか。

 美味しく食べること。
 これ美味しかったよ、という感想や、美味しい食べ方を伝えること。

 そんな、一人の発信力は、小さなものかもしれない。

 けれど、美味しいものに興味を持つ人は、たくさんいる。
 一人の「美味しい」の声が二人、三人と広がり、その美味しさが伝わってゆくことが、結果的には魚に興味を持つ人を増やし、魚の消費量を増やすことにも繋がるかもしれない。
 それは、漁業を守ることにも繋がるだろう。


 私はこれからも、三陸産や常磐ものの身近な魚を食べて「美味しかった!」と情報発信し続けようと思う。


追記:
 カナガシラについて書いたこれまでのnoteも、お時間ありましたら是非お読みください。


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