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天ク美オタクは霞が関の夢を見るか 官庁訪問体験記③

今回で最終回です。前回も言った通り、第3クール以降は『ウイニングラン』の感が強く、基本的に第3クールおよび第4クールとも1省庁のみしか回らないことが多いため、今回は両クール一気に体験記を書かせていただこうと思っています。


第3クール

さて、第3クールについてだが、前回も言ったように(2024年度は)第2クール3日目と第3クール1日目が連続しているため、インターバルを置かずに4日連続で訪問することになる。

特に私は第2クールでA省とB省の2省から第3クール訪問の誘いをもらっていたので、第2クール3日目が終わってからの僅かな時間でどちらの省庁を第3クール1日目に訪問するか決めなければならなかった。基本的に第3クール1日目に訪問=そこで内々定を受けるつもり、という意思表示になるので、事実上就職先を決めるといってもいい決断である。

幸いにもC庁の官庁訪問が16時半頃に終わったこともあって、その日の夜は丸々省庁選択のために使うことが出来た。

A省か、B省か。元々A省を第一志望として訪問しており、国家公務員を志した原点にもA省の存在があった以上選択の余地はないように思えたが、いざその時になると踏ん切りがつかないものである。

原点があり自分の実現したいことに直接向き合えるA省か、やや迂遠なアプローチにはなるがより幅広く様々な課題に向き合えるB省か。職員の方の雰囲気や政治との関わり方というのも考慮に入れるべき重要なポイントになる。

同じように複数省庁から第3クールの誘いを受けていた友人と電話したりするなどしているとあっという間に時間は過ぎ去り、気づけば時刻は12時を回ろうかというところであった。

B省の職員の方に言われた『最後は自分の心に正直に』という言葉の通り、一度友人との電話を切り、改めて30分ほど静かに自分の考えをまとめた。その上で、私は自分の原点を大事にしていきたいと考え、A省へ向かう覚悟を決めた

1日目 A省

3回目の訪問。庁舎に入る前にもう一度だけ自分の心にこの選択で後悔しないか問いかけた。2分ほど考え、やはり自分の実現したい未来や解決したい課題はA省にあると結論づけ、私は庁舎の中へと入って行った。

やはり第3クールということもあって面接は少なく
入口面談→原課面接→人事面接→出口面談
という感じ。原課面接自体もそれまでよりも時間は短かった。

面接以外の待合室での時間も、それまでのようにピリピリした雰囲気ではなく、和気藹々とした雰囲気で将来の同期との交流を深める時間として過ごしていた。但し、集合場所として指定された部屋に途中から何人か別の部屋にいたらしき訪問者が合流していたことは付記しておきたい。

・入口面談:係長(人事担当)
集合してすぐに呼び出され、入口面談へ。いつものように採用担当の方が部屋に待っており、席を勧められる。着席するなり、こう切り出された。

「A省を選んでいただき、本当に嬉しく思っている。今日一日は周囲の人たちとの交流を深めるであったり、働くにあたっての疑問点を解消するための一日として使って欲しい」

要するに実質的に官庁訪問はここで“上がり”ということなのだろう、と瞬時に察した。なぜA省を“選んだ”ことが分かったのかはさておいて。

・原課面接:係員
原課面接ではこれまでとは違って比較的若手の方を当ててもらい、これまでの2クールであったような業務説明や政策議論といった形式とは少し離れて、どちらかというとこちらからの質問に職員の方が答えるといった趣旨の面接であった。

なので、政策の話とか業務の話というよりも、東京で暮らすにあたって家をどうすればいいか、労働環境はどんな感じか、あるいはキャリアプランはどのように設計していくかという話が中心となっていた。そういう意味でも、年次を重ねた方よりも比較的私たち訪問生に年齢が近い若手職員の方が当てられたのだろうと感じた。

・人事面接:課長
官庁訪問の(実質的に)最後の面接となる人事面接は人事課長が担当。これは採用面接と言うよりも『最終確認』、いわゆるネガティブチェックであった。志望動機や志望度を改めて確認し、入省の意思があるかどうかを見極めるという趣旨の面接である。

……なのだが、志望動機などの質問は3分程度で終わり、30分の面接時間の内残りの25分はただ趣味の話や(私が地方在住だったためか)東京生活の極意、あと課長の失敗談(結構ヤバめのやらかしだった)といった雑談の時間となっていた。内心ではここで評価が変わることがないであろうということは分かってても、相手が相手だけに雑談中もずっと肝が冷えっぱなしであった。

・出口面談:企画官(採用担当)
第3クールの出口面談は企画官が担当。といっても大した内容ではなく、第4クールの案内をされただけだった。退室する時に、『本当に今までお疲れ様』と声をかけられた。

第4クール

第4クールは本当に何もなかった。今年は第3クール2日目に新規訪問者を募集するという禁じ手に出た某庁が話題に上がっていたが、そういうレアケースでもない限り第4クールは“儀礼的な”役割を果たしているにすぎないことが多いのである。

