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天ク美オタクは霞が関の夢を見るか 官庁訪問体験記②
というわけで第2部です。今回は官庁訪問の天王山、ここでどれだけいいパフォーマンスを出せるかどうかでその成否が決まると言っても過言ではない大一番の第2クールについて、前回同様体験記を綴っていこうと思います。
第2クール
第2クールは、第1クール同様最大3省庁に訪問(ここで省庁やその訪問順を変更することは出来ない)するため、基本的な流れ自体は第1クールと全く同じである。
さて、第2クールは多くの場合官庁訪問の山場、大一番であると言われる。(省庁にもよるが)第3クール以降はどちらかと言うと『知見を広める』や『将来の同期との交流を深める』といった意味合いが強く、いわばウイニングランである場合が多いからである。
そのため、官庁訪問では『第3クール1日目に来てください』という文言を得ることが出来るかがある種の内々定へのバロメーターとして扱われている。
それを踏まえた上で、私の第2クールの体験を読んでいただけるとありがたい。
1日目 A省
土日に遊び倒したこともあり、体力も戻ってきたところで第2クール1日目を迎え、再びA省へと訪問。そろそろ霞が関にも慣れ、省に入る前に十数分散歩する程度には余裕が出てきた。
この日の流れはざっくり言うと
入口面談→原課面接①→人事面接①→原課面接②→原課面接③→人事面接②→出口面談
といった感じ。原課面接の時間が長かったのもありかなりハードな1日だった。
・入口面談:係長(採用担当)
第1クールと同じ人。休日はどう過ごしていたかという雑談をした後に、「第1クール、全体を振り返ってどうだったか」という趣旨の質問をされる。
要するに「他省庁を回って志望度が変わったりしたか?」という、『心変わりの確認』である。当然ここで、「他省庁を見て迷ってます」とバカ正直に告げる人間はいないだろうが、それでもあちらの疑念を解すべくうまく回答を返さないといけない。
「B省、C庁共に魅力的な省庁であるのは間違いないが、2省庁を回ってから改めて自分がどの省庁で働きたいか、何を実現したいかを考えた時に、やはり私はA省にその答えがあると引き続き考えています」と返答すると、職員は満足そうに頷いていた。すいません土日は紅茶啜ってホテルで遊び倒してました……
その後は第1クール同様、原課で聞きたい分野の確認があったのみで、15分ほどで入口面談は終了。
・原課面接①:企画官
第2クール1回目の原課面接は地方出向や海外赴任などを経験されてきた方との面接で、特定の分野のお話を聞くというよりも入省後のキャリアを考える機会にしてほしいという意図を感じた。
まず初めに海外における日本の見られ方(西側諸国としての立ち位置、アメリカとも中国とも違う独特の対日感情を持つ国々のことなど)を伺い、若くして専門分野のアタッシェとして海外へ赴任することの魅力を語っていただいた。
その後、地方出向に関して『中央の国家公務員が縁も所縁もない自治体へ行くこと』の難しさを教えていただいた。基本的に国家公務員は親の介護等の理由を除いて出身地などへ赴任することは殆どないため、必然的に赴任先には知り合いが誰もいないということがザラに発生する。そして往々にして総合職職員は管理職として赴任するため、職場のイロハも分からない状態で部下の管理や議会対応といった様々な仕事に忙殺されることになる。こういった困難を抱えながらも、中央で磨いたスキルを活かして自治体で活躍していくことが求められるというお話も伺った。
元々海外赴任や地方出向については興味を持っていたので、どちらの話も非常に興味深く聞かせてもらった。(途中でいくつか質問をさせていただいたとはいえ)一方的に説明を聞く原課面接はこれが初めてだった。
・人事面接①:企画官(採用担当)
昼食休憩を挟んで人事面接。と言っても殆ど雑談のようなもので、改めて第1クールで回った他省庁の感想や志望度に変化があるかどうかについて問われた程度だった。
