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日本が好きなマシューさん


初めて会ったのは画面越しだった。
日本人向けの求人掲示板に書かれたメッセージにわたしが問い合わせをして面接が決まった。

拙い英語で自己紹介をしたあとで、マシューさんはベッドの上から慣れた様子で(時折、日本語を交えながら)わたしに質問をした。

でもそれが面接らしくなくて「大阪にいた時は大阪弁だったの?」とかだったので拍子抜けしつつも、初対面でもリラックスして自分の人柄を伝える最短ルートに乗せられていた。

特に、全身麻痺のあるマシューさんのような方にとっては場の緊張が身体の強張りとなってしまうのだからユーモアは切り離せない。

その日からフルタイムの仕事に就くまでの5ヶ月間くらい、わたしはマシューさんをカナダ生活での父のように慕った。

いかにも、マシューさんは日本が好きだったので周りに集まる友人やケアギバーも日本人が多かったし、堪能な日本語で彼らの相談に乗るような優しさを持つ方だった。

「福祉の仕事がしたいならここはどうか?」「あの子が部屋探しをしているけど良いところを知らないか?」とお節介を焼いては、わたしをコミュニティに混ぜてくれた。


話を戻して、初めての面接が終わりかけようとしていた時のやり取りがわたしはとても大好きだった。

「ガッチャマンの歌を歌える?」

ガッチャマン…?突然言われてキョトンとしてしまうわたしを見兼ねて、彼の隣にいた日本人のケアギバーがすぐに「誰だ、誰だ、誰だ〜ってやつね」と合いの手を入れてくれた。

「それそれ!」「それなら知ってる!」とみんなで笑い合って、後半部分の「地球は一つ、地球は一つ、おお〜、ガッチャマン〜!」を合唱した。

当時のわたしは日本人アニメプロデューサーの邸宅にお世話になっていて、リビングに飾られていた大きなガッチャマンの絵が画面越しに映っていたことによるやり取りだった。

それが、わたしが大好きな映画『かもめ食堂』の始まりのシーンとぴったり重なっている気になって、思い出すたびににやにやしてしまう。

ガッチャマンの歌を思い出して、一緒に歌って、なんとも言えない快感を共有する場面。世界中のどこかでもきっと起きているんでしょうね。


知らない方はぜひ観ていただきたいです^^


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