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Newton力学④ 運動の三法則

前回の記事はこちら↓

必要な前提知識はこちら↓
・極限と微分,積分(準備中……)

Newton力学の第4回です。今回は目玉となる”運動の三法則”のお話です。
(注:前回の後半から,順序を一般的な解説と大きく入れ替えています。講義で教わった(あるいはこれから教わる)ものや参考書等とはおそらく違うと思いますが,循環論法をなるべく避けた結果ですので,ご了承ください。)


慣性の法則

まずはこんな思考実験から。

もしも宇宙にある物体がひとつだけだったら,その物体は動いているでしょうか?

Newtonは,まず,“止まっている”という答えを思いつきました。皆さんも,宇宙にポツンとある物体の様子が思い浮かんだのではないでしょうか?
でも,それだけが答えではないと考えたのが,Newtonの凄いところです。

見る人によって,ポツンとある物体が動いているかどうかは変わってしまう

この“見る人”のことを,専門用語では“観測者”といいます。観測者の座標(参照系または基準(座標)といいます)が,物体の運動の様子とは無関係にとることができることに気づいたNewtonは,力が加わっていない物体の運動の様子もまた,見る人によって変わってしまう,と主張しました。

このとき,単純な場合だけ考えたい……,と頭をフル回転させたNewtonは,次の結論にたどり着きました。

観測者をうまく選べば,受けている力が0の物体が,静止または一直線上の等速運動を続けるということを観測できる

これを“運動の第一法則”または“慣性の法則”といいます。そして,この特別な観測者から見た座標を“慣性系”とよびます。つまり……

慣性系:慣性の法則が成り立つような参照系

また,この法則は,“一様・等方なEuclid空間”の公理とも密接に関係します。力が加わっていない物体は特別な方向を持たない[空間の等方性]うえ,速度が変化しない[空間の一様性]ため,同じ運動を続けるのです。

ちなみに,Galileo Galilei (ガリレオ・ガリレイ; 1564-1642)は,地球が自転していることから,”力が加わっていない物体は静止または等速円運動を続ける”と主張していたようです。
現在では,円運動のために力が必要だと分かっていますが……。

円運動に力が必要なことをざっくり説明すると,こんな感じ。
詳しくは第8回で。

René Descartes (ルネ・デカルト; 1596-1650)も,Newtonの慣性の法則と似たようなアイデアを残していたとかいないとか……。

運動方程式

次は,運動量と力の関係式です。といっても,第3回を閲覧いただいた方はもう知ってますよね。

$$
\mathrm{d}\boldsymbol{p}=\boldsymbol{F}\,\mathrm{d}t
$$

これを少し書き換えると,

$$
\dfrac{\mathrm{d}\boldsymbol{p}}{\mathrm{d}t}=\dot{\boldsymbol{p}}=\boldsymbol{F}
$$

ここで$${\dot{\boldsymbol{p}}}$$は$${\boldsymbol{p}}$$の時間微分を表し,この式を“運動方程式”,“この式が成立すること“を“運動の第二法則”といいます。

特に,物体の慣性質量が分裂・合体等により変化しないときは,$${\mathrm{d}\boldsymbol{p}=\mathrm{d}(m\boldsymbol{v})=m\,\mathrm{d}\boldsymbol{v}}$$だから,

$$
m\dot{\boldsymbol{v}}=m\boldsymbol{a}=m\ddot{\boldsymbol{r}}=\boldsymbol{F}
$$

したがって,慣性質量および加速度という,物体の運動の様子が,外から加えられる力によって決定されるという式が得られます(この式も“運動方程式”とよばれます)。
(注:ただし,筆者は,ここでいう“決定”とは,“力があるから加速度が生まれる”というような因果関係を表すものではないと考えています。この微分方程式の右辺に$${\boldsymbol{F}}$$という項があるために,加速度が0にならない,という解析的な意味での“決定”です。物理的には,力がそれほど大きくないとき,最初のうちは加速度と比例しないかもしれません(過渡状態)が,力を加え続けると比例してくる(定常状態)という理解が良いと思います。)

しかし,運動方程式は,慣性系以外[非慣性系]では成り立ちません。
なぜなら,慣性の法則が成り立たないということは,力を受けていないときにも加速度が生じているということになり,これは運動の第二法則に反するからです。

