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【ギフテッド】成功しても嬉しくない。天才的な子どもは苦しいに決まってる【発達心理】

皆さんは「自分が発達障害ではないだろうか」と悩んだことはないでしょうか。
人とのコミュニケーションがうまくいかなかったり、授業に集中できない、あるいは人生の意味など答えのないものに深く悩んでしまうなど。

もしも、これに当てはまれば、もしかしたらあなたは
天才なのかもしれません

・はじめに

こんにちは。サイモン心理大学です。

知能指数が高いと幸福度が下がるなんて聞いたことがあるでしょうか。
 
今回はそういった疑問、天才、ギフテッドとは何かについてお話ししたいと思います。

 元々は「天才と精神病」というタイトルで動画を作ろうとしたのですが、
ゴッホや太宰治などの苦労は様々で、共通する部分を探すことができませんでした。
※勉強不足ですw

ギフテッドの辛さには天才の辛さと共通している部分があるのではないかと考えて、ギフテッドをメインにした動画にしてみました。
偉人の人生の深堀については、いつか動画にできたらなと思います。

 友人に「ギフテッドの動画を作る」と伝えたところ、
呪術かいせんに「フィジカルギフテッド」というのがあると聞きました。
なので、科学的に「フィジカルギフテッド」解説をしたいと思います。

嘘です。(漫画の造語です)

美しい絵画
新しいテクノロジー
宇宙の解明

など過去に多くの偉業がなされてきました。
 
しかし、天才の陰には多くの苦悩があったと言われています。

うつ病
統合失調症
また、自ら命を…

 その苦悩にはいったい何があったのか。
今回は幼少期よりその才能を認められているギフテッドからその原因を考えていきましょう。

・ギフテッドとは何か
・ギフテッドの特徴
・ギフテッドの苦悩

そんなことをお話させていただきます。


・ギフテッドとは

 いきなりですが、皆さんは自分が知能指数が高いと感じたことはないでしょうか。

私の周りでも「ネットの知能検査でIQ130だった」なんて聞いたことがあります。

私は、実際にウェクスラー式知能検査 (WAIS)という正式な知能検査のテスターをしていたことがあるのですが、ネットの知能検査はあまり正確ではないと感じています。

飽くまでたくさんある領域の一部をちょっとテストしただけに過ぎないと思っています。
ですが、今回のギフテッドもそうですが、

「才能を開花する人」と「才能を開花しない人」がいます。
それは生まれつき天才でも変わらないのです。

そもそもgiftedという言葉は、

「英語の才能があるという形容詞である」そうです。

片桐 (2023)

ギフテッドには明確な基準がなく、その定義も様々です。
 
National Association for Gifted Childrenの定義を見てみましょう。

「才能のある子どもは、1つかそれ以上の領域で同じ年齢および経験、環境にある人と比べて、より高いレベルで能力を発揮するか発揮する可能性を持っている」

National Association for Gifted Children : 2019

 ここでいう能力とは、芸術的な才能や創造力やリーダーシップなどのことをさしています。

「アメリカの教育現場では、州ごとに独自の認定基準を設けてギフテッドと『認定』して支援が行われている」

 私たち日本の学校でも、発達障害を持っている同じクラスの子はいましたよね。

そんな感覚で「あの子はギフテッド」とクラスで認識しているのでしょうか。

「アメリカ全体では、幼稚園から高校まで支援を受けているのは
6.5%, 370万人ほど」

Worrell et al,. 2019, 片桐 (2023)

日本ではおよそ200万人ほどいるそうです。
意外と多いなという印象でしょうか。


・ギフテッドの特徴

では、ギフテッドにはどのような特徴があるのでしょうか。
 
アメリカのギフテッドのガイドブックには次のような特徴があるといわれています。
一部紹介します。

・言葉のニュアンスや比喩を深く理解しており、抽象的な概念を理解することが得意

・数字やパズルが得意

・幼少時から文字の読み書きを教えなくても自分で学んでしまう

・感情が並外れて深く、反応が強く情熱的、非常に繊細

・幼少時から正義を重んじ、理想主義者である

・妄想や白昼夢にふける

・他人の不正や処理スピードが遅いことが許せない

・幼少時に空想の友達がいる。いきいきとした想像力をもつ

などがあります。
残念ながら私はギフテッドではないようです。
 
また、「過集中」「課題への没頭」があるそうです。
これはアインシュタインが有名ですね。

天才的なアインシュタインでさえ、周りからはぼーっとした何を考えているかわからない子どもと見られていたそうです。

 また、ギフテッドにはあらゆる刺激を過剰に感じてしまうそうです。
このことをポーランドの精神科医ドンブロフスキは「過度運動」と言いました。

「過度運動とは、ポーランドの精神科医ドンブロフスキ (Kazimierz Dabrowski 1902-1980) が提唱した概念で、日常の刺激を過敏に強烈に感じ取ること。
 たとえば、嗅覚や味覚、聴覚、触覚などの感覚で不快感が強かったり、喜びも悲しみも楽しさも苦しさも人一倍感じてしまったりする」