そのために(今年は第4クールが月曜日にあったため)わざわざ土日を挟んで東京滞在を延ばしている身からすれば少し言いたいこともあるのだが。

1日目 A省

というわけで、集合時間すら今までより大幅に遅い(なんと午後に集合するように言われた)第4クールである。

庁舎に入ってからしたことと言えば同期と話すかお世話係の職員の方と雑談するか、あるいはお偉いさんがやってきて全体説明会のようなものを受けた記憶しかない。

夢の終着点
時間が経つのは早いもので、あっという間に時計の針は16時を周り、内々定解禁の時刻である17時に刻々と迫りつつあった。

私も含めて訪問者がいよいよかとソワソワする中、職員の方から『今から言われた通りに並んでください』と言われた。その通りに整列した私たちは待合室を出てある部屋の前まで向かい、そこでしばらく待った。

時計の針が17時を指した瞬間、一人ずつ部屋の中へと入るように指示が飛んだ。前に並ぶ同期が入っては満面の笑みで出てくることを十数回繰り返した後に、とうとう私の番がやってくる。

「失礼します、○○です」
「どうぞ」

入ると、人事課長を筆頭に人事課の採用担当の職員が勢揃いしていた。部屋の真ん中まで私が進んだのと同時に、全員から拍手が送られる

○○さん、A省はあなたを歓迎します。内々定です、これまで本当にお疲れ様でした

夢が夢ではなくなった瞬間であった。

官庁訪問を振り返って

さて、官庁訪問体験記は以上となる。ここからは蛇足かもしれないが、自分がこの官庁訪問を体験しての感想などを綴っていきたいと思う。

良かったこと

①非日常を過ごす経験
これは私が地方学生だからというのもあるが、官庁訪問というイベントそのものに加えて東京で2週間を過ごすというのは強烈な非日常体験になる。

前述した赤坂離宮でのアフタヌーンティーのようなグルメ(?)の他にも、東京の“文化資本”を休日に満喫したり、あるいは少し足を伸ばして関東他県を旅するなど関東に長期滞在するからこそできたことというのは多くあったように思う(当然それに見合うだけの代償は払ったわけだが)。

そもそも2週間もホテルで暮らすというのは逃亡犯でもない限り中々しない経験なのでそう言った意味では唯一無二の経験だらけだったとも言えよう。

②極めて有用な知識・知見を獲得できる
他の官庁訪問体験記を綴っていた方もこれを言っている人は多いが、官庁訪問ではひたすらに様々な知識・知見を得る機会に恵まれたと思う。

それは政策に関するものが多いのは言うまでもないが、例えば人間としての生き方や異文化理解といった幅広い範囲にも及び、官庁訪問前に比べて大きく成長することができたと思っている。

特に、体験記の中に書いたが中央省庁の課長級職員なんてものは普通一介の学生ごときのために執務時間を削って応対なんてしてくれない。そんな人々に対して自分の思いの丈をぶつけて、それに対して真摯に向き合ってもらえるというのは中々体験できない貴重な経験であると思う。

③自分の価値観のアップデートができる
官庁訪問中は必ずしも官庁職員だけ話すわけでもなく、当然自分と同じ立場の周りの学生とも多く話す機会が設けられる。

普段大学を中心とした自己と比較的同質な人間としか関わることがない身にとって、普段あまり接しないような多様な人たちと(政策などの分野に限らない)多く話し、自分の中に持っていたものとは違う価値観に触れる機会も多かったと思う。

が、良かったことの欄に書いておいてこんなことを言うのはおかしいかもしれないが、この“多様性”というのは少なくとも国家総合職試験に合格し官庁訪問に辿り着いた人間しかその場にいないという条件があり、いわば温室の中の多様性にすぎないのかもしれない。

良くないこと

①金がかかる(地方勢は特に)
これは本当にどうにかして欲しいものだがこの官庁訪問、官庁側の費用負担は一切ない。つまり、上京するための交通費やら滞在のための宿泊費やら滞在中の食費やらは全て自費である。

私の例を出すと

交通費:約3万円(関西↔︎東京)
宿泊費:約9万円(ビジネスホテル宿泊)
食費等:約3万円(外食等を除く)


と合計15万円もの費用がかかっている(もっと言えば当然この期間はアルバイト等は一切できないのでその機会費用も含めればより高くなる)。しかも私は内々定を獲得できたためまだいいのだが、冒頭に言った通りこの官庁訪問では7割近くが内々定を獲得できない

どうしても訪問学生は関東近郊に偏る以上単純な割合で語ることはできないが、少なくない数がこの規模の金額を費やして、手ぶらで故郷へと帰ることを余儀なくされるのである。十数万をフイにしてはい分かりましたと言える心の広い人間はそう多くない。