観測者の位置を$${\boldsymbol{r}'}$$とおくと,

$$
m\ddot{(\boldsymbol{r}-\boldsymbol{r}')}=m\ddot{\boldsymbol{r}}-m\ddot{\boldsymbol{r}'}=\boldsymbol{F}-m\ddot{\boldsymbol{r}'}
$$

したがって,非慣性系では,慣性系に対する観測者の加速度を$${\boldsymbol{a}'}$$として,$${-m\boldsymbol{a}'}$$という力が見えます。この力のことを“慣性力”とよびます(余談ですが,慣性力を引き起こすから”慣性質量”なのです)。

慣性系である⇔運動方程式が慣性力なしに成り立つ

つまり,二つの慣性系があるときに,どちらがどれくらい動いているかを知る術はない,ということになります。

でも,見えている力が慣性力かどうかって,どのように確かめるんでしょう?

それに答えてくれるのが,次の作用・反作用の法則です。

作用・反作用の法則

物を押したとき,手応えを感じますよね?
それは気のせいではなく,“作用・反作用の法則[運動の第三法則]”という物理法則が関係しています。

作用・反作用の法則:「一方の物体がもう一方の物体へと力を及ぼすとき,いかなる場合でも,はじめの物体はもう一方の物体から大きさが同じで向きが反対の力を受けている

一言でいうと,「力は必ずセットで出現する」という,力の本質を述べた法則です。

ただし,

①“作用”“反作用”という名前のせいで勘違いしやすいですが,時間的な差はありませんし,“作用”と“反作用”の違いはどちらの力に着目するかという問題にすぎません。

②「物体Aが物体Bに及ぼす力」の反作用は「物体Bが物体Aに及ぼす力」です。したがって,「物体Aに働く力の合計が0になる」と考えるのは誤りです。
例えば,「地球が自分を引く力(重力)」の反作用は,「自分が地球を引く力」です。
ちなみに,このことからも分かるように,引力(引く力)の反作用は引力,斥力(押す力)の反作用は斥力です。

これが慣性力とどのように関係しているかというと,「慣性力には反作用が存在しない」という嬉しい性質があるんです!

そもそも慣性力は観測者の位置が変な動き方をする(“変な”という言葉を定義していませんが,“慣性系に対して加速度運動(0でない加速度をもつ運動)をする”とかそういった感じです)ときに現れるものでした。
ですから,古典力学の体系では,慣性力という“力”は,何か,ある物体から及ぼされるというものではありません。だから反作用もありません。

慣性系である⇔見えているすべての力に反作用が存在する

なお,Descartesも作用・反作用の法則の体系づけに関わっています。

d'Alembertの原理

物体と一緒に動く参照系を考えます。このとき観測者から見た運動方程式は,次のように書けます。

$$
\boldsymbol{0}=\boldsymbol{F}-m\boldsymbol{a}
$$

これは,「物体が動かない条件」の式です(式の形的にも,物体と一緒に動くという仮定的にも)から,運動方程式が力のつり合いの式で表せたことになります。
提唱者の名前から,これをd'Alembert(ダランベール)の原理といいます。この原理自体は何か新しいことを主張しているわけではありませんが,動いている物体の力学(dynamics)と止まっている物体の力学(statics)に本質的な違いがないことを示したという点で,個人的には18世紀における力学の最大の発見だと思います。


演習問題

抽象的な話が多くなりました。今回からちょっとした演習問題を解いていきます。

問1.
一定の力$${\boldsymbol{F}}$$を受けて運動する慣性質量$${m}$$の|質点《しつてん》(慣性質量をもつが,大きさをもたない物体)の位置$${\boldsymbol{r}}$$を,時刻tの関数として求めよ。ただし,$${t=0}$$で$${\boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}_0,\ \dot{\boldsymbol{r}}=\boldsymbol{v}_0}$$とする。

