ニュービークル導入苦闘記
うちには産まれて4ヶ月になろうという女の子がいるんですが、日々、挙動や感覚がアップデートされており、すごい。
最近は腕や脚の動きも活発で、四肢と胴体を複合的に動かし仰向けから大きく身体をひねったりする。
ネクストディメンションの魔技、天地を逆転させる異能【ネガエリ】の習得が見えてきている。
ネクストディメンションといえば、先日、注文していたベビーカーが届いた。
今まではハイテクだっこひも《エルゴ》でおさんぽしてたし、娘も胸の中で眠るほど快適そうだったのだが、初夏のおとずれとともに、密着しているのが暑くて仕方なくなってきたし、娘も不快そうに泣き出すようになってきた。
人生でベビーカーが必要になるときが来るなんて考えたことなかった。街でみかけても、対岸のビークルであった。
メーカー各社の、よりよく街を子どもと一緒にサバイブすることに拘ったデザインや機能を吟味して、我々は《コンビ》社の「スゴカル」という銘のビークルを選んだ。
届いた日、ちょうど仕事は休みだ。操作方法や各部の機能はしっかり確認した。きょうも暑いけどこいつがあれば、となり街のミスドだって行けちゃうぞ!
さあ、と娘をだっこして、ニュービークルの先進技術がつまった玉座に座らせる。
包み込むようなラグジュアリーなクッションの感触、いつもと違う高さの目線に戸惑ってか、きょとんとした顔。
次いで、きゅっ、と表情が達磨に転じた。
「うああああ」
泣いた。
どうする? このままでかけるか、一旦落ち着いてからか。夫婦で緊急ブリーフィングが行われる。原因は? シートベルトが不快? 一旦はずしてみる。
「うああああ」
……。
安全のためだし再び装着する。
いままでだって、《エルゴ》のときも、その前の《スリング》のときも最初は泣いていた。はじめては誰だって不安だ。でも、いつだって出かけてみれば、すぐ側に親がいる安心感や順応でスヤスヤ眠ったものだった。
「このまま行こう」
移動による刺激で意識をそらすことと、慣れと安心感を覚えてもらう意味で、出発してみることにした。
ロックを外し、いざ、おさんぽへ。
「ぎぃああああああああ」
マックスのやつが来た。いまの娘が放つことのできる最大威力のやつがすぐ出てしまった。
いやいや、もすこしこのまま進んでいったら振動にも慣れ、落ち着くのでは。
「ぎやああああああああ」
そんなことは無かったので日陰に待避し停車した。
「……」
すると泣き止んだ。
「これでいろんなところ行けるよ」「たのしいよ」「風がきもちいいよ」
と、夫婦そろってポジティブに説得を試みるけど、くすんくすん、と不機嫌がおだ。
再び、緊急ブリーフィング。結論はすぐに出た。無理はしない。安心感マックスの移動手段《だっこ》でいく。
奥さんと交代でだっこしつつ、ベビーカーには誰も乗ってないけどこのまま押して軽く散歩して帰ろう。
毎日成長著しい娘だから、忘れそうになるけど、この世にデビューしてまだ4ヶ月なのだ。じぶんの力で新しいことを初手で受け入れるには、経験則があまりにも少ない。
だっこしてあげると、すっかり落ち着いて、顔を肩にうずめて眠った。泣き疲れたのもあったんだろうなあ。
だが、この、夏のおでかけ事情に革命をおこすビークルを、我々は諦めない。家でもときどき乗せて慣れさせてみることにした。
お気に入りのタオルを敷いたり角度変えたりいろいろ試したが、それでもやっぱり泣く。
「うーん、これだけクッション性もあって、座り心地がわるいとかでは無いと思うんやけど」
「……あ、もしかして」
ベビーカー《スゴカル》には、オプションとして、頭と背中用に追加の衝撃吸収クッションが同梱されており、それも装着していたのだが、試しに外してみた。デフォルトの薄いメッシュのクッションと、本体の布の張りだけで支える状態だ。
改めて、娘を乗せてみる。
「………」
泣かない。指を喫する余裕さえある。話しかけたりすると、にこっ、と笑ってこちらの心臓を破壊することすらやってのけた。
そういえば、いつも夜ねるときの敷きマット、かためなんですよね。それで熟睡するようになってるから、クッションフル装備のベビーカーの座面のやわらかすぎたのが「ナニコレ!? カタメジャナイ!? ココドコ!?!?」ってなったのかも。
諦めない、といいつつ、内心、噂に聞く「ベビーカーがそもそも合わない」説もよぎっていたため、安堵した。このまま出かけられるかはまだわからないが、ベビーカーに乗ったまま笑顔をみせる娘をみて、光が差した。
ぼくらのかわいいおまんじゅう。明日はどこにいこうか?
#雑記 #日記 #随想 #雑文 #エッセイ #うそめがね日記 #1500文字プラクティス #赤ちゃん #Combi #スゴカル #ベビーカー #泣く