・原課面接②:企画官
第1クールで訪れた課に再び訪問。分野自体は同じだったが、今回は企画官面接ということもあり、より課全体での業務についての話を聞かせていただいた。
課が持っている分野における国際的な状況の話を伺い、アメリカや中国、欧州といった多様なアクターが存在する中で、日本がどう立ち回るべきという点について政策議論を行った。前回の企画官面接で日本に対し『西側諸国』や『先進国』といったカテゴライズを超えた独特の感情を持つ国々は少なくないという学びを踏まえて意見を述べたところ、好感触だった。
・原課面接③:課長
第1クールと同じく、1日の終わりは課長面接で締めくくられる。今回はいわゆる総括課、その部局内で取りまとめを担当する課の課長に応対してもらった。
その部局自体も省の政策をまとめているようなものだったので、省全体の施策の方向性や人口減少を始めとする日本の諸課題が急速に深刻化していくであろうこれからの数十年で求められる行政機関の在り方の変化といった、(第1クールでの課長面接とはまた違った)大きなスケールのお話を多く伺った。面接の後半では省として行政外の組織との関わりが少ないと思われている中での民間、あるいは大学を始めとする教育組織との連携を拡大していく必要性について政策議論を行った。
自身が民間企業と大学組織が連携した産学連携下での研究プログラムに参加した経験などを例に出しながら、産学連携に官が入ることのメリットデメリットを比較衡量しつつもメリットだけを見た楽観論、あるいはデメリットだけを強調する悲観論に陥らないように気を付けて議論を進めていった。
流石にここまで政策議論を何度もしてきたこともあってか体力もそれなりについており、第1クールの時はついていくのに必死になるばかりだったが、この面接ではしっかり相手から学びを吸収しつつ自分の意見をしっかり伝えていくことを両立させることも出来るようになっていた。
政策議論を終えてから人生相談のような感じで話をしていたらいつの間にか2時間以上が経っており、(原課の職員の方が)『すいません、そろそろ戻っていただかないと……』と課長を呼びに来るという珍イベント(?)が発生。面接室で15分程度待ちぼうけ(当然独りぼっち)を食らってから待合室へと呼び戻され、最後の原課面接が終了。
・人事面接②:企画官(採用担当)
再び採用担当の企画官と再び面接。2クール目を通じてどのようなことを学んだかについて一通り聞かれた後、高く評価していることを告げられ、最後に「弊省で働くイメージはついたか?」という質問をされた。
流石に「はい」と断言することは出来なかったが、「多くの職員の方と面談させていただいて、省としての雰囲気や職員の方が自分があっているとは感じている。まだ最終的な判断は出来ないが、非常に志望度は高くなっている」と若干逃げつつも肯定のジェスチャーを出した。
・出口面談:係長(採用担当)
時刻は21時を回り、まさかの夕飯抜きという拷問に耐えながら『終電を書かされた記憶はなかったんだが』など考えていると「出口面談です」と呼び出された。もはや見知った顔となった職員の方が対応して下さり、第1クールと同じように評価の伝達がされる。
「本当にお疲れ様。第1クールでもお伝えしたように、引き続き省として○○さんのことは極めて高く評価している。省として迎え入れる準備はできている、是非とも第3クールに来て欲しい」
これまでのパフォーマンスから評価が下がることはないだろうと思っていたが、ここまで言われると人間面映い気持ちになるものである。再び「待ってる」と言われてから握手をされ出口面談は終了。
・その後
官庁訪問中に仲良くなった訪問者と待ち合わせており、庁舎出口で合流すると彼も似たり寄ったりの評価をもらったようで、積もる話もあるだろうからと言うことで霞が関を歩くことに。
将来の話、進路選択の話、これまでの思い、何を実現したいのか……不夜城と化した霞が関を歩きながら1時間近く自分の思いを吐露したことは今思い返せば貴重な経験だったのかもしれない。
