「正論」よりも「楽しい」が人を動かす。ゲーミフィケーションの成功事例

ゲーミフィケーションとは、いわゆるゲームのメカニズムをゲームではない分野の商品やサービスに応用していく手法。

遊びや競争など、人を楽しませるゲーム独特の仕組みや特性を活かすことで、ユーザーを惹きつけて、ブランド側が狙った行動を起こさせる戦略だ。

フォルクスワーゲン:正論よりも「楽しい」で人の行動を変えることに成功

直接的な利益を生み出した成功事例ではないが、ゲーミフィケーションを理解する上で非常にわかりやすい事例がある。

それがフォルクスワーゲン社の「The Fun Theory(ファン・セオリー)」プロジェクトだ。

彼らは「つまらないことを楽しくすることで人々の行動を変える」というコンセプトを掲げ、それを実験するための新しいWebサイトを2009年に立ち上げた。

そこで公開された動画のひとつがこちら。

「どうすれば駅の利用者はエスカレーターではなく階段を使うようになるだろうか?」という問いに対して、階段をピアノの鍵盤に見立てて、階段を登ると音が奏でられるようにしたのだ。

すると、通常より66%も多くのが階段を使うようになったという。

この実験は、「健康のために階段を使いましょう」と張り紙などで正論を提案するよりも、「楽しい」「おもしろそう」が人の行動を変えることを示している。

彼らは上記Webサイトで「The Funtheory Award」を企画し、様々なファン・セオリーを募った。そこから生まれた「シートベルトをつけてもらうアイデア」は、実際に自社の製品開発にも取り入れた。

シートベルトの着用が事故の死亡率を下げることは誰もが知っていることだが、ほんの少しの煩わしさが着用を妨げる。このアイデアでは、映画などを楽しめるディスプレイが後部座席に設置されている。そして、シートベルトの着用がディスプレイの電源をオンにする役割を果たしているのだ。

「やったほうがいい」ではなく、「やったほうが楽しい」状況を作り、人々の行動を変える。これこそがゲーミフィケーションの真髄である。


Nike:挫折しがちなランニングを世界中の人と競うゲームに変えて成功

ナイキが提供するスマートフォン向けアプリ「Nike+」は、スマホを持ったまま助ゲイングすると、走行距離や時間の記録が行える。これだけ聞くとシンプルな万歩計アプリと変わらないが、彼らはそこにゲーミフィケーションの理論を取り入れて新しいムーブメントを作った。

具体的には、走行距離やカロリー消費量の目標設定ができて、その成果をSNSで世界中の人々と比較し、共有できるようにしたのだ。さらに、世界中の人々とチームを作って走った距離や時間を競い合うサービスも提供。ランニングという個人的なエクササイズにゲーム要素を加えたことで、モチベーション管理に大きく貢献し、挫折しがちな運動を継続させる仕組みを生み出した。

「Nike+」は無料サービスだったこともあって多くのランナーたちが気軽にダウンロードし、瞬く間に世界的な大ヒットアプリとなる。そして、結果的に同社のセンサー付きシューズやリストバンドなどアプリに対応した商品が飛ぶように売れたのである。


Foldit:「エイズのメカニズムを解明する」という壮大なゴール設定で成功

もう一つ紹介したいのが、2008年にアメリカのワシントン大学で開発された「Foldit」というビデオゲーム。

ゲームにゲーミフィケーションのメカニズムがあるのは当たり前じゃないか?と思うかもしれないが、これはただのゲームではない。

唐突だが、生物学には長年にわたって最大の謎とされていた「フォールディング」という仕組みがある。人体に10万種類以上あると言われるたんぱく質は、「折りたたまれる(フォールディング)」ことで特定の機能を果たす。しかし、何らかの原因で正しく折りたたまれないことがあり、それがHIVの主な原因とされていた。

この原因を解明することがHIVの治療に大きく寄与することは明白であったものの、その複雑さゆえに折りたたまれ方を計算することはコンピュータでは難しく、人間の想像力や直感によるアプローチが必要とされていた。

そこで誕生したのが、このFolditというゲーム。

これはプレイヤーがフォールディングをシミュレーションし、「最も安定した折りたたまれ方」を見つけるゲームだ。プレイヤーはグループに別れて、CGで再現された「エイズウイルスのたんぱく質を構成するアミノ酸の鎖」を折りたたんでいく。するとエネルギーが計算されていき、エネルギーが安定している構造を作ったチームほど高ランクが得られる仕組みになっている。

このゲームが公開されると、たちまち世界中から何十万人もの人がゲームに参加し、なんと科学者が10年以上かけても解明できなかったエイズウイルスの酵素構造を、たったの3週間で解明してしまったのだ。

良い結果を目指してチームで競い合うというゲーム性はもちろんのこと、科学の知識がない人間でも世界的な問題解決に貢献できる(しかも人間の創造力でコンピューターに打ち勝つことができる)という「やりがい・達成感」が多くの人々を突き動かし、莫大なコストと時間をかけてきた研究を一気に終わらせた。

このように、ゲームの先にあるゴール設定が魅力的であることも、ゲーミフィケーションを活性化させるための重要なポイントであると言える。

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