人事を始めとする関係当局がこの著しく地方学生の訪問を阻害しかねない状況を改善することを願いたい。

②オンライン化が進んでいない
何かとオンラインでの会議ツールの活用が叫ばれる昨今、就職活動にもその波は及んでいる。民間就活では最終面接まで全てオンラインで済ませるというのは珍しい話ではなくなっている。

官公庁においても、一部の省庁を除いて説明会などのオンライン移行は進んでおり、私のような地方学生がこれらの採用イベントにアクセスすることは以前に比べて格段に容易になった。

一方、肝心の官庁訪問本番でオンライン化が進んでいるかというと、率直に言ってほとんど進んでないに等しいと言っても過言ではないと思う。確かにルール上は各省庁第1クールをオンライン・対面併用での実施が義務付けられており、実際に第1クールオンライン参加して内々定を獲得している人間も知ってはいる。

しかし、これまで何度も言っている通り官庁訪問において私たちは疑心暗鬼にならざるを得ない。そしてその思考に基づけば、第1クールオンライン参加というのは『いい選択肢ではない』のではという疑念が生じるのである。

以前Xで誰かが経済学におけるナッシュ均衡とパレート最適に準えていたが、まさにその通りである。全員がオンラインで参加すれば全員にとって『オンライン参加』が最適な選択肢になるが、対面参加の道を残すことでより魅力的(に見える)な『対面参加』という選択肢が出現することになり、オンライン参加者は不利な立場に陥るのではないかという疑念を払拭できないのである。

官庁訪問の全面的なオンライン化は難しい部分もあると思うが、少なくとも第1クールの全面オンライン化がなされるだけでも特に地方学生にとっては相応の負担軽減になるのではないかと思慮する。

③拘束時間(期間)が長い
ここまでの体験記を読まれた方なら重々承知のことではあるとは思うが、この官庁訪問、2週間という期間の長さに加えてそれぞれの訪問においてもかなりのハードスケジュールで進行していく。最近は昔よりも格段に改善されたとは職員の方の言だが、18時を回るのはともかく21時とかになるのはちょっと一般的に見れば相当長い拘束時間と言われても仕方がないと思う。

これは恐らく就職後の(業務の性質上避けられない)ハードな労働環境に適合できるかというストレスチェックも兼ねているのだろうし、私のような人種はそれだけ長く学べてお得!みたいな思考をしているのでまだいいのだが。そうではない人間も訪問しているのであり、訪問生の体調のためにもできるだけ早く帰宅できるようなスケジュール設計をしていただきたいと思っている。

まとめ

良くないことの方が圧倒的に分量が多くなってしまったが、これは官庁訪問の制度設計上の問題が大きい。個別項では書かなかったが、(第4クール17時まで内々定を含めた文言の使用が禁止されているという背景があるとはいえ)不明瞭な評価システムなどにも問題がないわけではないと思う。

そもそもこれが就職活動であるということが前提なので仕方ない部分も多いかもしれないが、こういった制度設計上の問題を除けば官庁訪問というのは我々大学生にとっても有益な点も多い取組であると私は考えている。

当然、ここで得た知識や知見を無思考で受け入れるのではなく、批判的な視座に立つことも必要である。その取捨選択も含めて我々に求められる能力であるのは間違いない。

少なくとも私は、(内々定を獲得できたからという前提があるのは重々承知した上で)官庁訪問を含めた国家公務員総合職試験に挑んだことは、人生において間違えた選択ではなかったと胸を張って言いたいと思う。

最後に

官庁訪問体験記①から、あるいはそれ以前の教養区分受験体験記から数えてもかなり長い記事になってしまいましたが、こうして無事に全てを書き切ることが出来ました。

教養区分体験記の時に書いた通り、私にとって官僚になるというのは大学に入る前からの夢であって、その夢を追いかけて大学生活を過ごしてきたと言っても過言ではありません。当然、これまでにそれを追うために多くの時間やお金を費やしてきましたし、苦しい時期がなかったと言えば嘘になります。

しかし、ある種人生の幾ばくかを掛けた夢への努力がこうして実ったことは凄く嬉しく思っています。当然、これはゴールではないですし、むしろこれからはスタートとして認識するべきであろうと理解しております。

夢として憧れることを許されていた時間はもうすぐ終わりを迎え、来年以降は中央官庁の職員として公務に従事していくことになると思います。今の日本には多くの課題があるとは思いますが、後世から『あの四半世紀が、日本にとって最悪の時代であった』と回顧されるような未来を実現できるように、微力ながら尽くしていきたいと考えております。

最後になりましたが、拙く要領を得ない文章であるにも拘らずここまで読んでいただいた読者の皆様に深く御礼を申し上げます。それと共に、国家公務員総合職試験あるいは官庁訪問を控えている読者の方にとって、少しでも役に立つものになったのであれば、著者冥利に尽きる思いであります。改めて、ここまでお読みいただいて、本当にありがとうございました。


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