近くのラーメン屋に入り、『明日以降どうするか』という話をした。彼は『ここで働くことを決めた。明日以降は辞退する』と覚悟を決めており、そんな彼の覚悟が眩しかった。
結局この日、ホテルに帰った時、時計の針は0時を回っていた。
2日目 B省
1日目でほぼ勝利を確信したこともあってか、ぐっすりと(4時間)眠り、いつも通り5時に起床。この日はちょっと集合時間が遅かったのもあって早めにホテルを出て、カフェで出勤するサラリーマンを眺めながら優雅に一杯を決める余裕もあり、ツヤツヤの顔で庁舎へと向かった。
一方で3省庁の中で一番厳しい勝負になるのがこのB省なのは明確なので、気を抜きすぎないようにコーヒー(2杯目)を飲んで気持ちを引き締め、第2クール2日目がスタート。
この日の流れも第1クールとほとんど変わらず
メンター面談→入口面談→人事面接①→原課面接①→原課面接②→人事面接②→出口面談
といった感じ。
・メンター面談:係員
メンターは第1クールと同じ人であり、当然第1クールにおける私の評価も伝わっていたためか、「ここが勝負どころだと思います。頑張ってください」という言葉をかけられた。
・入口面談:係長(採用担当)
メンター面談で聞き取られた内容の確認と他省庁を巡ったことに関する質問がいくつかあったのみで終了。正直この省のメンター面談と入口面談は統合した方が良いと思う。
・人事面接①:課長補佐
入口面談からおおよそ1時間ほどしてから呼び出され、プラスチック版で区切られた会議室に設けられたブースで1回目の人事面接が開始。担当して下さるのは因縁の相手である、第1クールと同じ課長補佐。座って軽く話をし、5分ほど経った後に課長補佐の目が一気に変わり、それまでとはまるで違う声色でこう告げられた。
「ではここから面接を始めます。第1クールで志望動機については伺いましたが、休日を経てどう〇〇さんの志望動機が変わったのか、弊省でやりたいことが変わったのかについて詳しくお聞きしたいと思います」
この質問にどう答えられるかで、B省の評価は決まると言っても過言ではないだろう。5秒ほどの沈黙の後に、志望動機と実現したい未来について自分の言葉で精一杯語った。第1クール時点では自分の理想像を過度に追求しすぎていたことへの反省及びB省での原課面接を経てより現実的な視点を得られたこと、第1クールでは話しきれなかった自分の原体験と実現したい未来への繋がり、省のミッションを達成するために自分が貢献できる部分は何か。
一気に話したせいか、話し終わってから少しむせてしまった。課長補佐は十数秒ほど目を閉じながら何かを考えている様子だったが、しばらくして数回頷き、「しっかり考えられたようですね。その調子で今日の官庁訪問を頑張っていただきたいと思います」と私に告げた。
取り敢えず少なくとも及第点の回答を返すことが出来たことに心底安堵し、面接室を退室する。今から考えると、恐らく官庁訪問の中で最も緊張した面接だったように思う。
・原課面接①:課長補佐
人事面接を終えた後は原課面接。1回目はB省の中ではあまり興味のなかった部局の職員の方を当ててもらった。第1クールのC庁で興味のない分野にノータッチだったせいで危うく大失態を侵すところだったことを鑑みてある程度白書を斜め読みしていたことが功を奏し、業務説明の内容もしっかり頭に入ってきたし逆質問もしっかり出てきた。
この職員の方とはかなり官庁訪問そのものについての話をしていたことを覚えている。その方も官庁訪問での省庁選択でかなり迷われていた方で、何と霞が関駅のどの出口から出るかというレベルで悩まれたそう。自身の経験を踏まえた省庁選択の軸についての話を多く伺った後、最後退室する前に「色々言ったけど、私を含めた人に何か言われたからというのではなく、自分の心に正直に省庁を決めて欲しい。それがB省でなくても、〇〇さんにとって最善の選択をしてくれると嬉しい」と温かい言葉をかけていただいたのがとてもありがたかった。
・原課面接②:企画官
昼食休憩を挟んで2回連続で原課面接。第1クールで回ったのと同じ部局の別の課の人を当ててもらった。
