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月桂冠の魔法少女 #5 3人の皇帝 tres imperatores

注意点

・以下に登場する人名、地名、団体などは実在のものと一切関係がありません。
・作者の経験不足により、魔法少女よりも特撮のノリになる恐れがあります。
・歴史上の人物をモチーフにしたようなキャラクターが出てきますが、独自解釈や作者の意図などで性格が歪められている可能性があります。
・作者がラテン語初学者のため、正確な訳は保証できかねます。

前回までのあらすじ

 阿具里晴人は、上院セナから「秩序の力」を得て魔法使いに変身。旧友、和也を「渾沌の力」から救い出した。一件落着かに思えたが、かつてウィアナからもらった薬の代金70万円を借金することになった…。晴人とウィアナの「淡い記憶の続き」はもうちょっと続くことになるのであった。というわけで第5話スタート!

#5 3人の皇帝 tres imperatores

前回の一日後。

「フ、フフフフ。」
晴人は学校帰り、不気味な笑みを浮かべる。
「どうした晴人?最近元気ないと思ってたが…、何かあったら相談に乗るぞ…。」
「大丈夫。きっとどうにかなるさ。ハハハ…。」
「こんな投げやりな晴人君、初めて見たわ…。でも、いつもより感情豊かね。」
「良い…意味なのか?」
「ハハハハハハハ!」
急に地味に高めの借金を背負い、晴人は笑うしかなくなっていた。

「じゃあな、晴人」「またね。アイジン。」
「明日会えるといいな!」
「「・・・。」」
ブラックなジョークを交えつつ、友人と別れる。
「ヤッホー!待ってたよ晴人くん!」
高めの女声が聞こえる。
女性の声。妹の由利亜はこんな高い声じゃない。瀬宇くんとはさっき別れたばかり。母親はこんな話し方をしない。
改めて女子(+男の娘)との接点が少ないなと思いながら、残る可能性は…
「ウィ、ウィアナさん!?」
似ているところと言えばセミロングの赤髪くらいで、着崩したパーカーに、明るい笑顔。高めの声も相まって、以前と同じ人とは思えない。
「あ、変身前だから…、百合原葉月(ゆりはらはずき)、葉月って呼んで。」
「葉月さん…まさか、取り立てに…」
「あれはセナさんが債権者だから、私は取り立てるつもりないよ。」
ニコニコ笑顔が晴人にとっては逆に怖い。
「に、逃げろ!」
晴人は走り出す。
「待ってよー!晴人くん!」

「つかまえた!」
あっさりと葉月に追いつかれ、腕をつかまれる。
「どうかお許しください!」
「だーかーら、取り立てに来たわけじゃないって!あ、でも、仕事の紹介はするんだった。」
「・・・漁船なら、イカよりマグロがいいかな…」
「そんな怪しい仕事じゃないから。はい、これ。」
葉月は一枚の紙を手渡す。
「翻訳するの大変だったんだよー。セナさんラテン語でしか書かないから。」
堅苦しい文章が並んでいる。きっと変身中のウィアナが訳したのだろう。晴人は文書のタイトルに目をやる。
「これは…魔法使い見習いバイト?」
「そ。魔法使いの見習いとして、魔法少女、主に私のサポートをしてもらう。自給2000円で月25時間、ちょうど一か月の返済額とぴったりだね。緊急出動手当もあるよ。」
(魔法少女とかの世界観の割に、金額とかがリアルなんだよな…)
ツッコむとバイトごと消し飛びそうなので、晴人は黙っている。
「どう?悪い条件じゃないと思うんだけど。」
「…確かに、給与は悪くないと思います。」
「でしょ。あ、敬語はいいよ。」
「でも、心の『秩序』を賭けてる割にこの時給は…」
「そこは大丈夫。魔法使いとしての訓練もあるし(時給出る)、何かあったら私が守るから。」
「・・・。わかった。」
ここで断れば借金返済がより困難になってしまう。晴人の中で迷いは断ち切られた。ただ、
「じゃあ、サインお願い。」
「うん。」
笑顔の葉月と無表情なウィアナを頭の中で比べたとき、本当に守られるべきは自分じゃなくてウィアナなのではないかと、ほんの少し考えていた。

「よし!じゃあ今からみんなで懇親会をやるよ!」
「え…」
「この後何かあるの?」
「・・・。いや、ない…かな。」
「じゃあ行こう!」
(同年代と飯に行くのは、初めてかもしれない。)
晴人は急な誘いに戸惑いつつも、同年代の友人(?) との外食にあこがれていたのだ。

