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読書感想文「その日、朱音は空を飛んだ」

おはようございます。墓です。

記事タイトルの通りです。武田綾乃先生が執筆された「その日、朱音は空を飛んだ」を読みました。久々にそこそこの厚さの本を読みましたが、衝動的に一晩かけて読み終えました。

読みたてほやほやなので、月並みなことしか言えませんが、とりあえず「こんな学校生活、送らなくてよかった」と思いました。私の高校生活が順風満帆と言える方だったんだなと改めて認識した、というのが正しいです。

私は中高は女子校で、小学校は一度も転校せず過ごしました。思わず自身の学歴をざっと洗い出してしまうくらいには、リアルな高校生活がそこにありました。

進学校という環境で、偏差値の高い人間が多くいる上に共学。生徒間のヒヤッとした温度感が体験したことも無い私から見ても「確かにそう」と頷けるものばかりでした。

私は高校時代、特別仲のいい友達がいたと言い張れることはありませんが、高校を卒業した今でも継続して仲のいい友達が複数いる立場にあります。ただ、小学校の頃から仲の良かった友達、というのはもう数えるくらいしかいません。私は今でも仲のいい子は友達と思ってますが、相手もそう認識してるかは不明です。

作中、夏川莉苑が「私はみんなと友達」という発言をしていて、深く頷いてしまいました。私もどちらかと言うと、細江愛や川崎朱音や石原恵のような人付き合いよりも夏川莉苑に似た関係性を築いていたからです。

私は自殺する人間の気持ちはよくわかりませんが、少なくともこの作品では自殺を目論見る人間の心情がよく描かれていて、追体験をすることは出来ました。

クラスメイトや友人が自殺をしたことがない人生なので、果たして自分の身近な人間が自殺を選んだ時どんなことを思うのかはわかりませんが……少なくとも、「死人の評価が死を超えて変わることはない」という価値観が私の中で確立されたことは確かでした。

作中、夏川莉苑の祖母が「死んだ人を悪く言うのはいけない」と教えこんでおり、その理由を「死んだ人は何を言われても反論できないから」と答えていました。

確かにその通りです。これにはなんも抵抗心もなく納得しました。

ですが、ある意味死人というのは「生者との関わりを断ち切った人」でもあります。つまり、反論の権利を放棄した人です。これ以上語ることも行動で示すこともなく、自ら「ここで打ち止め」と決めた人だけが自殺するのではないでしょうか。

作品が完成した後に加筆修正することなく、「これで完成だ!!」と提出してきたもので世間は評価を下します。それと同じことかと思いました。少なくとも、私の中の価値観の話です。人生を作品に例えることの云々は目を瞑っていただきます。

ですが、夏川莉苑は高野純佳に対してこう言いました。

「朱音はね、多分生きるのに向いてなかったんだよ」

ああ、そうゆう人間もいるんだ。と素直に思いました。

この作品、かなり川崎朱音に対して厳しいな…と読んだ後に各章を読み返すと感じますね。

自殺をした人間とその周りにいた人達が、その後日談と前日談を語るわけですから、情報量が凄いです。

この作品、注目すべきはアンケートの回答が明示されてない登場人物たちかなと思いました。

田島俊平、桐ケ谷美月、近藤理央は登場率が高いですね。全員一貫して態度が貫かれてるように思いました。

中でも田島俊平が細江愛と中澤博と一ノ瀬祐介と仲がいい分、登場率が高いですね。田島俊平はキャラクターのポジティブな面を表出させ、細江愛というキーパーソンと密接な関係にある桐ケ谷美月はネガティブな面を出したように思います。近藤理央は「間が悪い」という作品内のポジション通り、本当に間が悪いことをしていて構成の上手さに感服です。

個人的に、田島俊平が中澤博に「普通に接して」と言われて普通に接した際の中澤博の「だから嫌いなんだよ」が一番彼が高校生らしいと思える場面で好きですね。私が女性読者だからか、細江愛を意識している川崎朱音が中澤博に告白をした、という段階で中澤博はステータスでしかないのかなと察していましたが、それに最後気づいた時の空気とタイトルの出方に、短編映画ばりの華麗な着地を魅せられました。単純に読んでて楽しかったです。

総じて、川崎朱音以外はそれぞれ幸せになれそうだなと思いました。幸せの定義が難しいところですが、ここは一つ「大人の階段を上った」という解釈でお願いします。

読みながらモヤモヤとしつつも、私が体験したことのないタイプの高校生活の一部を小説を通して吸うことが出来て良かったです。

死んだあの子に口はなし。本当にその通りで、大変面白かったです。

おわり。

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