ここでは非常に面白い話を多く聞けたのだが、どう書いても省庁の特定に繋がりそうなのでやりとりについては全面カットで……
・人事面接②:企画官(採用担当)
2回目の人事面接。恐らくこの人物に会うことが一種の関門であろう採用責任者の企画官との面接をセッティングされた。
面接の内容自体は普通の人事面接といった感じだった(大学で研究していることについて10分プレゼンしてと言われた時はいきなりすぎて変な声が出た)が、最後にこんな質問をされた。
「これから恐らく〇〇さんは弊省を含めて働く省庁を選択していくことになると思うが、どういった軸を以て省庁選択をしていくつもりか?」
もう既に5日間も官庁訪問をこなしてきて、正直な話官庁訪問前に考えていた『国家公務員になりたい理由』というものはかなり変容してきていることを実感していた。まさにB省はその典型的な例だろう。しかし、全てが変わったわけではなく、むしろ変わったものがあるからこそ変わらないものがより鮮明になったというのもまた事実であった。
しばらく考えた後に「国家公務員を志した時から変わらない、自分が実現したい未来に対して最も自分が貢献できるかという軸で決めていきたい」と伝えた。
・出口面談:係長
第1クールと殆ど変わらない時間に出口面談に呼び出された。こういうきっちりとした時間管理(原課面接、人事面接の間の時間もほとんど一定だった)も省庁の個性なのだろうか?今回は採用担当をしている職員の方が担当して下さり、これまで通り評価を伝えられる。
「第1クールでは厳しいことをかなり言ったが、第2クールで〇〇さんがそれを踏まえて考え方や政策議論の仕方を成長させているところをしっかり見させてもらった。〇〇さん自身の能力や人柄自体に対する高い評価は弊省としては変わらない。A省と弊省、どちらが実現したい未来に貢献できるかをしっかりと考えて、その上でベストな選択をしていただきたいと思っている。第3クール1日目、待っている」という予想以上の高評価を伝えられた。
志望動機とそれに繋がる原体験の伝え方を変えたことで理解を得られたという手ごたえはあったものの、そこまで上方修正されるような成果を上げた記憶はあまりなかったので正直かなり狼狽えた。今から思うと、(2日目、3日目訪問者にはかなりあることなのだが)第1クールで『高く評価』されていた訪問者が辞退して採用枠に空きが出たから、私が『補欠』から繰り上がったのかもしれない。
ともかく、予想以上の高評価と(第2クールと第3クールが休日なしで繋がっている関係上)かなり短い時間で人生で最も大きな決定と言っても過言ではない選択を強いられてることにかなりのプレッシャーを感じつつ、この日はホテルに直帰したのであった。
3日目 C庁
官庁訪問も後半戦を迎えた第2クール3日目。この日の朝も5時に起きたのだが、とてもとても迷ったことを覚えている。というのも、官庁訪問は何度も言うように2週間に渡る長丁場。私はまだ訪問者の中では健全な官庁訪問ライフを送っていたと信じているが、それでも地味に溜まっていく精神的なストレスや体力の消耗は意外なところで牙を剥く。
そのためにも、A省とB省からいい声をかけてもらっている以上この日は休んで、体力の涵養に努めるべきではないかという考えが浮かんだのだ。正直な話、2時間半くらい迷い続け、一度はC庁の電話番号を打ち込んで辞退の電話するかどうかというところまで行った。
しかし、最終的に私はホテルを出て霞が関へと向かった。脳裏には、第1クールで同じテーブルにいた人たちや、その他の帰ってこなかった人たちの顔があった。前回も言った通りC庁は3クール目10分の1にまで訪問者を絞り込んだのである。そんな中で、残された私がその権利を放棄するのは、その権利を求めて叶わなかった人たちのことを思うとしのびない。そう考え、私は庁舎へと入っていった。
ここも第1クールよりも簡略で
入口面談→原課面接→人事面接→出口面談
といった感じ。そもそも第1クールで3人まで絞られているため、非常に速い回転だった。