林 (2017)

刺激には身体的な刺激と精神的な刺激の両方のことです。
 
なぜこのようになってしまうのでしょうか。
ギフテッドにはニューロンの感受性の高いためだそうです。
高い能力と引き換えにこのような苦しみも存在するのです。

「ドンブロスキは過度運動を『悲劇的なギフト』と呼んだ」そうです。

「これは高い能力と関わって、ニューロンの感受性の増加による刺激への反応の高さに起因しており、感覚過敏や精神的な刺激に強く反応する」

林 (2017)

「ドンブロフスキは過度運動を『悲劇的なギフト』と呼んだが、過度激動がギフテッドをより高度に成長させる契機にもなりうると述べている」

林 (2017)

 また、刺激に対する反応の激しさを (Overexcitability特性:OE) と呼びます。以下OEと呼びます。
OEには、5つの分類があります。

①Psychomotor OE (精神運動性OE)
 運動, 落ち着かない様子, 突き動かされる様子, 活動的でエネルギッシュ

(Piechowski $ Cunningham, 1985; Mendaglio & Tillier, 2006), 日高ら (2021)

②Sensual OE (感覚性OE)
 生き生きとした感覚体験の強化

(Piechowski $ Cunningham, 1985; Mendaglio & Tillier, 2006), 日高ら (2021)

③Intellectual OE (知性OE)
 知識欲, 発見よく, 疑問の追及, 理想的な分析を好む, 真実の探求

(Piechowski $ Cunningham, 1985; Mendaglio & Tillier, 2006), 日高ら (2021)

④Imaginational OE (想像性OE)
 想像の鮮明さ, 関連付けることの豊かさ, 夢・ファンタジー・発明を好む, おもちゃや物の擬人化 (アニミズム), 普通でないものや独特なものへの選好

(Piechowski & Cunningham, 1985; Mendaglio & Tillier, 2006), 日高ら (2021)

⑤Emotional OE (情動性OE)
  様々な感情体験を強く深く強烈に表現する, 深い悲しみや絶望, 大きな幸せ, 強い思いやりや責任感, 自己検討力がある

(Piechowski & Cunningham, 1985; Mendaglio & Tillier, 2006), 日高ら (2021)
 

芸術や文学など、他の人には感じないような刺激を感じているからこそ、人と違った表現ができるのかもしれません。
 
知能が高いというのはとても羨ましいことですが、
その分、苦労することも多いようです。

「ギフテッドの子どもは、他者への期待に最大限応えようとし、集団の中でリーダーシップを示すことがある。実際に結果が出て、周囲の賞賛を得られている状態が続くとは限らず完璧主義や自分の能力と他者の能力の違い、他者との意見の相違、強い承認欲求などがギフテッドの子どもを苦しめることがある」

片桐:2023

 知能指数の高い子どもはやはり精神的にもやはりつらい面があるようです。

「知的能力の高い子どもは、不安や抑うつが高いという研究が複数報告されており」

(Karpinski et al., 2018) (片桐:2023)

「Alsop (2003) は、知的能力の高い子どもは、不安のほか、自己批判、感覚過敏、動揺しやすい、イライラしやすいといった特徴を見出し、青年期には抑うつが見られることを報告している 」

片桐:2023

自己評価が低い傾向にあることも指摘されている。高い成果をあげていながらも、その成果を喜ぶよりも、できなかったことばかりに意識が向いたりする 」

林:2017

 この辺がいわゆる「天才がどうして精神を病むのか」のヒントとなりそうな部分ですね。

ゴッホは異常なまでに絵のこだわりがあったそうです。
精神を病んではいませんが、江戸川乱歩は自分の小説を「駄作」と言い続けていたそうです。
 
そして、その辛さは知能指数の高さだけではないそうです。
ギフテッドには発達障害と併発していることが多いとのことです。
そのことを2E (つーいー)というそうです。

