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陰翳礼讃と漆器

漆器について知りたいと思ったら、どんな入門書・解説書よりもお勧めの本があります。

それは谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」です。

「春琴抄」や「細雪」など数々の耽美的な文学作品を書き上げた文豪、谷崎潤一郎。
その谷崎が日本の美を”陰影”という切り口で描いた随筆がこの「陰翳礼讃」です。

この中で谷崎は漆器は闇の中でこそ本来の魅力を感じる事が出来ると説いています。

事実、「闇」を条件に入れなければ、漆器の美しさは考えられないと云っていゝ。
(略)
派手な蒔絵などを施したピカピカ光る蝋塗りの手箱とか、文台とか、棚とかを見ると、いかにもケバケバしくて落ち着きがなく、俗悪にさえ思えることがあるけれども、もしそれらの器物を取り囲む空白を真っ黒な闇で塗り潰し、太陽や電燈の光線に代えるに一点の燈明か蝋燭のあかりにして見給え、忽ちそのケバケバしいものが底深く沈んで、渋い、重々しいものになるであろう。

古えの工藝家がそれらの器に漆を塗り、蒔絵を画く時は、必ずそう云う暗い部屋を頭に置き、乏しい光りの中における効果を狙ったのに違いなく、金色を贅沢に使ったりしたのも、それが闇に浮かび出る工合や、燈火(ともしび)を反射する加減を考慮したものと察せられる。
(略)
漆器の椀のいいことは、まずその蓋を取って、口に持って行くまでの間、暗い奥深い底の方に、容器の色と殆ど違わない液体が音もなく澱(よど)んでいるのを眺めた瞬間の気持である。
人は、その椀の中の闇に何があるかを見分けることは出来ないが、汁がゆるやかに動揺するのを手の上に感じ、椀の縁がほんのり汗を掻いているので、そこから湯気が立ち昇りつつあることを知り、その湯気が運ぶ匂に依って口に啣む前にぼんやり味わいを豫覚する。
その瞬間の心持、スープを浅い白ちゃけた皿に入れて出す西洋流に比べて何と云う相違か。
それは一種の神秘であり、禅味であるとも云えなくはない。

上記の文章を読めば、「ロウソクの明かりの中、汁物を飲んでみたい」と汁椀が欲しくなる事間違いなしです。

漆器ファンをもっと増やしていく為、今後も谷崎潤一郎の陰翳礼讃を周囲にオススメしていきます。

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