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漆塗りの心を頂く
漆塗りという作業を調べたくて、ネットで検索していたら、漆器を制作販売しているお店のサイトに、漆の基礎知識について、わかりやすく解説しているページがありました。
僕にとっては知らないことだらけでしたが、中でも衝撃を受けたのは、漆液がただの樹液でなく、木の持つ回復力を引き出すことで、はじめて採取できるというところです。
ぼくらもケガをすると血が出ますが、その血はやがて固まり、かさぶたになって、やがて傷が治ってしまいます。漆の木も、傷を治すために「漆」という液を体内で作るわけです。だから、その力を弱めないように、木を上手に生かしながら、最初はごく短く、だんだんと長くなるように傷をつけていくんですね。木にとっては、傷を治すためのせっかくの液を奪われ、傷だらけにされるのですから、さぞつらいことでしょう。じつに可哀想なことをするわけですが、ぼくら職人は、まさにこの木の営みによって生かされているのだと思います。
六月頃に採った漆は、「初物」(はつもの)とか「初辺」(はつへん)と言って、乾燥が早いために中塗りなどに、また七月、八月に採った漆は、「盛物」(さかりもの)とか「盛辺」(さかりへん)」と言い、最も品質が良いので、上塗り、磨きなどに使います。九月以降の物は、「遅物」(おそもの)または「末辺」(すえへん)と言い、乾きが遅くなります。そのあと「裏目掻き」という少し長い傷をつけて漆を採り、そして最後に、幹の周囲をぐるりと一周する「止め掻き」を行うと、木は根から吸い上げた栄養分を枝まで届けることができなくなり、文字通り息の根を止められ、その後、木は根元から伐採されます。
一年で漆を取り尽くすこの方法は、「殺し掻き」という物騒な名前がついているのですが、その採取量は、一本の木から約二00ミリリットルと言われ、茶碗一杯分くらいしかありません。
漆の上塗りのことも書かれていましたが、いくら漆が優れた素材であるとはいえ、素材の上に漆を塗るだけでは、たとえ何十回と上塗りしたところで長持ちしないとのこと。
素材の表面を滑らかにするための下地をほどこし、そこに漆を上乗りすることで、はじめて丈夫な漆器ができるとのこと。下地をしっかりした技法で仕上げて、丁寧に漆を上塗りすることで、取り扱いに気をつけて、メンテナンスを適切にほどこせば、それこそ半永久的に使い続けられるようです。
話はかわりますが、自分の学びも、仕事といった、自己研鑽のみならず、職場の人間関係、子どもの教育、母のフォローといった、僕を取り巻くさまざまな人間関係のタスクに至るまで、時間が限られた中で一定のメンテを行い、さらに改善向上していくことが求められるため、どうしても即効性の高い、「こうすればうまくいく」的なツールや手法を追い求めがちです。
漆塗りというのは、こうしたタスクの多い自分にとっては、不都合な真実であり、重ね塗りぐらいは仕方ないにせよ、下地までそんな丁寧にやらなくても、という気持ちが出てきます。
ただ、自分のスキルを身につけるにも、下地をつくらないとすぐ離れてしまいますし、人間関係においては、相手にとっての自分は一人しかいないのに、自分は数多の中の一人、人間関係のタスクの一つと捉えて、手早く済ませようとすると、かえってその心を見透かされて、相手の心に届かずに、かけた時間と手間が上滑りしてしまいます。
学びや仕事においては、時間を区切り気を入れて対応することで、定着が進みスキルが高まりますし、人間関係においては、常に一期一会の気持ちで、一人一人との時間を、丁寧に対応していきたいと思います。