流行り
「あいつ、ついに死んだってよ」
「あれだけ参加してりゃあな。月10回はさすがに多いよ」
「再来月また新しい会場がオープンするって。一緒に行かない?」
「聞いたか、東京のは賞金10億円だってさ」
「まじかよ、こないだの地元のはたった5000万だったぜ。都会行きて―」
人の価値観とは非常に脆いもので、何の免疫力もない。流行り廃りとは人々のそれにしょっちゅう寄生しては、「人が築き上げてきた文化」という幻覚を人に見せる。
ここはデスゲームが流行している世界。その始まりは、サイコスリラー映画『ソウ』を観た起業家がその作品の内容にビジネスチャンスを見出し、デスゲームを運営する会社を設立したことだった。
当初は「それでも人間か」「犯罪行為だ」「道徳的に認められない」などと、LGBTに対するかつての自民党のような声が上がった。しかし、周知のとおりこの時代に性的マイノリティを差別する声がないのと同じく、デスゲームに対する考えも変化し、世界へ受け入れられていった。
デスゲームには大小様々あり、個人が一戸建てで開催する小規模なものから、競技場全体を会場とした国営のものまで存在する。人々はクリア後に貰える賞金を求めて、まるで派遣のバイトにでも行くかのように参加する。
さて、突然だが人は絶滅する。原因はデスゲームのやりすぎであった。人類最後の数十人は、渋谷で開催されていたデスゲームに参加し、誰もクリア出来ずに死んでしまった。そのデスゲームの主催者も、自分以外みな消えてしまったことに絶望して、こちらも程なくして自らの手で死んだ。
ところかわって死後の世界。人々は話し合っていた。
「デスゲームのやりすぎは良くなかったかなあ」
「結構楽しかったんだけどな」
「ねえ、さっき私こんなの拾ったんだけど」
「なんだそれ?ユラユラ揺れてるぞ。触ってみよう」
「うわっ!これ焼けるように痛いぞ、気をつけろ!」
「お前なんてことするんだ、それでも人間か?」
「ごめんなさい、でもこれがあれば相手の顔がよく見えるの」
「何、相手の顔を見るなんて道徳的に間違っているんじゃないのか」
「待て、それから少し離れるととても暖かいぞ!」
「本当だ、これは良いぞ。みんなにも教えてあげよう!」
人の価値観とは非常に脆いもので、何の免疫力もない。流行り廃りとは人々のそれにしょっちゅう寄生しては、「人が築き上げてきた文化」という幻覚を人に見せる。
ここは火が流行している世界。