・入口面談:係長(人事担当)
僅か3人しかいない待合室でいきなり1時間ほど待たされた後、スタート。
「迷いもあるかもしれないが、この第2クールでしっかりと見極めて欲しい」と告げられた後、いつものように志望分野の聞き取りと志望動機の変化の確認だけされ、入口面談は終了。
心の中を見透かされたようで少しドキッとした。義務感でやってきてしまったが、来た以上は真摯に官庁訪問に向き合わなければならない。そう心を引き締め、面接室から退出した。
・原課面接:課長
再び1時間半ほどの待ち時間を経て、原課面接に呼ばれる。この日唯一の原課面接は、課長が当てられていた。
奇しくも第1クールA省での課長面接と流れはほとんど同じで、ここでもいきなり政策議論を吹っ掛けられる。テーマは『これからの日本のデザインについて』というもので、恐らくC庁の所管とはかなり離れているので少し困惑した。
人口減少社会が刻一刻と迫っていく中で、現在の日本が成長し続ける前提で設計されている状況と矛盾する場面はこれから増えていく。その中で、行政官として、あるいは行政組織としてどう対応していくべきかというのが議論の主題であった。せっかく議題がC庁の所管から離れているからということで他の省庁の所掌分野であろう施策も絡めながら提案をしていくと、課長から『非常にいい着眼点を持っている』と評価していただいた。1時間ほどで政策議論は終わり、残りの30分は課長のキャリア(なんと中途採用で入庁された人だそう)を聞きながら、将来のビジョンについての相談に乗ってもらう時間になった。
A省でもそうだったが、20年以上行政官としてキャリアを積んでいる人に自分の考えだけではなく人生設計について相談できる機会なんてものは殆どない。なので、こうした機会に都合3回も巡り合えたことは官庁訪問の結果を別として非常に幸運だったなと感じている。
・人事面接:企画官(採用担当)
特筆することは特になし。志望度と志望動機を細かく詰められた他はいわゆるガクチカについて詳しく聞かれた程度。
・出口面談:係長(採用担当)
なんと16時を少し回るくらいの時間に出口面談に呼び出された。この時点で待合室には誰もいなかった。個室に通され、採用担当の人事課職員と一対一で向き合う。私が座るなり、彼は口を開く。
「第1クールに引き続き、高く評価しています。第2クールでも重要なプロセスを踏んでもらい、当庁の職員としての適性を十分に見出しています。それを踏まえて……第3クール1日目に来てもらえますか?」
先の2省は『待っている』というスタンスだったのに対して、ここはこの場での判断を求めてきた。一定数こういった省庁は存在する。持ち帰って検討されるのを防止するために、その場での決断を求めてくるワケだ。特に3日目に訪問している以上、志望度を疑ってくるのは仕方ない。
「3分だけ下さい」と要望を出し、しばらく考えた。C庁の業務は魅力的だし、働いている人達の空気も悪くないと感じてきた。一方で、B省で言われたような『自分が実現したい未来』を考えた際に、些かC庁のやっていることは迂遠だと感じたのも事実である。これは省庁の業務の貴賤ではなく、その求められる役割の違いであり、それを加味した時にC庁に行くという覚悟を決めることは、私にはできなかった。そもそも心を決めるのに原課面接と人事面接1回ずつは少なすぎる。
「今ここで確約することは出来ません、もう少しだけ考えさせてください」。そう伝えると、数回頷いた後、採用担当は「分かりました。〇〇さんを第3クールにお呼びする場合、後ほど電話にてお伝えします」と答えた。要するに、そういうことである。
結局、C庁からの電話が来ることはなかった。この判断について、私は後悔していない。
番外編 官庁訪問の『うわさ』
さて、第2クールと第3クールは連続して行われる(志望者の体力のことなどお構いなしである)ため、2クール目後には休日がない。その為前回のように休日の過ごし方コーナーはないのだが、何も書かずに記事を終えるのも少し寂しいので、今回はよく『官庁訪問あるある』的な文脈で語られる『噂話』の真偽を、私の体験ベースで話していこうと思う(ただここも赤裸々に書きすぎると怒られる可能性もあるので、ありのままを全て話すことはできないことをご了承いただきたい。)。
