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働かないアリの正体

アリの群れの中には、働くアリと働かないアリがいるというのは、よく知られている話だと思う。今回は、その話を掘り下げて書く。

仮説としては昔からあったのだが、ハッキリと確認されたのは、2015年だ。アリゾナ大学やオックスフォード大学の学者たちが行った研究で、詳しいことがわかった。


ダニエル・シャルボノー氏によって
観察のためにマーキングされたアリたち

① 季節性や種類別で多少の差はあれど、平均して40%のアリが、ほとんど活動していないことが判明した。

② コロニーの中から、活動的なアリを20%とりのぞいた。すると、非活動的なアリが活動的なアリへと変わった。およそ1週間で、群れから失われた労働力は、すっかり回復した。

働くアリが何割か消失するーーこれは、自然に起こり得ることだ。越冬するアリは、雪に埋もれて、大量に死んだりするし。

③ 4タイプのアリが存在することがわかった。

・働かないアリ:基本座っている
・ウォーカー:巣の周りをうろうろし続ける
・働くアリA:食べ物をとってきたり防護壁を作ったりと、外で仕事をする
・働くアリB:子アリの世話をする

※ウォーカーが、情報収集などをしていないとも限らない。
※座っているアリも、他のアリの毛づくろいをすることがある。

④ 非活動的なアリは、腹部が膨らんでいる。太っているのが、怠けた「結果」なのかは、定かではない。働き手が減れば働き出すのだから、体力を温存しているのかもしれない。

⑤ コロニーの中から、非活動的なアリをとりのぞいても、活動的なアリが非活動的なアリに変わることはなかった。

言うまでもなく。需要と供給の調整は、社会性昆虫特有のものではない。

人間も、需要の高まりに対応して、倉庫に物品をストックしたりする。繁忙期には、派遣労働者を追加雇用したりする。

つまり、集団を最適に組織しようとする。

⑥ 若いアリは、コロニーの中で、まだ弱い存在である。働いていないのは、若いアリなのではないか。不公平などではなく。(研究者らの推測)

要するに、一切働けなくなった時 = 死んだ時だと。それ以上に高度な調整は、できない/しないと。あり得る。子アリが働ける若者アリに育った分、老いて弱まったアリから休ませていく。このようなことはできない/しないーーそうかもしれない。

たしかに、予備労働力を休ませておくのと、先がないものを休ませるのとでは、コスト・パフォーマンスが全く異なる。


①~⑥ で推測できることをまとめると。

働いてないアリは、今働いていないだけで、いつかは働く。若さが理由だとすると、特に、順番なだけ。完全に働かないで終わったのなら、パターンとして、それは早死にした個体である。

研究者たちの1人が、辛辣なコメントを残している。

「非活動的なアリのような、牧歌的で余暇に満ちた生活に、あこがれる人もいるかもしれないが。評判のよいやり手の同僚から見れば、あなたは、匿名の使い捨ての労働単位だ」


もう1つ。アリに関する興味深い話を。

アリは、ヒトや他の社会的哺乳類と同様に、社会的孤立にネガティブに反応するーーという話。

『Molecular Ecology』誌に発表された、イスラエルとドイツのチームの研究。

育児をするアリを、数時間から28日まで、さまざまな期間で孤立させた。

寿命5年ほどの種類のアリで実験したようだが、28日はえぐい。集団生活生物なのに……。

隔離されている間の行動には、個体差がかなり見られたという。当たり前だ。育児対象を失っただけでなく、仲間も他の仕事も、突然全てが消えた世界に行かされたのだから。

本当かわいそうなんだけど

隔離からまた集団に戻すと。

・コロニーの仲間に興味を示さなくなった。
・自分の毛づくろいをする時間が減った。
・子アリの世話をする時間は長くなった。

人間で言い表すなら
・友達づきあいが下手になった。
・自分の身なりに無とんちゃくになった。
・久しぶりの仕事には勢力的になった。
こんな感じである。

より詳しく調べたところ。免疫系機能とストレス反応に関する遺伝子の多くが、下方制御されていた。カラダもココロも、病みやすくなっていたということ。

貼ったのは、また別の研究機会の結果だが。えぐい。こんな実験、たとえば犬猫でやったら、非難轟々だろうに。


孤立の影響について。社会性哺乳類では、たくさんの研究が行われてきた。社会性昆虫に対しては、これが初の試みだったわけだが。

社会性昆虫にも、同様の結果が見られたというわけだ。

改めて、孤独に関する問題を考える。