答1.
まずは差分方程式を解く方法から。

微小な時間変化[時間の差分]$${\Delta t}$$を考えます。
加速度の定義式から,$${\Delta t}$$が十分小さければ,

$$
\boldsymbol{a}(\Delta t)=\dfrac{\boldsymbol{v}(\Delta t)-\boldsymbol{v}(0)}{\Delta t}\\\Leftrightarrow \boldsymbol{v}(\Delta t)=\boldsymbol{v}_0+\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}\Delta t
$$

これを十分大きな$${n}$$回繰り返すと,

$$
\boldsymbol{v}(n\Delta t)=\boldsymbol{v}_0+\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}n\Delta t
$$

が得られます。$${n\Delta t=t}$$とおき直せば,

$$
\boldsymbol{v}(t)=\boldsymbol{v}_0+\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}t
$$

また,速度の定義式から,

$$
\boldsymbol{v}(\Delta t)=\dfrac{\boldsymbol{r}(\Delta t)-\boldsymbol{r}(0)}{\Delta t}\\\boldsymbol{r}(\Delta t)=\boldsymbol{r}_0+\boldsymbol{v}(\Delta t)\Delta t
$$

で,十分大きな$${n}$$回繰り返せば,

$$
\boldsymbol{v}(n\Delta t)=\boldsymbol{r}_0+\displaystyle\sum_{k=0}^{n}\boldsymbol{v}(k\Delta t)\Delta t=\boldsymbol{r}_0+\displaystyle\sum_{k=0}^{n}{\left(\boldsymbol{v}_0+\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}k\Delta t\right)\Delta t}=\boldsymbol{r}_0+\boldsymbol{v}_0n\Delta t+\dfrac{1}{2}\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}n(n+1){\Delta t}^2\approx\boldsymbol{r}_0+\boldsymbol{v}_0n\Delta t+\dfrac{1}{2}\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}{(n\Delta t)}^2
$$

$${n\Delta t}$$を$${t}$$におきかえて,

$$
\boldsymbol{r}(t)=\boldsymbol{r}_0+\boldsymbol{v}_0t+\dfrac{1}{2}\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}{t}^2
$$

しかし,わざわざこんな大変な計算をしなくても,今や積分というツールがあるのだから,

$$
\boldsymbol{v}(t)=\boldsymbol{v}_0+\displaystyle\int_{0}^{t}{\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}}\,\mathrm{d}t'=\boldsymbol{v}_0+\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}t\\\boldsymbol{r}(t)=\boldsymbol{r}_0+\displaystyle\int_{0}^{t}{\left(\boldsymbol{v}_0+\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}t'\right)\,\mathrm{d}t}=\boldsymbol{r}_0+\boldsymbol{v}_0t+\dfrac{1}{2}\dfrac{\boldsymbol{F}}{m}t^2
$$

ただし,運動方程式を解く過程で,積分が初等的に計算できないときには差分方程式を解く方法が必要になります。
(詳しくは章末問題で。)

問2.
図のように,一定の速度で走行する電車の中にA:吊り下げられたおもり,B:立っている人,C:床に取り付けられた風船 がある。
電車が急ブレーキをかけた直後,A,B,Cは電車の中から見てどの向きに動くか。

急ブレーキがかかると,どうなるでしょう?

①A:前 B:前 C:前
②A:前 B:前 C:後ろ
③A:前 B:後ろ C:前
④A:前 B:後ろ C:後ろ
⑤A:後ろ B:前 C:前
⑥A:後ろ B:前 C:後ろ
⑦A:後ろ B:後ろ C:前
⑧A:後ろ B:後ろ C:後ろ

答2.
「慣性力が進行方向に加わるから,①」と答えたくなりますが,間違いです
風船が浮かんでいられるのは,周りの空気より軽い(密度が小さい)からですよね?
すると,周りの空気が動く向きと逆に力が現れることになります。よって,正解は②です。

分かったような分からないような説明ですよね……。ということで,この問題に関しては少し後で考え直してみることにしましょう。

なんか中途半端なような気がしないでもありませんが,今回はここまでです!
ありがとうございました。

Newton力学編 目次
① 力学とは何か
② 位置の表し方
③ 運動エネルギーと運動量
④ 運動の三法則 ←今ココ!
種々の力
仕事と力積
⑦ 運動方程式を解く
⑧ 回転運動
⑨ 剛体の運動
⑩ 反発係数
◼︎ 章末問題

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