「何名様ですか?」
「2名。連れが2名既にいます。」
明るい雰囲気のファミレスに着く。
「お、ホントに来やがった。」
長いボサボサの髪の女の子。
「珍しくティアラさんの負けっスね。」
こっちは短髪の小柄な少女。
「と、いうわけで私の勝ち。今日はティアラちゃんのおごりだね。」
「たく…、あんまり食い過ぎんなよ。」
「あの、これは一体?」
晴人が口をはさむ。
「あ、実は晴人くんが来てくれるか賭けてたんだ。」
「・・・。」
「気にしないでほしいっス。葉月さんは賭け事が好きなだけっスから。」
(だけって・・・)
自分が賭けの対象となっていたことに、嫌悪を覚えなくもなかったが、晴人は黙っていた。
「紹介が遅れたね。こちら神暮聖姫(かみくれてぃあら)ちゃん。私たちより少しお姉さんだよ。」
「よろしくな。」
(名前のわりにヤンキー気質だ…)
「こっちは会田杏奈(あいだあんな)ちゃん。ちっちゃくてかわいい。」
「ふっふっふ。」
杏奈は不敵な笑みを浮かべる。
「『ちっちゃい』というのはすべて相対的なもの。つまり自分がそう思わなければ、小さくもないし、気にすることもないっス。」
「ね。ちっちゃいのにかわいいよね。」
「だからちっちゃくないっス!」
(小さい子が怒ってる…かわいい。)
晴人は感じる。
「ふぅー。つい取り乱してしまったっス。これからよろしくっス。」
杏奈はお辞儀をする。
(この二人、どこかで見たような…)
「晴人くん」
ウィアナがひじでつく。
「あ、阿具里晴人です。よろしくお願い…します。」
「そんな堅くならなくていいんだよ。これから一緒に戦う仲間なんだから。」
「あ、昨日の!」
昨日の公園での戦い、そこに二人の少女もいた。
「昨日のお前、なかなかやるじゃねぇか。」
「かっこよかったっスよ。」
「いや、そんな…。」
「まぁまぁ、戦いの話はそれくらいにして、何頼む?」
(フォローありがとう…。)
人に、さらには女子に褒められ慣れていない晴人にとっては救いであった。

「じゃあドリンクバー4つと、じゃこチーズパン付きで、あとイチジクゼリー1つお願いします。」
「このサラダ追加よろしくっス。」
「こちらのドリアでお願いします。」
「ティアラちゃんは?」
「以上で。」
店員が去ってゆく。
「何も頼まなくていいの?おごってもらうのに悪いよ。」
「大丈夫だよ。これは俺の信条だ。」
聖姫は語り始める。
「俺は自分の決めた『最高価格』でしか物を買わねぇ。それだけだ。ドリンクバーは、お得だからな。」
「やっぱり変わらないっスね。」
「そんなことより、ドリンクバー取りに行ってくる。」
聖姫は立ち、すぐに戻ってきた。ジョッキを4つ自分の前に置く。
「あ、俺は自分で取りに行くので…」
「これは全部俺のだが?」
「4本も!?」
晴人が思わず声に出す。
「あったりめーだろ。絶対に元取ってやる。」
ストローを差さずに飲む。
「ちょっとケチなところがあるんだ…」
ウィアナが小声でささやく。

「それでねー。先週トモダチとこんなことがあってねー。」
(・・・。)
葉月を中心に話が盛り上がる中、黙り込む男が一人。晴人だ。
(イツメンの中に俺一人は…キツイ…。)
ほぼ初対面の人の輪に入るんじゃんかった…そう後悔し…
「晴人くん。」
「あ、はい。」
「ドリア来たよ。」
「ありがとう。」
チーズのにおいがテーブルに漂う。
「おいしそうだね!ドリア好きなの?」
「まぁ、そうかな。」
本当は高いメニューをおごってもらうのに気が引けただけである。
「私もチーズ好きなんだー。ねね、どんなチーズが好き?」
「・・・モッツアレラ、かな…」
とっさに思い浮かんだものがそれであった。
「へー。今度私も食べてみよっと。ねぇ、ティアラちゃんは何かオススメあったりする?」
「俺は…思いつかねぇ。キャベツなら冬に限るがな。」
「今はキャベツの話してないっスよ。この人キャベツ農家やってるんっス。」
(すごい…俺を巻き込んで話を盛り上げた…)
晴人は葉月のコミュニケーション能力に感服している。

「じゃあまた明日。」
「またな。」「さよならっス。」
各自食べ終え(1名は元を取れてないとゴネていたが)、帰路につく。空はすっかり赤くなっている。
「どう?仲良くやれそう?」
「はい。ありがとうございます。」
「だからタメでいいって。」
「あ、そうだ。ありがとう。」
「えへへ。」
葉月がほほ笑む。晴人にとってはまだ慣れない。
「あ、忘れてた!晴人くんも私たちのグルチャに入れなきゃ!lineaやってる?」
「あ、うん。」
歩きながらQRコードを差し出す。
「登録完了ッと今から送るね。」
(よろしく)軽快なスタンプが送られる。
(よろしくお願いします。)
晴人は文字で返す。
「じゃ、後でグループに入れておくね。あ、おっと!」
葉月が段差につまづく。歩きスマホの罪は軽くない。転びはしなかったが、スマホを落とした。
晴人が拾う。
「これは…。」
葉月のロック画が見えた。髪で目が隠れた少女と、黒髪のイケメンが前に並んで、後ろに一人。顔は、時計表示で見えない、いや、顔が…ない…。
「あ、それ、見つけちゃったか…。」
「!?」
晴人は戦慄する。
「ただの昔の写真だから大丈夫だよ。私と、昔の友だちと、カエサ。」
「カエサさん!どうして顔がないの?」
「…記録が、消えちゃったから。詳しくは後で話すよ。」
「わかった。」
今のはウィアナの方の葉月なのだろうか。そんなことを考えていた。
(ん、待てよ…今の葉月の言葉を信じるなら、メカクレの地味な少女は…)
「葉月!」
「え、どうしたの?」
「今日は本当にありがとう!これからもよろしく!」
「よ、よろしく。急に元気になったね。」
地味で陰気な晴人にとって、陽気な葉月は違う世界の人間のような気がして、付き合いにくさを感じていた。しかし、葉月もかつては地味であったと知ったことにより、一気に親近感が湧いたのだ。
 二人の笑顔を夕焼けが照らしていた。

次回 #6 渾沌の森 chaos silva

歩きスマホ 元ネタ

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