2Eとは「twice-exceptional」のことで、直訳で「二重に例外」という意味です。

天才的な能力を持ち、苦手な分野も存在している状態のことです。
発達障害、いわゆるASD:自閉性スペクトラム障害のことです。
 
ギフテッドと発達障害を併発している状態を指しており、ある分野では突出した才能を示しますが、苦手なことはとことん苦手な傾向にあります

「ギフテッドケースの半数以上が2Eケースである」

片桐:2023

 私は発達障害の支援に携わっていたことがあるのですが、
その生きづらさや苦手なことは様々です。
治すというよりも、どううまく適応するように支援するかが重要です。
 
それはたとえ知的能力が高くとも、苦しい部分はあるだろうなと想像できます。


・ギフテッド教育

日本でもギフテッド支援がだんだんと増えてきました。
 
日本のギフテッドでは、2E教育が主流だそうです。

2E教育では、「特別教育」と「ギフテッド教育」を合わせたもので、「強みを伸ばすこと」もですが、「弱点を補う」という視点も2E教育では重要なようです。

アメリカのギフテッドの教育では

取り出し方式
普段は一般クラスで学びながら、一定の時間はギフテッドの子どもを集めたクラスで学ぶ

林(2017)

エンリッチメント方式
基本的には一般の生徒たちと同じクラスで過ごすが、特別な課題を与えられたり、課外活動など、本人の能力が発揮できる場が設けられている

林(2017)

 加速方式
飛び入学や飛び級のこと

林(2017)

というやり方が行われているようです。
 
アメリカでもそうですが、ギフテッド支援、ギフテッド教育は、何も国の利益のためにエリートを育てようとする目論見ではないのです。
一部はそういう目的の国もあるそうですが、、

教育の目的は、「才能を伸ばせるようにする」です。

 ギフテッドの子どもたちの中には、
学校の授業が簡単でつまらない」と思う子もいるそうです。
 
特に日本では、周囲と合わせることを重視することもあると思います。
 
そうして、ギフテッドの子どもたちは、自分の好きなことができなくなってしまうのではないでしょうか。
 

松村 (2021) は「『好きなことに打ち込む行動』に注目すべきであると考える」

松村 (2021)

と述べています。
また

「才能のある子供にラベル付けするのではなく、『人にではなく行動に才能のラベルをつける』ことこそ才能教育の本質であることを指摘している」

松村 (2021)

 つまり、才能とは生まれつき決まっているものではなく、その人が
「何をしたか」
で判断するべき、ということです。

あなたは今、どんなことに取り組んでいるでしょうか。 


・最後に

簡単にではありますが、ギフテッドを紹介させていただきました。

あなたは自分に才能がないと悩んだことはありませんか?
それはあなたの努力や才能のせいではないのかもしれません。

あなたが本当に『好きなこと』に打ち込めば、誰にも負けない才能を開花するかもしれません。

ギフテッドに関係なく、私たちは適切な環境と適切な行動によって自身の才能を開花させるのかもしれません。

最後に僕が心理学の教授から教わったことをお伝えさせていただきます。 

「人は、やりたくないことをすると、成長もしないし、失敗ばかりするし、遅刻はするし、やりがいも感じないし、人生に満足しないんです。

 人が本当にやりたいことをしたときは、自ら進んで努力するし、たくさんの時間を使うし、成長して、多くの人に喜ばれるようになるんです。やりがいを感じて、生きる意味を感じることができるんです」

 

皆さんはどうでしょうか。

引用文献

・片桐 (2023) 「ギフテッドと発達障害」Jpn. J. Learn. Disabilit. 32 (4), 236-243
 
林 (2017) 「ギフテッドの概念と日本における教育の可能性」滋賀大学教育学部紀要 No.67, pp. 199-204
 
・日高 茂暢, 富永 大悟, 片桐 正敏, 小泉 雅彦, 室橋 春光(2021)「ギフテッドのOverexcitability特性と関連するADHD傾向, 空想傾向, およびマインドワンダリング頻度の検討」J. Fac. Edu. Saga Univ. Vol.5, No.1 113-131
 
・松村 (2018)「発達多様性に応じるアメリカの2E教育―ギフテッド (才能児) の発達障害と超可動性―」関西大学『文學論集』第68巻第3号
 
参考文献
・片桐正敏(2021):ギフテッドの個性を知り,伸ば す方法.小学館.
 
・Dąbrowski, K.(1964):Positive Disintegration and Child development. Positive Disintegration. Little Brown, Boston, MA., pp.75-81
 
・Worrell, F.C., Subotnik, R.F., Olszewski-Kubilius, P. et al.(2019):Gifted students. Annual Review of Psychology, 70, 551‒576.松村 (2021)
 
・Karpinski, R.I., Kinase Kolb, A.M., Tetreault, N.A. et al.(2018):High intelligence: A risk factor for psychological and physiological overexcitabilities. Intelligence, 66, 8-23.
 
・Alsop, G.(2003):Asynchrony: Intuitively valid and theoretically reliable. Roeper Review, 25(3), 118-127.
 
・National Association for Gifted Children : 2019
公式:https://nagc.org/

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