雨の日に観たい映画② 『好きだ、』
雨の日には、雨の映画を
雨が降る休みの日は、心置きなく家に居られるものです。潔く外出を諦め、クーラーのきいた快適な部屋で映画を観るのは、最高の癒やしであり贅沢でもあります。
今回紹介するのは『好きだ、』です。
さて、最初に謝っておかないといけない展開となりました……。
梅雨の時期に合わせて「雨の日に観たい映画」というテーマで映画を紹介しようと思い立ち、自分の頭の中で検索をかけたところ『好きだ、』がヒットししたわけですが……。この映画を観たのは大学生の頃で、かれこれ5〜6年も前。
このnoteを書くにあたって、改めて映画を見返してみると…
すみません、雨のシーン一瞬しかありませんでしたw
なんかの記憶違いでしょうかね……。ただ、この映画の中では雨の降り出しそうな天気の描写が非常に多いことは確かです!(言い訳がましいですが、本当です)
自分はなぜ、この映画に「雨」というタグをつけて記憶してるのかと不思議に思い、当時の鑑賞記録のノートを開いてみると、6月に『好きだ、』を観ていたことがわかりました。定かではありませんが、この映画を観た日、外はものすごい大雨だったような記憶が残っています。
そんな理由で『好きだ、』を雨の映画と分類するのは、あまりにも無理がありますが、ぼくにとってのリアル、というところで許してください。というかもう、ここまで文章書いちゃってますし、乗りかかった船です、臆することなく「雨の日に観たい映画」として紹介させていただきます。
『好きだ、』
素朴でストレートな言葉、「好きだ、」
ありきたりな言葉のようですが、このひとことを伝えられなかった記憶というのは、人間誰しもひとつやふたつあるのではないでしょうか。
「好きだけど言えなかった」それは、恥ずかしかったからなのか、勇気がなかったからなのか。思い返せば、皆それぞれに、甘酸っぱい記憶が蘇るかもしれません。この映画は「好きだ、」その言葉を伝えられなかったある男女の物語です。
映画は2部構成になっており、前半は17歳の頃の物語。男役を瑛太、女役を宮崎あおいが演じています。映画の後半は17年後に時が流れ、34歳となった男役を西島秀俊、女役を永作博美が演じます。なかなか豪華なキャストです。
初めてこの映画を観たとき、岡本太郎ばりに「なんだこれは!」と声をあげそうになったのを覚えています。それは「自然な演技」という表現では言い尽くせないほど、映画の人間模様が生々しく、リアルだったからです。
どういうことかというと、全く演技をしているように見えないのです。通常、映画やドラマの言葉は、セリフとして演じられるものです。だから、仮にドラマの登場人物の話し方を忠実に真似すると、どこか芝居がかったように見えるもの。当然「ぼくは死にまシェーン」とか「やられたらやり返す。倍返しだ」という台詞もドラマの中なら違和感なく見てられますが、日常会話でこういったパンチの効いた言葉を吐く人はほとんどいないでしょう。現実社会での人との会話は、もっと気が抜けていて、たどたどしくもあり、何かを考えながら話す時の「間」が生まれるものです。
この映画では、その「間」が非常にリアルに描かれていると思いました。文章でいうところの行間みたいなところでしょうか。なにしろこの映画の監督は、役者さんに「台本は忘れてくれ」という指示をだし、カメラを長回しにして自由に演技をさせて撮影したそうです。数秒のシーンを2時間も長回しすることもあったようで合点がいきます。
「好きだ」という一言を伝えられなかった前編、伝えようとする後編で物語は動いていきますが、全編通して切なさやもどかしさが、表情や、台詞と台詞の「間」から痛いほど感じ取ることができます。
「言葉にしないと伝わらない」とよく耳にする言葉があります。確かにそうかもしれません。けれども、言葉にしていないからといって、想いがないことにはなりません。「言葉にならない想い」「言葉にしなかった想い」「言葉にできなかった想い」というのがあるのです。
通俗的な恋愛メロドラマだと思ってこの映画を観ると、おそらく期待はずれで面食らうでしょう。ストーリーを追っていく映画というよりも、雰囲気に浸る映画といった感じです。泣ける映画ではありませんが、不覚にも涙を落としてしまう映画かもしれません。キュンキュンする映画ではありませんが、エモい映画ではります。雲の動きや、空の表情、風のそよぎ、自然の生き物の泣き声、どこか懐かしい空気感を纏っていて、既視感を覚えるのはぼくだけではないはずです。これを読んでいただいた方は、ぜひどっぷりと『好きだ、』の作品世界に身をやつしてみてください。
『好きだ、』は、現在映画サブスクで配信しているところがないため、レンタルビデオ店へ行くか、TV、YouTube、Google playムービーでレンタルして観ることができます。
最後に、それっぽい一節を引用できそうなので、
川端康成の小説『雪国』のなかにあるセリフを紹介します。
「なんとなく好きで、その時は好きだとも言わなかった人の方が、いつまでもなつかしいのね。忘れないのね」──川端康成『雪国』
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