小論文・志望理由書では気をつけたい!文体(常体・敬体)と文章リズム
更新日:2024/09/25
小論文・作文指導者の〆野が普段の添削・採点指導で教えている、文章作成における基本事項を紹介するのが、このシリーズ【文章作成の基本】。
(〆野の自己紹介はこちらから見られます。)
ここでは、文末表現という意味での「文体」と、文章の「リズム」について、お話しします。
小論文や志望理由書で気をつけたい、「文体(常体と敬体)」と「リズム」。
文末は常体か敬体かどちらかに統一し、文章リズムを整えよう。
テレビ番組の「プレバト!!」の「俳句」のコーナーで、夏井いつき先生が出来の悪い句に対して「(それは)散文的だ」と評している場面をよく見ます。これは、「(その句が)説明文的で一本調子であり、リズムが悪い」というようなことを意味していると思われます。言葉のリズムを重んじる短歌や俳句などの「韻文」に対して、小説やエッセイ、評論文などの一般的な文章は「散文」と言いますので、その句は「韻文ではない」ということでしょう。しかし、散文が言葉のリズムと全く無縁かというと、そんなことはありません。一般的な文章作成においても、文章のリズムは考慮すべきです。
芸人で芥川賞作家の又吉直樹氏が『火花』を執筆する際、書いた文章を周りの芸人仲間や後輩に音読して、文章として口に出して不自然さがないかを確認した、ということを聞いたことがあります。これは特別なことではなく、いろいろな文章作成術の本でも、「音読してその文章のリズムに違和感がないかを確認すること」は、読みやすい文章を書く有効な方法としてよく紹介されています。又吉先生のような文章力のある人でも声に出して確認するくらいですから、いわんや普通の人をや、です。
しかし、中高生のみなさんの小論文などを見ると、文章のリズムを余り配慮していないようです。それが証拠に、平気で「~思いました。」、「また、~思いました。」「そして、~思いました。」と同じ文末表現で続けて書いている文章も多々見ます。そういうとき、私は「文章展開として冗長な表現になっているので、文末表現を工夫してください。」と赤入れして指導しています。
「内容が問題なければ、そんなこと気にしなくてもよいではないか」と思う中高生の方もいるかもしれません。しかし、文章とは、表記、表現などが一体となって展開するものです。たしかに「内容は適切ですが、表現を工夫しましょう」と私も赤でコメントを入れるときがあります。しかし実際は、表現の不具合があれば、当然内容が読み手に正確に伝わるはずがありません。そのため「表現はいまいちだが内容がよい文章」というのは、現実にはありえないのです。同じ文末表現が単調かつ冗長に繰り返されるような文章は、かりにその筆者が優れたことを頭の中で考えていたとしても、その優れた考えが文章の内容として読み手に伝わらない(というよりも、文章リズムの違和感に気を取られて内容が頭に入ってこないため、読み手が読むことを止めてしまう)のです。
適切なリズムの文章を作成するためには、まずは文体を統一することが大事です。文体には、常体(ダ・デアル調)と敬体(デス・マス調)の二つがありますが、どちらか一方に統一してください。中高生のみなさんで、この基本が守られていない人を多く見かけます。文体の混用は、リズムが悪く、ちぐはぐな印象を与えるため、読み手が違和感を覚え、内容が適切に伝わらなくなります。文体は必ず統一してください。
小論文と志望理由書、文末表現(常体と敬体)はこう使い分ける。
常体(普通体)は、「~だ。」、「~である。」とシンプルな言い方なので、情報を客観的に伝える文章、たとえばレポートや報告書、評論文や論説文、コラムなどに向いています。中高生のみなさんも受験で小論文を書く機会があると思いますが、この小論文は常体で統一して書くのが原則です。
一方敬体(丁寧体)は、「~です。」、「~ます。」という読み手に配慮した言い方なので、手紙文や履歴書、職務経歴書、志望理由書などの、志望大学や志望先の企業などの「丁寧に伝えるべき読み手」に書く文章に向いています。高校生のみなさんは、学校推薦型選抜や総合型選抜などで志望理由書を書くことが多いと思いますが、この志望理由書は(常体で書いてもかまいませんが)敬体で統一して書くのが適切です。
その上で、前述のように、「~思う。」、「~思う。」と同じ文末表現が続くようなら、「~(と)考える。」など別表現に置き換えて、文末表現を工夫しましょう。文章が単調にならないように、他の文末表現に変化させ、文章全体のリズムを整えてみてください。
まとめ ~文章のリズムを決める文体(文末表現)~
さまざまな文章作成における注意点がありますが、全ては「読み手のため」です。もちろんこうした文章のリズムを整えることも、「読者への配慮」によります。前述の又吉先生が自分の文章を芸人仲間に読み聞かせたのは、自分の文章がそれを聞いている人(=読む人)にしっかり伝わるものになっているのかを確認するためです。こうした「読み手への配慮」がなければ、「読みやすい文章」、「わかりやすい文章」を書くことができるようにはならないということを、中高生のみなさんにはしっかり理解して欲しいと思います。
〈付記〉
実際には文体を意図的に混用することで、文章のリズムにあえて変化をつけるという書き方もあります。しかし文章を書き慣れている大人の方にはおすすめできますが、中高生(受験生)にはおすすめしません。基本から外れた応用的な書き方なので、マイナス評価につながる可能性があります。受験のときは絶対避けてくださいね。ただ、こういう書き方もありますよ、ということで、参考文を挙げておきます。
基本常体で書いているものの、一箇所だけ敬体で書いています。冷静で淡々としたイメージの常体で綴られる中で、突如現れる敬体。「一階しかないし格子もあるから飛び降りなんてできるわけないだろ!何だこの新聞記事!アホか!」という安吾の怒りが、(あえて違和感が出るように)敬体で書かれることで強調されています。ここがもし「ここの患者は全部逃げだしている」と同じように常体で書かれていたら、文章がフラットなリズムになるためこの怒りが際立たず埋没してしまいます。受験では絶対ダメですが、ブログやエッセイなどのエンタメ文章では、参考にしてもよい書き方です。
なお、今回も参考文引用には、青空文庫さんを活用しました。
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