①『全て荷物を持ってお越しください』
このnoteの先行研究(?)とも言える名記事、『バトル・オブ・カスミガセキ』においても描かれていた、訪問者に対して職員が『全て荷物を持ってお越しください』と告げ、そのまま呼び出された訪問者は帰らなかった……というワンシーン。
この記事に限らず、この文句は『お前を殺す』という意味みたいな話をよく聞くし、私も直前期に読んで戦々恐々としたものである。
前置きはこれくらいにして、実際私が体験してどうだったのかと言うと……
正直に言うと、全くそんなことはなかった。確かにこの文言と共に呼び出されることはあったが、そもそも入口面談からこの文言だった省庁もあるし、全部の呼び出しがこれだった省庁もある。そこまでビビる必要はないと思う。
私が訪問したのはたったの3省庁だけで、私が回らなかった省庁でそういう不文律がある可能性までは否めないが、少なくとも官庁訪問におけるコモンセンスとしてこういう事実があるわけではないということを書いておく。
②『一軍部屋』とか『二軍部屋』がある
これまた偉大なるバトルオブ(以下略)で描写されていた、一軍(=採用選考が順調に進んでいる人たち、採用の本丸)と二軍(=一軍以外の人たち)が存在し、部屋も分かれているというヤツ。省庁(というか省庁が入ってる合同庁舎等)には冗談抜きで部屋が数百個存在するので、空いているスペースは無限に使えそうである。
これについても、私の経験から真偽を判定すると……
あるところはある、という曖昧な返答になってしまう。実際私が回ったA省・B省・C庁であったかというとあまり分からないというのが正直なところで、なぜかというと私は第1クールから第4クールまで基本的に待合室が変わることがなかった(但し3日目のC庁は1クール目と2クール目の集合場所が違った)ので、自分の部屋が仮に一軍部屋だったとしてもそれを知る術がないのである(結果的に内々定を頂いているので、"そういうこと"なのかもしれないが)。
ただ一方で友人からは『四軍部屋まであった』という省庁の話を聞いたりした(そこまで分ける意味ある?)ので、この噂が完全に嘘であると否定することはできない。
③囲い込み
まぁ、これ読んで(かつ官庁訪問を控えて)いる皆さんにとって最大の関心はこれなんじゃないだろうか。『囲い込み』、要するに官庁訪問前の段階で説明会やインターンシップ、ワークショップなどの場で学生に対して事実上の選考を行い、言わば『青田買い』しておくことである。
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予め言っておくと、人事院はこの手の行為を厳に禁じている。官庁訪問のルールとして『官庁訪問開始前までは、面接等の選考活動は一切行わない』と書かれており、このルールに則れば囲い込みなど以ての他である。
が、正直な話これを含めた官庁訪問ルールは形骸化していると言っても過言ではない。この画像には載ってないが官庁訪問の時間についてのルールとかもあり、そこには『訪問者を原則午後8時までに帰すこと、午後10時以降まで続けるのは禁止』と書かれている。
だが、私が第2クール1日目に21時過ぎになってから出口面談をやったように、20時の壁は割と各省庁ないものと扱ってるフシがある。他省庁の話になるが23時半になってようやく帰されたという話もあり、まぁ罰則規定もないのでこのルールは半ば『守れたら守る』的なものになってることは否めない。
話を戻そう。では人事院ルールが形骸化してしまっている状況の中で、各省庁囲い込みを好き放題やってるかというと、(これまでの話の流れをぶった斬るようで申し訳ないが)そこまでひどい状況にあるとは思わない。少し長くなるが詳しく説明していこう。
