ユーザーがSlackを有料でも手放せない理由 フリーミアム戦略の成功事例

フリーミアムとは、「フリー」と「プレミアム」を組み合わせた造語。

基本的な商品やサービスは無料で提供し、高度な機能や特別な機能を有料で提供するビジネスモデルのことを指す。

無料サービスのユーザー数が増えれば増えるほど、有料サービスに移る絶対数も増えるという戦略で、

特にWebサービスやソフトウェア、ゲームや音楽、動画といったデジタルコンテンツで採用されるケースが多い。

ユーザーに課金してもらうためには、大前提としてサービス自体に相応の魅力があることが必要である。


うまく軌道に乗った場合の利益率は高いが、

一方で難易度も高いとされるフリーミアム。

成功の秘訣は何なのか、先行事例を見てみよう。


Dropbox:無料版ユーザーを突き動かす「追加インセンティブ」で成功

個人向けストレージサービスの代表的な存在であるDropboxは、ユーザーに無料でストレージ容量の増加インセンティブを提供することで、結果的に有料ユーザー数を大幅に増やすことに成功した。

しかし、そこに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。

サービス開始当初、Dropboxのフリーミアム戦略は難航していたそうだ。

彼らは検索型連動広告に投資することで一定のユーザーを獲得することに成功はしていたものの、コストをかけてユーザーを獲得しているのにもかかわらず、有料版に切り替えるユーザーの数がなかなか増えなかったのである。


そこで広告配信に力を注ぐのはやめて、無料版を利用するユーザーに「新規ユーザーを紹介してくれたら、ストレージの容量を無料で増やします」という追加のインセンティブを与えるプロモーションを実施。

すると、広告に頼っていた頃とは比べものにならないほどユーザー数が増加。

さらに、母数が圧倒的に増えたことでユーザーの中から有料版に移行するユーザーも自動的に増加し、業界を代表するストレージサービスにまで成長を遂げたのである。

New York Times:無料と有料の境界線を見極めて成功

1951年創刊、世界を代表する新聞社のThe New York Times。そのデジタル版「The New York Times Online」は、フリーミアムの手法によって大きな成功を収めたサービスといわれている。

彼らが配信する有料記事はペイウォールと呼ばれ、サービスを開始した2011年は月20本まで記事を無料で閲覧できて、20本以降は有料になる形態であった。

しかし、有料読者の数がなかなか増えなかったことから、無料記事の本数を月10本に変更。

すると、記事の購読者が一気に増加し、2018年には155万人のユーザー数を誇るメディアへと成長した。


当時ほとんどのメディアが広告収入に頼るビジネスモデルを採用していたのに対し、広告収入を維持しながら第二の収入源を開拓したことがThe New York Timesの最大の功績といわれている。

このように、フリーミアムにおいては無料版と有料版の線引きを見極めることが成功を左右するポイントの一つだろう。


Slack:無料版ユーザーが手放せなくなる「利便性」を追求して成功

特にIT業界やベンチャー企業を中心に、ビジネスシーンで世界的に広まっているチャットツール「Slack」。

彼らがサービス設計にあたって全力を捧げたものは何か。

それは、カスタマーエクスペリエンスである。


開発メンバーは、ユーザーがソフトフェアをすぐに使いこなせるかどうかが成功のカギであると考え、誰もが使いやすい操作性と機能を極端なほどこだわり尽くした。

シンプルなUIはもちろんのこと、他のサービスと連携がしやすく、Slack上のどんなものも一括で検索できる検索窓が設置されていたりなど、使いやすさは既存ツールに比べて群を抜いていた。


さらに、リリース前に公開したプレビュー版でユーザーとチャットでフィードバックを受けることで、ユーザーの意見を反映したソフトウェアが完成。こうした取り組みによって、コアで熱烈なファンを獲得することに成功した。

有料版への切り替えポイントも秀逸だった。

Slackは無料版のメッセージ数の上限を10,000件に設定した。

この件数は小さなプロジェクトや短期間のプロジェクトなら無料で使えるが、大きなプロジェクトや長期化するプロジェクトだと一気に10,000件に到達してしまう。また、10,000件のメッセージをやりとりするのは、プロジェクトメンバーがソフトウェアを使いこなして、プロジェクトの中心ツールとして活用されている段階がほとんど。

Slackを手放せなくなる絶妙なタイミングで、有料にしないと引き続き利用できない状況にすることで、プロジェクトの成長や長期化に応じて企業が有料版を導入する自然な流れと動機を作ったのだ。


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