『白ゆき姫殺人事件』~人間はウソをつく~
2014年公開(日本)
監督、中村義洋 原作、湊かなえ
※ネタばれ含む
原作者の湊かなえさんには好きな作品が多いのですが、心をえぐるような内容が多く、見終わると精神が不安定になります(笑)。そして今回もそのような話でした。
見た目が地味で暗くて被害者に恨みを持っていそうな、被害者同僚の城野。
状況が怪しいというだけで城野が犯人だとみんなが憶測で語ります。私の知人はネットのデマにさらされてひどい目にあったことがあるのですが、まさにこんな感じでデマが広がるのですよね。そしてデマだろうが何だろうが他人事だと面白がってのっかる人たちが出てくる。どんどん収集がつかなくなっていく……誰でも安易に全世界に情報を垂れ流せるようになった社会の恐ろしいところです。筆者はあることのデマの訂正をしたら目をつけられて今度は筆者自身のデマを書かれるという目にあったことがあります。
インターネットのない時代でも怪しい人をマスコミが騒ぎたて、結局のところ冤罪だったということもありました。それに加えて、今の時代は何でも脊髄反射的にツイッターをはじめとした情報発信ツールやSNSに書き込まれるのですぐに拡散してしまいます。人間関係は外側からだけではわからないから、人の証言や自分の憶測を鵜呑みにしすぎるのはよくないですね。もちろん疑いすぎるのもよくありませんが、思い込みで物を言うと思わぬところで誰かを傷つけてしまうことがあります。
私の知人がネットでデマにさらされたときは、最終的には相手方の発言のスクリーンショットを提示しました(デマを流された証拠とデマであることの証明のために)。このことを「晒し」だと相手方は激烈に怒っていましたが、真実をわかってもらうためには証拠の提示はやむを得ないと思います。まあ大胆なやり方ではあるので大っぴらに解決方法としておススメはできませんが。
同じものを見ているはずなのに全く違う姿になっている ――噂話って妖怪みたいです。
そして悪気なく(あったのかもしれませんが)個人情報までツイッターに書き込む人が現れてしまいます。
この名前を晒した人は自称・城野の親友なのですが、何というか、親友と言いながら内心だと城野のことを見下していたんだなーと。城野は天然だからそれもわからないだろうと思っていたのでしょうが、ちゃんと城野にもわかってしまうんですよね。わからないほうが幸せなのでしょうにね。
城野は悪い人間ではないけれど人との接し方や距離の取り方がうまくなく、損をしてしまうタイプです。
そして恐ろしいのはこうやって人の証言だけで表れた像で、完璧におかしい人としての演出をテレビでされてしまうということ。
その後、地元で集めた情報も、城野の別の一面が見えたのに結局は彼女が危ない人で犯人に見えるように編集していてとても怖いです。
実際、犯人ではないことがわかったとしても、ここまで噂を流されたらもう人生が終わったようなもので、謝ってもらったって許してもらえるようなものではないと思います。
このことに怒りを燃やさず前向きに生きている城野は偉いと思いました。
自分が傍観者になった時に正しく真偽を判断できるかといえばその自信はないです。自分が加害者になってしまうかもしれない恐怖もこの作品にはあります。
地元で情報を集めている時、回想で出てきた教師のいやらしさ。湊かなえさんは学校や教師に何か嫌な思い出があるに違いない(笑)。
途中、ずっと胸糞の悪くなる展開が続いて気持ちがずーんとなっていましたが、最後は真犯人がつかまってよかったです。
とかく人の悪意にあてられて精神が不安定になる話でしたが、最後に小学時代の親友と気持ちが通じ合うところで救われました。
湊かなえさんの作品は救いがない部分も多いですが、その中に少しだけ人間の綺麗な部分が光るのがいいです。
目に見えるものだけが本当じゃないし、口で語ることだけが真実じゃない。
でも、城野のがんばりも、被害者の嫌な部分も、見ている人は見てちゃんとわかっているんですよね。
そこが案外捨てたもんじゃないなと思いました。
……とまあ、ここまで書きましたが、最後の城野の独白も、彼女の遺書という形で、どこまで事実かわからない、というところがこの物語の怖いところかなと思います。
余談ですが、城野も可哀想だけど、何の罪もないのに階段から転がり落ちた音楽家が一番可哀想な気がします。音楽家、転ばされ損(笑)。
殺人とまではいかずとも、城野も完璧な善人ではないところが、リアルでいいなと思います。
※上の方で「ここまで噂を流されたらもう人生が終わったようなもの」と書いていますが、大丈夫です。城野ほどの規模じゃないにしろデマ流された知人も私もぴんぴん活動しています。
人の噂も七十五日は本当です。
なかなか人生終わったりしません。
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