大前提として一つ言えるのは、官庁訪問以前、すなわち説明会やらインターンシップやらワークショップやらでの学生のパフォーマンスと官庁訪問本番での評価が完全に無関係であることはほぼほぼあり得ないということである。
そもそも採用担当を始めとした各省庁の人事課職員も人間であって、面識がある人間を完全にまっさらな状態でジャッジするというのは不可能に近い。いつの日か、AIが官庁訪問に対応する時代になれば話は変わるだろうが……
そういう意味で、もし仮に先に挙げたような官庁訪問以前でのパフォーマンスが良かった学生がいた場合、それを人事課が"覚えている"ことは十二分に考えられる。それは人間である以上仕方ないことであって、それに基づく多少の色眼鏡が存在することはほぼ間違いない事実であろうし、それを責めることは出来ない。
しかし一方で、ここまで述べた『人事課職員の好印象』を超えるレベルでの優遇をしている、あるいはその”優遇”がないと内々定をもらえないかと言われれば、少なくとも私が回った3省庁ではそんなことは全くないと思うし、大抵の省庁も同様だろうと考える。つまり、囲い込みが事実上の早期選考として機能している、あるいは説明会等が俗に言う『スタンプラリー』と化しているようなことはまずないということだ。一部の省庁には黒い噂もちらほらとあるが……
これを読んでいる官庁訪問予定の諸兄には、あまり囲い込みがどうこうということは気にせず、自分の興味関心の赴くまま説明会やワークショップに参加してほしいと思う。結果として、その行動が内定への距離を近づけることになるのは間違いないし、実際説明会で得た知識に助けられた場面もいくつもあった。
④圧迫面接等
最後はこれについて話していこうと思う。これは官庁訪問に限った話ではないが、一昔前まで就職活動での面接に、『圧迫面接』はつきものだった。有名なのだと、『このままだと落とすけど、どうする?』などがあるだろうか。ともかく、就職後の仕事でのストレス耐性を見るためにキツめの物言いをし、就活生の反応を見て評価に付け加えるというこの一種の文化は、今では忌むべきものとして殆どの企業では排斥されている。
それでは、官庁訪問においてはどうだろうか?
これに関しては『圧迫面接』の捉え方による、と言ったところである。先ほど挙げたような例にあるように、相手の人格を否定したり罵倒したりというようなテンプレのような圧迫面接はほぼ存在しないと言っていいと思う。人手不足が騒がれている今、そんなコテコテの圧迫面接などすればあっという間に噂になってしまう。
一方で、官庁訪問を通してずっと面接が穏やかな雰囲気だったかと言うと、それもまた違った。よく『詰められる』と表現されるが、官庁訪問ではとことん『言ってることの整合性』、言い換えれば『論理が一貫しているかどうか』を徹底的に見られる。当然我々訪問者が考える政策や意見なんて言うものは大概どこかしら破綻しており、現職の官僚からすればその点について追及することは容易。当然、(語気自体は至って穏やかなことが殆どだが)徹底的に詰められることになる。
これを『圧迫』だと感じるならば、官庁訪問は恐らく圧迫面接だらけになる、という結論になる。これは私の意見になるが、官庁訪問というのが(実態はともかくとして、少なくとも建前上は)政策立案を行っていく職員を採用するために行われている以上、その点について厳しく問われることは仕方ないと思う。
まとめ
ここまで、官庁訪問の『うわさ』についてつらつらと書いてきたが、諸々の制約もあり歯切れの悪い言葉に終始してしまったことは非常に申し訳なく、読者諸兄に対して深くお詫び申し上げたい。
これは私のnote全体において言えることだが、身分を明かせない以上、私の体験記には裏付けを欠き、信用に足る情報ではない部分も非常に多い。身分や訪問省庁を明かし、読者諸兄に対して誠意ある態度を見せるべきなのは重々承知しているが、そう出来ない事情があることをご了解いただきたい。
第3クール、第4クールはともに1省庁しか訪問しなかったため必然的に分量も少ない。その為、恐らく次回で官庁訪問体験記は最終回となると思う。それでは。